第58話 ロディ、新しい魔法をもらう(1)
フェイとロディは屋敷の廊下を進み、ある部屋へとやってきた。
そこはフェイの研究部屋だ。
数多くの本、まとめ切れていない資料の紙束、全く何に使うかわからない道具などが並んでいる。ひどく雑然としているわけではないが、整理されているとは言い難い。混沌と整頓の中間あたり、と言う感じの部屋の内部だ。
フェイは部屋に入ると奥にある自分の机に向かって進み、その椅子に腰かける。ロディは机の前に来てフェイと相対する位置で立ち止まる。
椅子に腰かけたフェイは、胸元からカギを取り出した。
ロディはこれまでこの部屋には何度も来てはいたが、机のカギを使うシーンは見たことが無かった。机にはかなり重要なものが入っているのだろう。
フェイはカギを使って机の右側の引き出しを開け、そして中から40cmくらいの封筒のようなものを取り出した。
「これじゃよ。ロディに贈るものは。」
フェイは封筒を机の上に置き、ロディに差し出すように移動させた。
「これは何ですか?」
「まあ見てみなさい。」
フェイに促されるがまま、ロディは封筒を手に取って中を覗き込む。中のものを認識したロディは、「あっ」と声を上げて驚いた。
封筒の中にあったもの、それは2枚の紙。そしてそれに描かれていたものは、魔法陣だった。
ロディの驚く顔を見ながら、フェイ肘を机上に置き、指を組んで語る
「別れに際し凡夫は物を贈り、裕福な者は金を贈り、そして知者は言葉を贈る、という。
では我は弟子に何を贈ればよいか。我と弟子は魔法に携わる者。ならば当然、贈るのは魔法じゃ。そしてその魔法は、希少価値が高ければ高いほど良いものと言えるじゃろう。」
「え、それはつまり・・・まさか」
ロディはフェイの言わんとすることが判り、驚きと喜びとが混ざったような顔になっていった。
それを満足そうに眺めながら、フェイは言った
「そうじゃ。ワシがかつて冒険者時代に見つけ、そして秘匿しておる2つの魔法。無論『魔法陣全集』にも載ってはおらん。それをロディに贈ろう。」
「本当ですか!」
フェイの秘匿魔法をもらえる、そう聞いてロディは勢いよく顔を上げて叫ぶように言った。
「ふぉふぉふぉ。嘘なぞ言うものか。」
「このような、大切な魔法を、私がもらってもいいんですか。」
「もちろんじゃ。弟子に教えるのが師匠の務めじゃからのぅ。おぬしも喜んでおるようで、ワシも贈る甲斐がったわい。」
フェイの秘匿魔法を教えてもらうことになったロディは、魔法陣を取り出して嬉しそうにひとしきり眺めたりしたあと、フェイに顔を向けた。
「これは何の魔法なのですか。」
「うむ、まずはそれを教えようか。」
フェイはそう言うと席を立ってロディのそばに寄り、
「まずは少し小さいこちらの魔法陣じゃが」
と言って、2つあるうち少し小さい30cm角の紙に描かれた魔法陣を取り出した。
「これは、いうなればライトの魔法の亜種じゃな。」
「ライトの亜種の魔法?」
「うむ、ライトの魔法と言うのは、このように全方位に明るくなるじゃろう。」
そう言ってフェイは頭上にライトの魔法を作り出す。部屋は暗くはなかったが、ライトの魔法はさらに部屋をさらに明るく照らし出した。
「じゃが、ライトはこの周辺を明るくすることはできるが、遠くを見ることは出来ん。
そして、この亜種の魔法はある方向にしか光を出さんという違いがある。こんなふうに」
フェイが手を前に出し、しばらくするとフェイの手の前より、筒のように見える光が前方にまっすぐに伸び、その光が当たった壁が約1mほどの円形に明るく照らされた。
「このようにこの魔法の光は一方向しか照らさん。しかし照らされた部分はライトより明るく、しかも距離も長いのが特徴じゃ。」
「なるほど。」
「これは森の中やダンジョンなど、暗がりでまっすく遠方を見たい時などに重宝するのじゃ。ワシはこの魔法を、光の道、「光道」と呼んでおる。」
「光道・・・」
この「光道」魔法は、ライトのような周辺を明るく照らすものとは基本的に異なる。しかし少し考えただけでライトとは異なる使用方法が見出せる。活用次第ではかなり便利であろう。
ロディは、この光道魔法はすごい魔法ではないかもしれないが、かなり使い勝手がよさそうで、使用頻度も高くなるであろうと感じた。
「ありがとうございます。すごく使えそうな魔法です。」
「ふぉっふぉっふぉ。喜んでもらえて何よりじゃ。そしてもう一つの魔法じゃが、これはなかなかすごいぞ。」
フェイはニヤ付きながらもう一つの魔法陣を手に取る。それはなかなか大きい魔法陣で、四つ折りにしていた紙を広げると、60cm四方もの大きさがあった。
「これは何の魔法じゃと思うかの?」
フェイがもったいぶってロディに聞いてきた。
ロディは魔法陣を眺める。一般的な火や風、土、水などの魔法陣を頭に思い浮かべるが、類似点はあまり見られない。そう言った魔法とは全く異なるタイプの魔法なのだろうとは推測できたが、それ以上はわからない。
ロディは少し考えただけで、降参のジェスチャーをした。
「普通の魔法陣とは異なりますね。でもまったくわかりません。」
「おお、判らないのは当然じゃが、そこまでわかれば上出来じゃ。ではワシがこの魔法を発動させてみよう。」
そう言うと、フェイは何やら口の中で魔法を唱えた。




