第59話 ロディ、新しい魔法をもらう(2)
フェイはじっと目をつぶり、心の中で魔法を唱えた。
すると・・・
「どうじゃ?」
フェイが目を開けてロディに問いかける。
が、魔法を使ったはずなのに何も変化がない。ロディは戸惑った。
「え?魔法、発動しているんですか?」
「そうじゃ。」
どうやらフェイはすでに魔法を発動しているようだが、ロディにはぱっと見、それが判らない。普段と変わらぬフェイがいるだけのように見える。
「ふぉっふぉっふぉ。わからんかな。ワシに変わったところは無いか?」
「変わったところ・・・別に、いつもの師匠ですが。・・・ん?少し身長が伸びましたか・・・あ!!」
ロディがフェイをしげしげと眺めて、視線を下に向けた時にそれに気づいた。
フェイの足が少しだけ宙に浮いているのだ。そのためフェイの身長がやや高くなったように見えたのだ。
「う、浮いてます!師匠、浮いてますよ。これがこの魔法・・・?」
「そうじゃ。これは浮遊魔法じゃ。体が地面から浮かすことができる。どうじゃ、すごいじゃろ。」
そう言いながら、フェイはスイーッと流れるように移動し、ロディの周りをまわった。足は動かしていないから、本当に浮いたまま移動しているのだ。
「すごい!浮いてる、飛んでる!こんな魔法があったんですね。」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃろそうじゃろ。」
得意そうなフェイに、驚き興奮しているロディ。
ひとしきり動いて床に降り立ったフェイは、右手人差し指を天井に向け、上を向いて言い放った。
「この魔法があれば空も自在に飛べるぞぃ!!」
「おお!」
・・・・・・
・・・
・・・
「と言いたいところじゃが、そううまくはいかんぞ。」
さっきの勢いはどこへやら、腕を下ろしてフェイは少し残念そうにロディに告げる。
「どうしてです?このまま空を飛んでいけそうですけど・・・」
「まあできんことはないが、いろいろ制約もあるんじゃ。
まず第一に、この魔法は魔力の使用量が大きいのじゃ。並みの魔法師では数秒しか使えんじゃろう。
第二に、この魔法は地面からあまり離れられんのじゃ。高く上がることもできるが、地面から離れれば離れるほどさらに魔力を使うことになる。じゃから空を飛ぶのは危険じゃ。調子に乗ると魔力切れで墜落するのがオチじゃ。いくらお主の魔力量が多かろうとな。」
「は・・はあ。」
夢の空飛ぶ魔法だが、魔力の使用量が大きくあまり使えないらしい。ロディは少しがっかりした。
「じゃが、この魔法はうまく使えばかなり便利じゃ。なにせ少しとはいえ空中に浮くことができるのじゃ。
例えば道を歩いても足が汚れない。沼や川などがあったらそのうえを移動できる。踏むと発動するダンジョントラップなどがあればそれを回避できる。高い所から落ちた時などは衝撃を和らげることができる、などじゃ。」
「確かに、体を浮かすことができるなんて、すごい魔法には違いありません。こんなすごい魔法をいただけるなんて、師匠、ありがとうございます。」
2つの秘匿魔法を惜しげもなくプレゼントしたフェイに、ロディは感謝した。
「ふぉっふぉっふぉ、良い良い。」
ロディの喜びようにフェイも満足らしく、何度も笑顔で頷いた。
「それと注意事項じゃが、浮遊魔法はかなり練習せんとうまく使えんぞ。特に高いと事から落ちるときなどは、きちんと練習しとらんと危険じゃ。」
浮遊魔法の注意点をフェイが教えてくれる。フェイもかなり練習したのだろうとわかる。
「そうですね。練習します。まあ高い所から落ちるなんて、そんなにあるはずないでしょうが・・・
・・・ん?」
フェイの言葉に笑って答えていたロディだったが、ふと何かに気づいたように言葉を止めて真顔になった。
「ロディ、どうしたのじゃ?」
「いま、なにか引っかかることがあったんですが。えっと、高い所から落ちることがあまりない、ってところで・・・。」
しばらく考えていたロディが、ようやく思い出したように顔を上げてフェイを見た。
「ああ・・・高い所から落ちたこと、ありましたね。エリーさんが襲撃されたとき、4階のバルコニーから飛び降りたことが。」
「おお、そうじゃそうじゃ。そんなこともあったのぅ。」
過去にエリーが誘拐されかかった時、犯人を追うフェイとロディは4階から地面へと飛び降りたことがあったのだ。
それを思い出してカラカラと笑うフェイだが、ロディのフェイを見る目がいつのまにか剣呑になっていた。
「忘れもしません。あれほどのスリルを感じ、一か八かの賭けをしたことはありませんから。で、その時師匠は、この浮遊魔法を使ったのですか?」
「・・・え・・・」
「この浮遊魔法を使って、安全に、地面に、降り立ったのですか?」
ロディの顔は笑顔だが、なぜかフェイは恐怖を感じていた。目が笑っていないのだ。
実はロディは、あの時何の準備もなく高所から落とされたことをいまだに根に持っていたのだった。なんとか地面に着く直前に風魔法を使って事なきを得たが、下手したら大けがを負っていたところだった。
しかしフェイはこの浮遊魔法を使って安全に降り立っていたのでは。そんな疑問がロディにうかぶ。
「あ、いや、その・・・使った、んじゃない、かのぅ?」
フェイは少ししどろもどろに答える。どうやら図星らしい。
「高い所から落ちるのに、私には風魔法をぶっつけ本番で使わせて、自分は浮遊魔法ですか。そうですか。」
「いや、あれは急ぐ必要があったし、教えてなかったし、仕方ない事じゃった・・・」
「せめて師匠も風魔法を使って手本を示そうとは思わなかったんですか。」
「それはその・・・」
ロディの笑顔の中にある怒りの威圧に、フェイもしどろもどろになる。まさかここまで怒っているとはフェイも思っても見なかったため、知らぬうちにロディの地雷を踏んでいたのだった。
まずい!
フェイの中の危険察知能力が発動した。このままさらに問い詰められればまずいことになる。
そう感じたフェイは、瞬時に危機回避能力を発動した。
危機回避能力、それは逃げること。
「・・・そ、そうじゃ、みんなを待たせたままじゃ。あまり長時間話し込んでいるわけにはいかんじゃろう。広間に戻るぞ。」
あわててフェイはそう早口で言うと、素早くロディの横をすり抜けて扉を開けて廊下へと逃げた。
「あ、まだ話は終わってません。待ってください師匠!」
さすが年の功と言う感じでフェイにうまく逃げられてしまい、ロディは慌ててフェイを追い廊下へと向かったのだった。




