第8話 ロディ、魔法陣の講義を受ける 2
講義が中盤を過ぎ少しの休憩を挟んだのち、エリザマス講師から各人に3枚ずつの紙が配られた。その紙にはそれぞれ一つずつ、計3つの魔法陣が書かれていた。
現在ある88の魔法陣は国に管理されているが、そのうち比較的簡易で取得魔力が低い20程度の魔法陣の図は、グライムス魔法陣事件以前にすでにかなりの種類の魔法陣が相当数出回っていたため、すべての魔法陣を隠匿して国で管理するのは困難だった。
そのため、一般的に流布されていなかった高難度の魔法陣は一般には目の触れないようにする一方、すでに大量に出回っていた簡易な生活魔法や、「ファイヤーボール」「ウオーターボール」「サンドウオール」「エアカッター」などのように冒険者が魔物狩りなどでよく使う下級魔法は、管理対象外となった。
エリザマス講師が配った魔法陣は、このうちの一つだ。
「すでに話したザマスが、魔法陣の手本を正確に模写することが魔法陣製作士にとって必須ザマス。実技試験では魔法陣の書き写しが必ずあるザマスので今からそれを練習するザマス。今配った紙には一般的に知られている簡単な魔法陣が3つ描かれているザマス。今から1時間、その魔法陣を丁寧に、出来るだけ正確に書き写すザマス。」
同時に何も書かれていない紙とインクも渡された。これらは魔法陣専用の紙やインクではなく、練習用に使う普通の紙とインクだ。
「あの、エリザベス講師。1時間に3つもですか。」
参加者の一人が質問する。
「そうザマス。試験で出題される魔法陣はこれより複雑ザマス。そのくらいできるようになければ試験に通らないザマスよ。さあ、もう1時間は始まっているザマスよ。」
エリザマス講師は、さも当然と言うように突き放す。みんなは慌てて一斉に魔法陣を無地の紙に写しはじめた。
彼らは準備していたペンやコンパス、定規、曲線定規などの道具を駆使して魔法陣を描いていく。彼らは懸命にお手本の魔法陣をできるだけ正確に、そしてなるべく早く模写していった。
魔法陣は、「魔紙」に「魔法陣インク」で「正確に」描かないと発動しない為、魔法陣製作士は正確さが最重要視される。
さらにもう一つ、紙についての話をする。紙は現在では羊皮紙ではなく、安価な植物紙が一般的に流通している。これには先述の魔紙が関係している。
魔紙を作るには、特定の高価な部材を使用するため高価だが、その製造方法は転用することができ、ごく一般的なの植物の素材を使用することで、安価な「紙」を製造することが可能になったのだ。
この安価な紙は、情報伝達、記録、教育、商業などのあらゆる面で影響を与え、文化の発展に多大なる貢献をしている。
ある研究者は「コロンビア部族の最大の功績は魔法陣の伝承ではない。植物から「紙」を作る製法の伝承こそ最大の功績だ。」と主張しているくらいだ。
「はい、そこまでザマス。」
どうやら1時間がたったようだ。部屋が一気にざわついて、
「もう1時間経ったの?」
「全然できてないよ・・。」
と聞こえてくる。ロディは教室を眺めたが、みんな大体1枚前後出来ているかというところだ。3枚はおろか2枚を完成させた人はいなかった。
「全部できた人はいないようザマスね。試験ではこれよりも大きくて細かい魔法陣の書写が出るザマス。これくらいの魔法陣なら3枚1時間で描けるようになるザマス。その魔法陣はあなたたちにあげるザマスから、練習して早く正確に描けるようになるザマス。」
ロディは自分の描いた魔法陣を見る。彼の魔法陣は1枚の完成に少し足りないくらいしかできていない。
(遅すぎる・・)
自分の出来の悪さに気落ちしながら、お手本として配られた魔法陣を眺める。
ふと、左下のサインに気づいた。『エリザベス』と読める。
魔法陣を描いた製作士はその責任を明らかにするため自分のサインを入れる決まりがあるため、これはエリザベス講師が描いたもののようだ。
(ということは、エリザマス・・・いやエリザベス講師は全員分の魔法陣を自分で描いて用意したってことか。7人分で21枚、予備も考えるとそれ以上。すごいな、どれだけ時間がかかっただろう。)
初歩の魔法陣とはいえ、それだけ用意するのにはかなり大変だろう。エリザベス講師は厳しいけどいい人なんじゃないかな。
ロディは心の中でエリザベス講師に感謝したのだった。
ほかにもエリザベス講師から様々なことを教わった。
「魔法陣はその魔法効果が高くなるほど図形の複雑さが増していく。」
「魔法陣を大きく描くと魔法の効果は上がるが、必要な魔力量はそれ以上に増えるので、それぞれの魔法陣で最適なサイズが決められている。」
「間違って魔力を流して発動させてしまわない為、魔法陣を描くときは必ず特殊な手袋を付けなければならない。」etc.
「では魔法陣の講義はここまでザマス。今日の講義を参考に勉強して、ここから一人でも多くの魔法陣製作士が誕生することを願っているザマス。」




