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第2話 ロディ、朝食で

 ロディが食堂に入ると、大人の男1人と10人の子供たちがテーブルの席についていた。テーブルにはすでに朝食が並んでいる。


「遅いぞ、ロディ。何してたんだ。」


 大人の男が声を荒げてロディに言った。


「すみません。」

「まったく。今日はお前の鑑定の儀だから待ってやったが、普通なら朝メシ抜きだぞ。」


その男はモイスといい、この孤児院の管理人だ。歳は50歳くらい。身長150cmくらいの小男で、頭髪はだいぶ薄く、いつも不機嫌そうな表情をしている。


 ロディは急いで自分の席に着く。


ロディは自分の前の朝食を見た。朝食は黒パン1個と野草サラダ、それにスープだった。

黒パンは硬く、小さな子供はなかなか噛むことが出来ないくらいのもの。野草サラダは孤児院の庭で育てている食べられる野菜と野草が入っている。スープは薄く、やはり自家製野菜が入っているだけ。要するに、質も量もあまりいい食事ではなかった。


(あれ、おかしいな。)

ロディは疑問に思い、モイスに質問した。


「モイスさん。今日は僕の鑑定の儀なんですが、朝食はこれですか。」


モイスはロディの言葉に不機嫌そうな目をギロリと向けた。


「飯が不満か?」

「これまで鑑定の儀の日には少し良い食事が出たと思いますが。」

「金が無いんだ。今回儀式を受けるのはお前ひとりだ。一人の為だけに食事を豪華にするのは割に合わん。だから普通と同じ飯だ」

「でも・・」

「なんだ、不満なら食わなくていいんだぞ。」

「・・・いえ。」


 ロディはモイスの口調に、無駄を悟って口を閉ざした。 そして仕方なく食事を始めた。


 食事中に周りを見ると、他の子供達もがっかりした顔や不満な表情を浮かべている。これまで鑑定の儀の日の食事は少しだけ豪華だったから、そうなるのも当然だった。

(はあ、過去を懐かしんでも仕方ないけど、あの人は良い人だったな。)

 ロディは前の管理人だった人の事を思い出していた。


 前の管理人は、マリアンという名の女性だった。

 すこし小太りで、ほんわかとした雰囲気のある優しい人で、実はロディとエマが孤児院に初めて来たときの夢に出てきた、最初の女の人だ。

 彼女が管理人の時には、貧しくはあったが孤児院内は明るかった。彼女は少ないお金で何とかやりくりしていて、いつも孤児たちのためを思って行動していた。ロディ兄妹にとっても親代わりの恩人であった。


 そんな彼女は、残念ながら昨年はやり病にかかり、歳だったこともあり病は治らず亡くなってしまった。彼女が亡くなった時は、ロディだけでなく孤児全員が泣いて悲しんだものだった。


 彼女の死後、代わりに管理人になったのがモイスだ。

孤児院は領主の資金により運営されていて、当然管理人も領主関係の裁量なのだから、孤児たちにどうこうできる話ではない。

 しかし管理人がモイスになってからというもの、生活が徐々に、確実に悪くなっていた。衣服は新しいものは買えず、孤児院の壊れた所も満足に修理できていない。

特に悪くなったのは食事だ。マリアンの時には、子供たちの成長を考えて最低でも腹が満たせるものが用意され、また特別な日には少ないながら肉が入っている食事が出されたものだが、モイスになってからは先ほどの朝食と同じように量も質もとても満足できるものではなくなった。

 孤児の一人の女の子ががなぜなのかモイスに聞いたことがある。するとモイスは怒った口調で「お前たちに言っても分からん。下らんことを聞くな。」と、暴力を振るわんばかりに喚いたため、女の子は泣き出してしまった。


 ロディは、おそらくモイスが私腹を肥やしていると考えているが、証拠があるわけでもなく、子供では調べようがない。

 しかしこの孤児院に居続けるのはあまりいいことじゃないと確信し、早く孤児院を出ることを考えていた。


 幸いなことにロディは12歳になり、今日鑑定の儀を受けギフトを授かる。この国では子供が12歳になってギフトを授かると、一般的には”一人前の大人”として扱われることになり、職を求めたりして独立するのが普通だ。


 ロディも、今日ギフトを授かった後に職を探して仕事をして孤児院を出るつもりだった。


--------


 食事を食べ終わり後片付けをすると、鑑定の儀の時間が近づいていた。今日この孤児院から鑑定の儀に出るのはロディだけで、後は全員ロディよりも小さな子供達だけだ。


「じゃあ、そろそろ行ってくるよ。」


ロディはエマ以下ほかの子供達にも声をかける。


「ロディお兄ちゃん、行ってらっしゃい。」

「いいギフトが授かりますように。」


子供たちは口々にロディを応援した。

と、そこにモイスが近づいて声をかけた。


「ロディ、お前も今日から一人前だから、明日にはこの孤児院を出ていくようにな。」

「え、明日?」


いきなりの酷い言葉にロディは絶句した。

これまで鑑定の儀のあと孤児院から出る先輩たちは、さすがに身支度の為数日は孤児院で準備して出立していった。だが今回からそれもなく無慈悲に追い出されようとしている。


「仕事が決まっても、準備の為少し孤児院にいたいのですが。」

「ダメだ。ギフトをもらったら退去するのが決まりだ。むしろ明日にしただけありがたく思え。」

「しかしそれじゃあまりにも、」

「ダメだと言ったらダメだ。それじゃお前は何か?数日分余計に飯を食って、それだけほかの子供たちの飯を減らせっていうのか?」

「・・・」


モイスのあまりの言い分に怒りの気持ちが湧き上がってくるロディ。しかし『残る子供の食事の量が減る』と言われたら反論のしようが無い。


「分かりました。明日、孤児院を出ます。」


ロディは怒りを抑えながらそう答えた。それを聞いて満足そうな笑みを浮かべた小男は、ロディたちに背を向けて建物の奥に消えていった。


「お兄ちゃん、明日出ていくって大丈夫?。」


エマが心配顔でロディに近寄ってくる。他の子供達も同様にロディのそばに寄る。

ギフトをもらったら遅かれ早かれ孤児院を出ることは子供達も分かっていたが、あまりにも急な話だったので悲しいより驚いている気持ちが強いようだ。


「仕方ないよ、決まりだから。お前たちの食べ物を減らすわけにはいかないし。」


そう言ったロディだったが、ロディの分の食事が彼らのお腹に入るとは考えていなかった。おそらくあの子男の懐に入るのだろう。


「ロディにいちゃん。頑張っていいギフトもらってね。」

「ああ、わかったよ。」


頑張ってどうにかなるものではないのだが、小さな子供の激励を無碍にはできない。ロディは笑って応えるのだった。


ロディは顔を上げてエマを見た。エマもロディを見ていて、そして言った。


「お兄ちゃん、行ってらっしゃい。いいギフトであることを願ってる。」

「ありがとう。」


ロディの心には、エマに関するある決心があった。

子供のころ、『妹を守る』と心に決めたことは今も変わらない。妹を、エマを不幸にしたくない。ならばどうするのか。ギフトを得た時、ロディが彼女に出来ることは何か。そのことはもう彼の中で決まっていた。


「行ってきます。」


ロディは残る子供たち全員にニッコリと笑顔を見せて、玄関を開けて孤児院を出発した。

鑑定の儀に向けて。そしてその先に向かって。

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