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第60話 ロディ、見送りを受ける

 時と言うものは忙しければ忙しいほど早く過ぎていく。

 フェイの屋敷に呼び出されたあと、残る2日間で旅立ちのための準備を進めたロディたち。


 そして今日、ザイフの街を発つ日を迎えた。


 この日は春の日差しが街中を暖かく包んでいる。

 気持ち良い快晴の光の中、フェイの屋敷の門前にロディたちが居た。彼らの目の前にはフェイ、エリー、ロスゼマがにこやかに、しかし寂しそうに佇んでいた。


 3人の後ろには護衛の騎士がいるのだが、エリーの命令で少し遠巻きに立っている。それでも油断なく護衛対象であるエリーから目を離すことはない。


「ごめんなさいね、出発の日にこんなところに呼び出して。本当は門のところで見送りをしたかったんだけど、『街の門では護衛ができない』って言われて、許してもらえなかったのよ。」


 エリーがすまなそうにそう言いながらロディたち全員を見渡すように視線を振り向ける。

 太后であるエリーはこの国の重要人物で、群衆が行きかう街の門まで足を運ぶことは簡単にできることではなかった。そのため、見送りをこのフェイの館の門前で行うことにしたのだ。


「いえ、わざわざ見送っていただけるだけでも嬉しいです。」

「そうです。本来の立場なら見送りなんてしてもらえませんから。」

「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると少し気持ちが軽くなるわ。」


 エリーは少し安心した笑顔をみせそしてまた話をつづけた。


「旅は楽しい事ばかりじゃないけど、あなたたちならきっと大丈夫。いろいろな困難をみんなで乗り越えて、成長してらっしゃい。そしてまた、機会があればこのザイフの街にも顔を見せに来なさいな。いつでも歓迎するわ。」

「ありがとうございます。近くに来たら必ず立ち寄ります。」

「この街は美味しいものがいっぱいあったのだ。また来たいのだ。」

「・・・お前、この状況でもまったくブレないな。」


 レミアとテオのいつもの掛け合いのような会話に皆からクスリと笑みが漏れる。


 会話の合間を縫って、ロスゼマが少し前に歩み、ナコリナの目の前に来た。


「ロスゼマさん。いろいろありがとうございました。」


 ナコリナはロスゼマにお辞儀をして感謝を示す。


「フン。あたしゃ湿っぽいのは好きじゃないんでね。別れの言葉なんて言わないよ。」


 そう憎まれ口をたたいて見せたロスゼマは、すこしだけ口調を柔らかくして言った。


「あんたにゃみっちり調合のノウハウを叩きこんだんだ。まだ一人前とはいかないが、いっぱしの物は作れるようにしといたつもりだよ。あとは数をこなしていくことだね。次に会ったときには、もっとましなポーションを作れるように修練を続けな。」

「はい!もっといいものを作れるように頑張ります。」


 そこへ、エマ、レミア、テオの3人が後ろからナコリナをフォローしてきた。


「大丈夫だよ。ナコリナお姉ちゃんの作ってくれるポーションは、ダンジョン探索で大活躍でしたから。もう売り出しても十分な品質でしたよ。」

「そうなのだ。私が魔力を消費した時も、魔力ポーションですごく回復できたのだ。すごいのだ。」

「ぞうだぜ。俺も安心して無茶できたからな。」


 3人の言葉を聞き、ロスゼマは彼らをじろりと睨むようにして見据え、そして再び口を開いた。


「当り前だよ。この私が教えたポーションなんだ。効くに決まってるじゃないか。・・・ま、何とか作れてる用なら問題ない。パーティを危険にさらさないように薬は十分準備しとくんだね。」

「はい。・・・これまでありがとうございました。」


 ロスゼマの彼女らしい励ましの言葉をうけ、ナコリナの目を潤ませながら頭を下げた。


 ナコリナたちの横では、師弟2人が面と向き合っていた。


「いよいよお別れじゃのう。」

「はい。いろいろとありがとうございました。」

「ギルドには顔を出したかの?」

「はい、昨日。・・・そうだ、師匠に聞きたいことがあったんです。」

「ん、何じゃ?」

「みんなの冒険者ランクのことで・・・。」


 ロディたちは昨日ギルドに足を運んで、街を移動することを告げた。

 そしてその時、同時に彼らの冒険者ランクの昇格が同時に告げられたのだった。


「EランクだったテオとレミアがDランクに、エマがCランクに昇格しました。そして私とナコリナはBランクだと言われました。」

「おお、おぬしらはこれまでギルドに大きく貢献してきておるし、さらにはダンジョンボスも討伐しておる。昇格は当然じゃろう。」

「でも、Bランクは貢献度のほかに、Aランク以上の方の推薦が必要だったはずです。」


 冒険者ランクの昇格条件は、上位に行けば行くほど条件が増える。Bランクへの昇格は貢献度のほかにもいくつかの条件がある。そのうちの一つに『Aランク以上の者の推薦』がというものがあった。


「師匠、もしかして・・・」

「ふぉっふぉっふぉ、もちろんワシが推薦したんじゃよ。ロディならBランクにふさわしい、とな。」


 ロディの質問に、フェイはしてやったりと言う顔で、大きく笑いながら答えた。


「ロディ、おぬしはワシから見ても十分Bランクに値する強さを持っておるわい。おまけに秘密とはいえダンジョンボスもテイムしておる。推薦せんわけにはいかんじゃろう?」


 フェイはロディの肩に乗ったヒューをちらりと見てにやりとした。


「ちなみにナコリナのBクラスへの推薦は、ロスゼマよ。」


 フェイの後ろからエリーの声が聞こえた。そしてその声はナコリナやロスゼマの方まで聞こえたようで、4人がエリーの方を振り向いた。


「やれやれ、いらないことをバラすんじゃないよ!全く。アタシが推薦したのを知ったら慢心しちまうかもしれないじゃないかい。」

「いえ、まだまだと思っているので慢心していられません。先生、ありがとうございます。」

「フン、礼なんていらないよ。Bランクでのやっていけると思ったから推薦したまでだよ。」


 そう言って視線を逸らすロスゼマを見て、エリーは、「素直じゃないわね。」と小声でつぶやくのだった。

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