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第6話 ロディ、気づく

 グレートイーグルははるか上空でロディたちの回りを悠々と旋回している。その様子から、あきらめるつもりは無いようだ。

 ロディはフッと息を吐き、そして心を落ち着かせた。


 通常の攻撃魔法はグレートイーグルに感づかれてしまう。火魔法も水魔法も風魔法も土魔法も、見えるもしくは感じられてしまうため、使えそうにない。

 だからロディは別の魔法を使うことを考え、準備していた。その魔法は、見えないので避けられる心配は少ないだろう。

 しかしなにせグレートイーグルは素早い。動き回る相手に魔法をかけるのも難しいのだ。それに射程距離もあるので、上空をゆっくり飛んでいる今の距離では届かない。

 なのでロディとしては、グレートイーグルが攻撃のために降下してくる途中の、射程距離に入ったところで魔法を行使するよりほかにない。が、降下中なので、近づけば近づくほどスピードが乗ってくる。


(まだスピードが完全に乗っていない、射程ギリギリの距離で魔法を発動させるしかない。やれるか・・・いや、やるしかないな。)


 そう心を決めたロディはみんなを見渡して宣言した。


「みんな、浮遊魔法を使ってみる。けど、ぶっつけ本番なのでうまくいかないかもしれない。ダメだったら何とか避けてくれ。」


 ロディは『浮遊魔法』を使うことをあらかじめ伝えた。


「浮遊魔法!?なんで?飛んでる相手に効くのか!?」


 ロディの言葉を聞いてテオが疑問を口にする。これは当然だ。空飛ぶ相手をさらに浮遊させても仕方ないと考えるのが普通だろう。


「ま、浮遊魔法だけど、浮遊はさせないよ。」

「え、それってどういう・・・」

「・・・!!来たわよ。」


 エマがさらに質問しようとしたが、それは時間が許さなかった。ナコリナの声に皆が一斉に上空を見上げると、グレートイーグルが旋回をやめて降下の体勢に入っているのが見えた。


「ぶっつけ本番だが、やるしかない!」

「自信があるようね。任せたわよ、ロディ。」


 

 グレートイーグルが降下のスピードを上げながらぐんぐん迫ってくる。狙われているレミアは必ず守らなければならない。

 ロディは、一瞬のタイミングを外さないよう、さらに神経を研ぎ澄ませた。意識を敵に集中してタイミングを計っている。うっすらと額に汗がにじむ。


「・・・今だ!」


 気合の入った声とともに、ロディの魔法が発動する。

ただ、その魔法は全く見えない。どんな魔法を発動させたのか、ロディ以外には分からなかった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 かたずをのんで降下してくる敵を見る5人(と一体)。

 魔法は発動したはずだ。しかしグレートイーグルに変化はなく降下を続けている。


(外したか!?)


 ロディは内心大いに焦った。魔法が効かず、グレートイーグルの上空からの突進を食らっては、ロディ達のパーティが危機に陥る。ロディは迎撃しようと再び剣を握りなおして構えた。

 が、それは杞憂だった。

 グレートイーグルの軌道が、まっずぐの降下からややズレたように見えた。そして次に身を捩るような動きを見せ始めた。そのズレと身の捩りは、時間とともに大きくなっていった。


「ヤツの動きが変だぜ。魔法がかかったか。」


 グレートイーグルがしきりに翼を動かして修正しようとしているが、うまくいかないようにバタついている。よく見ると片方の翼を大きく動かしている。

 いや、逆だ。大きく動かしているのではない。もう片方の翼が動いていないのだ。


「ぶつかるわ!」


 降下中に制御できなくなったグレートイーグルは、そのまま落下し地面に激突するかのように見えた。 しかし地面に近づいたところでなんとか正面衝突を回避した。

 だが落下の威力は完全には止めることはできず、斜めからこするように地面に接触。一度バウンドして、再度地面に身をぶつけ、こすり転げて行った。


「ギヤァァァ」


 転げまわりながらグレートイーグルは初めて鳴き声を上げる。

 グレートイーグルは声を上ながら地面を水平に移動して行き、何とか止まった。


「ギ、ギ、ァァァ・・・」


 声に苦しい感情がこもっている。おそらく大きなダメージを受けているだろう。それでもグレートイーグルは大きな翼を広げて必死にバタついている。

 だが、どうやら片方の翼だけしか動かないようで、飛び立つことが出来ず地面に体を預けたまま、円を描くかのように地面に跡を残しながら移動するだけだ。


「チャンスよ!」

「よし!」

 

 エマの声にテオがグレートイーグルに飛びかかった。

 テオは、暴れるグレートイーグルの足と翼をうまく避けて懐深く入り込み、首筋に剣を突き立てた


「ギッ!」


 テオの短剣は正確にグレートイーグルの喉を突き、そして深く入り込んだのが見えた。鮮血が地面に大量に流れ落ちる。

 致命傷を負わせたと確信したテオは飛びのいて距離を取る。

 血を流しながらしばらくバタついたグレートイーグルだったが、やがてその動きは徐々に小さくなり、そして、動かなくなった。


「・・・やったな、テオ。」


 魔物を倒したことを確認し、ロディがテオに声をかけた。


「ああ、やったぜ。」


 得意そうに振り向くテオ。満面の笑みがこぼれていた。


「ロディの魔法が効いたからでしょ。あんまり自慢するもんじゃないわよ。」


 テオの自慢そうな姿に、ちょっと皮肉っぽくエマがからかう。


「な、・・・そうかもしれねえけど、とどめを刺したんだし、自慢してもいいじゃねえか。」

「そうだな。俺の魔法は致命傷は与えられないし、完全に動きは止められない。暴れてる魔物に近づいてとどめを刺すのも技量がいるんだ。テオの手柄が一番大きいさ。」


 そう言ってロディはテオを褒める。実際ロディは今回の戦いではあまり自慢する気にはならないのだ。そう、実は最後の魔法は、ある意味”失敗”だったからだ。


「でもロディの魔法に効果があったのは間違いないわよ。ねえ、何の魔法を使ったの。単純な浮遊魔法じゃないでしょ。」


 そうナコリナが聞いてきた。確かに話途中で攻撃を開始されたので、最後まで説明しきれていなかった。


「ああ、使ったのは浮遊魔法だけど、そのままじゃない。浮遊魔法の『反対』の魔法だ。」

「浮遊魔法の反対、って何なのだ?浮かなくなる魔法なのだ?」

「あ、それって、前に検証したあの魔法?」


 ロディの言葉に気づいたのはナコリナだった。その言葉にロディは笑顔で肯定した。


「そう。魔法陣の中央部分を反転させた魔法。浮遊しなくて、逆に体がすごく重くなって動けなくなった、あの魔法だよ。」


 以前、フェイ師匠からもらった魔法を検証した時に分かった、「修正」を行った浮遊魔法の魔法の効果は、体を浮かすことではなく、逆に重くするというものだった。

 それを思い出し、空を飛ぶグレートイーグルを重くしたら、空を飛べ無くすることが出来るのでは、と考えたのだ。そしてロディはグレートイーグルに対しその魔法を使ってみたのだ。結果は大成功。見事グレートイーグルを怪我無く倒すことが出来たのだ。


 結果は上々だがロディの顔はどことなく浮かない。

 そう、ロディは知っている。実はさっきの魔法は一部失敗したものだったのだ。

 ロディは重くする魔法の狙いは、グレートイーグルの翼片方ではなく、実は全身を狙っていた。しかしあまりのスピードの速さに、魔法の目標がずれてしまっていたのだ。

 今回は幸運にもそれが功を奏した。片方の翼が重くなってバランスを崩したグレートイーグルは、もはやうまく飛ぶことはできなかった。飛行する魔物は実は繊細なバランス操作を必要とする。バランスが崩れれば飛ぶことはできない。

 そして飛べなくなったグレートイーグルは、魔物としての力は半減したも同然だったのだ。

 もし体全体を重くしていたら、グレートイーグルはまだ飛ぶことは出来たのかもしれない。そういった意味では、「試合に負けて勝負に勝った」という感じだろう。


 しかしこれは今後の冒険者活動において非常に有用な結果だ。

 空を飛ぶ魔物を苦手とする冒険者は多い。というより、得意とする冒険者はまずいない。なにせ空中を自在に動けるし、傷を負わせたとしても攻撃の届かない安全圏に逃げられる、そこからの攻撃手段がある魔物はさらに厄介だ。だから多くの冒険者は空飛ぶ魔物を忌み嫌う。

 しかし、ロディのこの魔法はそれら空飛ぶ魔物に対して非常に有効だ。それが分かっただけでも今回の戦闘は大収穫なのだった。




 倒したグレートイーグルを解体し終えて馬車に戻る途中、ロディはふと立ち止まって周辺を見渡した。

 そして馬車に目を戻して、何かを考えるかのように顎に手を当てた。


「ロディ、どうしたのだ?何かあるのだ?」

「・・・いや、何でもない。」


 心配そうに声をかけたレミアに、ロディは振り向いて笑顔を見せ、再び歩き出した。


 この時、ロディは気付いていた。

 彼らと馬車から少し離れたところに、3人の人物がいることを。そしてその3人は、カスバ―の街からずっとこちらを見ていたことを。

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