第53話 ロディ、ボスを追い詰める
ロディがヒュージスライムに対して選択した魔法は『ウォーターボール』だった。
ロディの周りに直径50cmほどの水球が3つ現れ、そしてすぐさまヒュージスライムに飛んでいった。
ヒュージスライムはその場から動かないので、ウォーターボールはそのまま難なく着弾。
しかし、当然のごとくヒュージスライムにはダメージらしきものは見られない。そして水はスライムに吸収されて消えていく。
それでもロディは再度ウォーターボールを作り出して、同様にヒュージスライムに向けて打ち出す。
そしてそれを幾度も繰り返した。もちろん何度やってもヒュージスライムにダメージは見られなかったが。
「おいおい、全然ダメージになってないじゃんかよ。本当に攻略できるのか!?」
スライムの腕を盾でそらしながら、テオは少し焦りながらロディに言った。さすがに相変わらずのノーダメージの攻撃を見て心配になったのだ。
しかしロディは自信ありげに応えた。
「ちょっと時間はかかるけど、大丈夫だ。」
そしてロディはさらに奥を振り返って、戦況を見守るフェイを見る。
そのロディの無言の問い対し、フェイはにこやかにほほ笑んで、2度ほど頷いて答えた。
(うん、この方法で間違いない。)
ロディは自身の策にさらに自信を深めた。
ロディは再びヒュージスライムを向くと、あらゆるところにまんべんなくウォーターボールを撃ちこんでいくのだった。
ウォーターボールの攻撃を続けて3分あまり。すでに数十発はボスに撃ち込んでいるのだが、ボスの動きに変化はない。その水は相変わらずすぐに吸収されてしまう。
いや、少し変化が見られた。それに気付いたのはレミアだ。
「なんなのだ?スライムが少し大きくなっているように見えるのだ?」
「え!?」
その声に驚いて、エマとナコリナもスライムを注視した。そして、
「・・・本当だ、なんだか大きくなってる。」
「確かにそうね。ヤバいんじゃない?」
と不安げに言った。
さらにロディのウォーターボールの攻撃が続くと、ヒュージスライムはさらに大きくなっていく。直径10mの半球だったヒュージスライムは、気づくと大体13mほどの大きさにまでなっていた。
「お兄ちゃん!ボスが大きくなってるよ。水を吸って大きくなってるからじゃないの?」
不安に駆られたエマがロディに呼びかけるが、ロディはそれに対して振り向きながら笑顔で応えた。
「大きくなるのも想定内さ。心配ない。」
ボスが大きくなっているのにロディには全く揺るがず、変わらずウォーターボールを放ち続けている。
このロディの自信は一体どこから来るのだろうか。
実はロディには見えているのだ。
確かにヒュージスライムは大きくなってきている。
しかしロディには、同時にヒュージスライムの全身が次第に赤く染まっていくのが見えていた。
この『赤』は、ロディのギフト『修正』により見えている色。
ヒュージスライムがどんどん赤くなっているということは、『通常のヒュージスライムではない、間違った状態に変化している』ということをギフトが教えてくれているのだ。
このまま続ければヒュージスライムはもっと赤く、もっと間違った状態になっていく、そう確信しているのだった。
ロディは自分のギフトを信じてウォーターボールを放ち続けた。
さらに数分後、ヒュージスライムの体はすでに15mと大幅に増えている。
が、ボスの変化はそれだけではないことが、ロディ以外の他のメンバーにもわかるようになってきた。
「・・・うん?やっぱり変だな」
ヒュージスライムの腕の攻撃を防ぎ続けていたテオが、正面から腕の攻撃を盾で受け切った後に首をひねりながら言った。
「テオ、どうしたのだ?」
「なんだか攻撃が弱くなってきたみたいだ。最初の攻撃に比べりゃ雲泥の差だ。」
「え、本当なの?ボスはあんなに大きくなっているのに・・・。」
「わかんねえ。けど、腕が出てくるスピードも、腕の硬さも明らかに弱いぜ。」
どうやらヒュージスライムの攻撃力が落ちている。そしてその理由はと言うと、やはり一つしか考えられない。
「ねえ、もしかして・・・」
「ロディのウォーターボールのおかげなのだ?」
4人は一斉にロディを見る。ロディは彼らに振り向き、にっこり笑って親指を立ててみせた。
ロディの作戦、それはヒュージスライムに水を吸収させ続けて、体内を水で薄めてしまうというものだった。
ヒュージスライムは魔法に強く、特に体内の大部分が水分のために、水魔法は全くと言っていいほど効かない。襲ってくる水魔法は自分の体の中に吸収してしまうために、ダメージもほぼない。
そこでロディは考えたのだ。逆に水をたくさん吸わせてしまえばどうなるだろうか、と。
ウォータージェットの当たった部分は、外見上は無傷に見えた。しかしその部分はやや色が薄くなり、そしてロディのギフトでは赤く見えていた。
なので水を吸わせ続ければそれがもっと広範囲になっていくのではないか?
結論としてはそれが『正解』だった。
水を吸い続けたヒュージスライムは体こそ大きくなったが、逆に自分の本体の『密度』を薄めてしまっていた。
それは攻撃にも表れ、目に見えて腕の速度が遅く、腕が柔らかくなってしまったのだ。
人間に例えるなら、引き締まった筋肉質の人に対し、高カロリーの物を与え続けて肥満体質にしてしまうようなものだろう。以前に比べて体は大きくなっているが、逆に力もスピードも落ちてしまったというわけだ。
むろん、この攻略法は並の魔法師で出来ることではない。
ロディの豊富な魔力量、それに古代魔法による容積の大きなウォーターボールがないと困難であることは自明なのだ。
ロディは自分の魔力量と自分のギフトを信じることで、初見で攻略法を編み出したのだった。
こうなってしまってはもうヒュージスライムは脅威ではなくなっていた。
ロディはいったん後ろに下がって態勢を整えることにした。
「ナコリナ、魔力ポーションをくれないか。」
「最後の1本だけど、大丈夫?」
「ああ、これで最後の追い込みをするんだ。」
さすがのロディも、百発をはるかに超える数のウォーターボールにより魔力量がかなり減っていたため、魔力を回復する必要があった。
魔力ポーションを飲み干すと、「よし!」と気合を入れて再度前に出る。
劣化してしまったヒュージスライムは、それでも攻撃することをやめない。ロディに対し腕を伸ばしてパンチを繰り出してきた。
だがスピードが落ちた攻撃がロディには効かない。
ロディは軽く腕を躱すと、その腕に向かって魔法を唱えた。
「エアカッター!」
最初に腕を攻撃した際には厚さ1/3ほどしか切ることが出来なかったエアカッター。しかし今度のエアカッターは、みごとに腕を切飛ばしたのだった。
「わあ!!」
「やった、腕が切れたわ!」
「すごいのだ!」
パーティメンバーの歓声が響く。
水を大量に含ませることにより、ヒュージスライム本来の能力、魔法耐性を薄め、それによって魔法が通りやすくなっているのだ。
エアカッターが通じるということは、元々の攻略法のコンセプトが使える。しかもヒュージスライムはこのほかにも本来の力を発揮できないでいる。
「できればテオも短剣で切りつけられるか?たぶん効果あると思う。」
「まかせとけ!」
スピードが遅くなった腕を相手に、テオはすでに受け止めて防ぐのをやめて躱し続けることが出来ている。それだけ余裕があるならば、避けると同時に腕を切りつけることも可能だろう。
テオは盾を後ろに置き、短剣を構えた。そして、伸ばされてきた腕を下に潜り込みながら頭上で刃をひらめかせる。
ザシュッ
テオの短剣はスライムの腕を半分ほど切り裂いた。さすがに一撃では切れなかったようだ。
しかしテオが同じ傷口めがけて再度切りつけると、スライムの腕は見事に切り取られ、腕の先は力なく床に落ちた。
「やった、うまく切れたぞ。再生速度も遅くなってるぜ。」
これまで防戦だけで耐えていたテオは、ようやくの攻撃で、しかもその攻撃が通用することが分かり、気分が高揚しているようだ。
「よし、わざわざ増やした体重だけど、一気に減らさせてもらうとしよう。いくぞ。」
「おう!」
それからは一方的な展開になった。
ヒュージスライムは、自身の攻撃が効果がなくなっていると知ってか知らずか、それでも腕での攻撃をやめようとはしなかった。
そのため、ロディ達は順調に腕を切飛ばし続けて、ヒュージスライムは見る見るうちに小さくなっていった。
ヒュージスライムが2m程度に小さくなったころ、ヒュージスライムはついに腕を出すことが無くなった。
小さくなりすぎて攻撃することが出来なくなったのかもしれない。
かなり苦戦を強いられた強敵だったが、その先頭もようやく終わりが見えた。苦戦した理由の大部分はフェイの思い付きのおかげなのだが。
「ここまで小さくなればもう切り刻まなくても、核へ直接攻撃できるな。」
ヒュージスライムを倒すには中心にある核を壊さねばならない。
ヒュージスライムの核は青黒く光沢のある球形である。
その核は今、上下左右に震えるように動いている。戦闘中は全く動いていなかったのだが、今しきりに動いているのはなぜだろうか。
なんだか怖がっているようで、少しだけ忍びない感じがしたロディだったが、まさかこのまま倒さないわけにもいかない。
「じゃあロディ、とどめを刺してくれよ。」
「わかった。」
ロディはぶるぶると震えるヒュージスライムに近づいていくと、核に打撃を与える土魔法「ストーンハンマー」を唱えた。
1mほどもある大きな石塊がヒュージスライムの頭上に形成される。これが落ちればヒュージスライムの角は粉々に砕かれるだろう。
「いくぞ、ストーンハン・・・」
「待つのじゃ!!」
ロディがまさに石塊を動かそうとした瞬間、それを制止する声が響いた。
「え・・・?」
ロディだけでなく5人の全員が声のした方へ振り向く。
その声の主は、ゆっくりと歩きながらロディ達に近づいてきた。
制止の声をあげた者、それはフェイだった。




