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第57話 ロディ、手紙をもらう

 晴れてボス戦が済んで、フェイの条件をクリアしたロディたちは、街を出る準備を整えることにした。

 もうすでに旅をすることには慣れているが、今回はイレギュラーもある。新しく仲間に加わった、ヒュージスライムのヒューだ。


 ヒューはエマやナコリナだけでなく、エリーやロスゼマにも気に入られた。特にエリーは


「可愛いわねえ。ロディの従魔じゃなければ私の従魔にしたいくらいよ。」


 と言って、膝の上で抱えたりしてヒューをかわいがっていた。ヒューもまんざらではないようで、女性陣のなすがままにされていた。


 また、ヒューを従魔登録をするためにギルドに行ったた時も女性冒険者に囲まれた。

 ヒューは通常のスライムとは異なり、結構愛嬌のある動きをする。こちらの言っていることを理解しているのか、体を伸ばしたり、震えたり、飛び上がったりして、感情を表現しているみたいに動く。通常のテイムしたスライムではそんなに活発には動かない。やはりヒューは特別なのだ。

 その動きがまた女性の琴線に触れるらしく、ヒューの周りから人が絶えることがなかった。


 ちなみに、ヒューはただの『スライム』として従魔登録している。フェイからのアドバイスされたからだ。


「見た目は少し青いスライムとして通用しそうじゃからそれが良いとおもうぞ。ダンジョンボスをテイムしたなどとまず信じてはくれまい。それにヒュージスライムをテイムしたことが本当じゃと分かったら間違いなく騒動になるじゃろう。無駄に目立つこともなかろう。」


 ということで、ヒューは無事に、「ロディの従魔のスライム」として登録されたのだった。


◇◇


 旅の準備を進めていたある日、ロディたちはエリーとフェイに呼び出された。何やら渡すものがあるらしい。


「何だろう?すでに餞別はもらったし、他に何かあるんだろうか?」

「まあ、行けば判るのだ。ここで考えてもしょうがないのだ。」

「そうね。とにかく行ってみましょう。」


 ということで、ロディたちはフェイの館へと向かった。


「いらっしゃいな。旅の準備は進んでる?」


 応接間で出迎えてくれたエリーが、親しげに話しかけ、ロディたちがそれに応える。

 ここにはエリーのほかにフェイもロスゼマもいて、ロディたちを微笑みながら見ている。


「はい、順調です。予定通り2日後には出発できそうです。」

「それはよかったわ。でもさみしくなるわね。」

「ええ、私たちも名残惜しいですけど、いつまでも留まるわけにはいきませんから。」

「でも、何かあったらいつでも戻ってきていいのよ。帰れる場所があるのは、旅をしても心のよりどころになるものよ。」

「ありがとうございます。」


 あたたかい雰囲気だ。いつかまた帰ってこようと、ロディたちは心に思い浮かぶほどに、居心地がいい、そんな場所だった。


「それでね、呼び出した理由だけどね。」


 しばらく雑談していたエリーが、あらたまって少しまじめな口調で言った。


「あなたたちに渡したいものがあるのよ。」

「もう餞別はいただいたのですが・・・」

「それとは別物よ。そうね・・・あなたたちにとって必要となるものだと思うわ。」

「必要なもの、ですか?」


 ロディの疑問にエリーは笑って頷く。そして手元にある包みの中から、白いものを取り出した。


「これよ。」


 エリーに渡されたものを見ると、それは手紙だった。上質な白い紙にきらびやかな模様が描かれ、また余白部分には花などの模様のエンボスがつけられており、明らかに高級なものと分かる。そして、王家の紋の封蝋が施されていた。


「この手紙は・・・?」

「これは私とフェイとロスゼマとが、王太子に宛てた手紙よ。」

「王太子に!?」


 その名を聞いてロディたちは驚く。王太子は現在では国の実質的な最高権力者だ。王もいるのだが、すでに傀儡のような状態なのだ。一般的にはあまり良くない政体ではあるが、王が凡庸で政治に関心がない状態であるため、現実的にはこれが一番いいらしい。

 その権力者に宛てた手紙をロディたちは託されたのだ。普通そのような重要な書簡を一介の冒険者に託すはずはない。

 とまどうロディに向かって、エリーは続ける。


「あなたたちの旅の目的は聞いたわ。みんなを守る力を得るためよね。」

「はい。私のギフトは特殊で、秘密にしています。だから秘密が知られた時でも、みんなを守る力があれば、と考えてます。」

「そうじゃのう。ロディの力はまだ片鱗しか見せておらんが、それでも驚くべき力を持っておる。」


 ロディの言葉にフェイが同意したように続ける。


「じゃが、勘のいいものはどこにでもおる。もし貴族どもが何かを感づいてお主を取り込もうとした場合には、なかなか抗せるものではないのう。」


 フェイの言葉はロディたちの不安そのままだ。秘密にしていても、ひょんなことからばれることもある。そして今はまだロディにはみんなを守り切るだけの力はない。

 ロディは少し不安で顔を曇らせる。

 そんなロディの心情をおもんばかってか、エリーが明るく言葉をつづけた。


「大丈夫よ。そんなことが無いようにこの手紙を渡すの。この中には私の孫に宛てた、ロディの紹介状が入っているわ。」

「え、私を王太子へ紹介する、ということですか?」

「それって、どういうことでしょうか」


 ナコリナが少し前に出て、少し挑むようにエリーたちを見据えながら言った。ロディを王太子に紹介するということは、王族がロディを取り込もうとしているのでは、とナコリナは懸念したのだった。


「あらあら、そんなに怒らないで。説明が足りなかったわね。私たちはロディを王族のために働かそうなんて考えてないわ。」


 ナコリナの様子を見たエリーは、少し困った顔をしながら言った。


「じゃあどういう意味で・・。」

「後ろ盾だよ。」


 ナコリナの言葉を遮る形でロスゼマが言った。


「王族をアンタたちの後ろ盾にしてみないかってエリーは言ってるんだよ。」

「え、王族を後ろ盾に!?」

「そうさ、王族がアンタたちの活動を支える。つまり王族はロディたちのパトロンみたいなもんになるかね。王族がバックについているということになれば、下手な貴族は手を出して来やしないからね。後ろ盾としちゃ一番安心じゃないかい?」

「そうじゃのう。本当ならばワシやエリーが後ろ盾になってやれれば良いのじゃが、ワシらはすでに引退しており、しかも老齢じゃ。後ろ盾とするにはちと弱い。くやしいがな。」


 エリーたちの言葉にロディはしばらく言葉が出なかった。

 王族がロディたちの後ろ盾になってくれれば、今後の危険は小さくなる。そのためにエリーは王太子に宛てた手紙をロディに渡してくれたのだ。


「自慢になるけど、うちの孫は出来た男でね。自分の力を国のため、民のために使おうとしているのよ。孫自慢は恥ずかしけど、これだけは胸を張って言えるわ。それに、万が一に備えてちゃんと釘もさしておいたから、安心してね。」

「釘?」

「手紙にはね、『もしロディたちを利己的に利用しようとしたら、私たち3人がタダじゃ置かないよ。』って書いておいたわ。」

「ははっ」


 エリーの言葉にロディたちは自然い笑顔になった。その顔を見て、エリー、ロスゼマ、フェイはそろって満足したように頷く。


「あ・・・ありがとうございます。本当に何から何まで私たちのためにやってくれて・・・」


 3人の心遣いに、ロディたちは感謝の気持ちでいっぱいになった。


「何言ってんだい。若いもんは年寄りの親切を気にせずにホイホイ受け取っておくもんだよ。」

「そうじゃ。そんなに気にされてはこっちが恐縮してしまうわい。」

「そうよ。若い人たちに遠慮なんて似合わないわよ。私たちは好きでやってるんだから。」


 そう言うとエリーは少しだけまじめな顔になって言葉をつづけた。


「私たちには過去しかない。けれど、あなたたちには未来がある。なんにでもなれる可能性があるわ。それを少しだけでも手助けできれば、私たちも嬉しいわ。」

「エリーさん・・・ロスゼマさん、それに師匠。本当にありがとうございます。」

「「「「ありがとうございます(なのだ)。」」」」


 ロディたちは自然と頭を下げるのだった。




「ところでロディよ。少し時間はあるか?」


 ひと段落着いたところでフェイがロディに声をかけた。


「師匠、何ですか。時間はありますが・・・。」

「ちょっとついて来なさい。ワシからも弟子にプレゼントをしようと思うての。」

「プレゼント、ですか?」

「そうじゃ。とっておきのもんじゃゾ。」


 そういってフェイはなにやらニヤつきながらウインクをする。ただ、雰囲気的には悪だくみではなく、本当に楽しそうな笑いだ。


「師匠からのプレゼントですか。嬉しいですが、いったい何を・・・。」

「まあついて来れば判る。」


 そう言うとフェイは飄々と部屋を出て行こうとする。慌ててロディはフェイを追いかけた。


「さて、あの2人を待つ間、私たちはお茶にしましょうか。」


 2人が部屋を出た後、エリーはみなを見渡してそう提案し、みんなは喜んでその提案を受け入れたのだった。

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