第3話 ロディ、出発が遅れる
「ここから王都までは3日間の距離よ。道は大きな街道で結構人通りもあって、周辺も開けた場所が多いわ。」
馬車は2頭立ての幌付きのもので、木箱10箱を積み込んだスペースに5人が乗るにはやや狭いが乗れなくはないほどだ。
馬車に荷物をしっかりと積み込んだあと、キシリヤが5人に王都までの状況について説明する。
「警邏隊も巡回してるから盗賊なんかはほとんど見ることは無いわ。ただ最近ちょっと戦があちこちであったので、兵士崩れの盗賊の可能性もあるから油断はできないわよ。」
2年ほど前のクーデター、その影響がいまだに残っているという。
「ま、アジトとか作れるような場所もあまりないから、盗賊はそれほど心配しなくてもいいがな。それよりも注意すべきは、魔獣だな。」
アレクが補足して話す。盗賊より魔獣が心配という。
「このあたりに強い魔獣は出るのか?」
テオが質問する。この辺りは森も少なく山もあまり近くない。魔獣が出る可能性も少ないと考えていたとこなのだが。
「そんなに強い魔獣は出ねえな。ただたまにはぐれた魔獣が街道に出るときがある。こいつは他所から移動してきている分、意外に強いからな。そんときゃ頼むぜ。」
「なるほど、じゃあ・・・」
それを聞いて、ロディは少し考える。
「もし盗賊や、魔獣に襲われたときは、アレクと馬2頭、それからロスゼマさんの荷物を守る必要がある。俺たちは2組に分けるか。馬車を守る組と、敵に攻撃する組と・・・。」
「おっと、馬車の守りは考えなくてもいいぜ。」
ロディの言葉を聞いたアレクが言葉を挟んできた。馬車の守りは要らないという。少し驚くロディたち。
「え、なんでなのだ?魔物が複数だったら危険なのだ。」
レミアが聞くと、アレクはニヤリと笑って言った。
「馬車は俺が守る。お前らが漏らした敵くらいなら、俺が対応してやるよ。」
「え?でも、危険よ。大丈夫なの?」
エマがアレクに問うと、彼はおどけたように、握った手の親指を自分に向けたアレク。
「おっと、かわいこちゃん見損ないなさんな。俺はこれでも強いんだ。なんせ冒険者も兼ねてるからな。」
「え、冒険者なのか?御者だけでなく。」
「そうよ。で、ランクはBだぜ。」
「「「「「ええ!?」」」」」
ロディたちはアレクのランクを聞いて驚きの声を上げた。御者と思ってた男が、実はBランクのツワモノだとは思っても見なかったのだ。
Bランクはロディと同じランクだ。少なくともロディと同じくらいの強さを持つと考えてもいい。ロディはBランクに上がったばっかりだから、もしかしたらより強いかもしれない。
「馬車くらい守れなきゃロスゼマさんから信頼されて依頼されねえのさ。あたりまえだろ?」
そう言って胸を張るアレク。
その言葉を聞いてロディたちは納得した。確かにロスゼマなら御者にも強さを求めそうだ。『御者だからって荷物くらい守れなくてどうするんだい!』とか言っているのがありありと想像できる。
「剣とは武器は?ショートソードくらいしかもってなさそうだけど。」
「ああ、馬車に剣を隠して置いてある。街中じゃ剣は邪魔なんでな。」
「へー、単なる御者じゃないのね。すごいじゃない。」
「へへ、まあね。かわいこちゃんに褒められるのは嬉しいねえ。」
エマの誉め言葉にアレクが笑顔を向けた。
それまでの評価が『女好きのアレク』であったのだが、見直したようにアレクを褒めるエマ。まあ『女好き』評価は変わらないところだが。
エマのその様子を見てテオが少し苦々しい表情を浮かべる。ライバル、とまではいかないまでも、少しスペックが高そうな男にエマが気を向けるのを見るのはいい気がしないのだろう。
「じゃあ馬車の守りは任せるよ。俺たちは外敵に専念する。」
「おう、任された。」
「じゃ、敵が出たら5人全員で対応することにする。隊形などは状況を見てその都度俺が判断する。みんないいかな。」
「「「「わかった(のだ)。」」」」
「ん??」
ロディの言葉を聞いてまとまる5人だったが、同時に不思議そうな声を上げる者が居た。
アレクである。
「お前ら5人なのか?」
「え、そうだけど。」
怪訝そうな顔をして近づくアレクに、戸惑ったロディ。何か問題があるのだろうか?
「5人じゃねえんじゃねえか?」
「なんで?俺たちは5人しかいないが。」
「そんなはずはねえ。もう一人いるだろ?」
そう言ったアレクの視線は、ロディのショルダーバッグに注がれている。
「・・・いや、もう一体か。」
そうい言い直したアレクの言葉にロディ達はあっ、と気づいた。バッグの中に、”仲間”がいることを。
「魔力が少し漏れてきてるぜ。この中にテイムした魔物がいるんじゃないか?」
アレクに指摘されてようやく気付いた。鞄の中にヒュージスライムのヒューがいることを。
実はこの街に入る前に、ヒューには鞄の中に入っておとなしくしてもらっていたのだ。テイムした魔物は結構珍しい。それにヒューは普通のスライムとは”少し”違う。それを見る人が見たら騒ぎになるかもしれない。可能性は低いが変に騒ぎにならないようにヒューは隠れていた。
それを見事に言い当てたアレク。さすがBランクだと思いながら、ロディは鞄に手をかけた。
「よくわかったなアレク。確かに俺はスライムをテイムしてるんだ。名前はヒュー。おーい、ヒュー、出ておいで。」
ロディが鞄を開けると、待っていたかのようにヒューが勢いよく飛び出してきて、ロディの左肩の上に飛び乗ってきた。
ヒューは今は20cmくらいに小さく縮ませている状態で、本来の大きさではない。そのためなのか、バッグの中で体が凝っていたのか、ロディの肩の上でしきりにプルプルと動いている。
「おお、こいつ、スライムか。ま、テイムする魔物としては普通だが。ん-・・・」
アレクが肩に乗ったヒューをしきりにじろじろと眺めている。
「・・・魔力が普通じゃねえな。それに少し青っぽい。ただのスライムじゃねえだろ。」
かなり核心を突かれてロディはどぎまぎした。フェイ師匠からは騒ぎを避けるため出来るだけヒューの正体を隠すように指示されている。ロディはごまかすように言った。
「はは、まあね。・・・詳しくは秘密だけどね。」
「ちぇっ、秘密かよ。・・・ま、冒険者の秘密を探るのは良くねえからな。しかたねえ、言いたくなったら教えてくれよな。」
アレクはすこしロディを睨むように見ていたが、やがてあきらめたように視線をやわらげてロディに言った。
ロディ達は少しほっとした。何とか面倒なことにならずに済んだ。そう思っていた。
のだが・・・
「きゃー!!」
と、悲鳴にも似た甲高い声が聞こえてきた。キシリヤの声だ。
全員が驚いてキシリヤを振り向く。ロディ、アレク、テオが自分の武器に手をかけて警戒しながら。
キシリヤは、両手で口を覆ってこちらを見ていた。少しぶるぶると震えながら、そして顔を赤らめながら・・・
「か・・・」
「・・・」
「かわいい・・・。」
「・・・は?」
そう言ったキシリヤの視線はロディを見ていた。
いや、正確にはロディではない。ロディの方に乗った生物を、見ていた。
「かわいい!!」
「うわ!?」
キシリヤがダッシュでロディのもとに突っ込んできて、あっという間に肩のヒューを奪い取って抱きしめた。
その様子を見て全員あきれると同時にホッとしていた。
キシリヤの悲鳴(?)はヒューを見た歓声だったのだ。
「・・・なんだよ。驚かすなよ。」
アレクがため息をつきながらゆっくりと姿勢を戻す。そしてロディ達に視線を向けて言った。
「キシリヤはかわいいものには目がないんだ。小さい犬とか猫とかそういった動物などが好きなんだよ。んで、そのヒューもその一員になったってわけさ。」
そう言ってアレクは首を振りながら肩をすくめた。
キシリヤはかわいい動物好き。そしてヒューもその好みに当てはまったということらしい。
キシリヤはヒューを抱えながらしきりに頬ずりしている。ヒューはと言うと、すこし戸惑いながらもなすがままになっている。それを見て、主に女性陣は”わかるわかる”とでもいうようにうなづいている。
テイムしているヒューの気持ちが少しわかるロディは、『ヒューもまんざらでもないようだ。ま、ヒューが嫌じゃなきゃいいか』と思ったのだった。
が、このあとが大変だった。
なかなかヒューを離したがらないキシリヤのせいで、馬車の出発が予定より大幅に遅れる羽目になってしまったのだった。
出発はすでに日が頂点を過ぎてだいぶ経ってしまったころ。
「やばい、急がねえと次の村までいけねえ。最悪野宿になるぞ。」
焦ったアレクの声と共に、ロディ達はカスバ―の街を出立したのだった。




