第52話 ロディ、攻略の糸口を見つける
(ヒュージスライムの弱点は何だ。どの魔法なら効果がある?・・・考えろ、考えるんだ。)
ロディはヒュージスライムを倒す方法を模索するため、思考に比重を置こうとして。
しかしそれがいけなかった。
そのタイミングでスライムの腕がロディに向かって伸び、ロディはそれに気づくのが僅か半瞬ほど遅れた。
「しまっ・・」
ガッ!
「くうっ・・」
「「「ロディ!」」」
ロディは何とか直撃は免れたが、スライムの腕は避けた左肩にわずかに当たる。少し当たっただけではあるが、その威力とスピードはすさまじく、ロディは5歩ほど後ずさることになった。しかも左肩は打撲で痛みが走る。
「ロディ!」
すかさずレミアのヒールが飛び、負傷はすぐに回復した。
「ありがとう、レミア。」
「任せるのだ。まだまだ魔力はあるのだ。」
ロディの礼にレミアが得意げに返す。ロディの怪我は問題なかったが、しかし精神的なダメージは大きかった。
(避けるのが精いっぱいで考える余力がぜんぜんない。く、まずい、どうすれば・・・)
ロディが考えるために前線を離れると、たちまち後衛の3人に襲い掛かってくるだろう。
彼女たちを危険には晒せない。
それだけはさせない、そう思ってロディは前に出ようとした。
しかし、それより先にロディの前を通り過ぎる人影があった。それは・・・
「エマ!」
エマがロディの代わりに前線に立つべくヒュージスライムに向かったのだ。
「お兄ちゃん。考える時間が欲しいんでしょ。少しだけ私に任せてよ。」
「エマちゃん、危険だわ!」
「大丈夫。私は”狩人”なんだから敏捷性は結構あるわよ。」
そう言ってエマはヒュージスライムの周りを走りだし、繰り出された腕を避けた。
「ひゅー、怖い。こりゃ全力で避けないとね。多分5分しか持たないわ。お兄ちゃん、それまでに策を練って!」
エマは体力の続く限り走って避けに徹するようだ。彼女の献身で与えられた5分の時間。
「ありがとう、エマ。」
エマの献身を無駄にはできない。出来ることは考えて突破口を見出すことだ。
ロディははやる心を抑えながら、思考を巡らすと同時に、ヒュージスライムの特性、動きを見るべく観察し始めた。
2分ほど過ぎた。
しかしロディは何も思いつけないでいた。
(まずい、時間だけが過ぎていく。エマがせっかく作ってくれた時間が・・・)
焦るが募るばかりのロディ。
自分のふがいなさに、ロディは無意識に歯ぎしりをしていた。
そのロディの肩に、ぽん、と手が置かれた。
ハッとして振り向くと、そこにはナコリナがいた。
「はいこれ。魔力回復ポーションよ。これを飲んで魔力を回復しておいて。ついでに、落ち着いて。」
「あ、ありがとう。」
ナコリナに心の焦りを見透かされたロディは少し恥じ入り、彼女の気遣いのポーションを受け取った。
(そうだ、焦ってもいい考えは生まれない。落ち着け。頭を冷やすんだ。)
ロディはポーションの蓋を開け、その少し赤みがかった液体を味わうようにゆっくりと飲んだ。
「ねえ、ロディ。ちょっとだけ気付いたことがあるんだけど。」
ポーションを飲むロディを見ながら、ナコリナが話しかけてきた。
「気づいたこと?」
「ええ、気のせいかもしれないんだけどね。」
そう言ってナコリナはスライムを指さす。
「ロディがウォータージェットを撃ったじゃない。それが当たった部分なんだけど、なんだか少しだけ色が薄くない?」
「色が薄く?」
そう言われてロディはヒュージスライムに目を向けた。
ヒュージスライムは体が透明がかった薄青色をしている。ナコリナに言われウォータージェットを当てた部分をまじまじと観察したロディは、しばらくののち、ようやく得心したようにつぶやいた。
「確かに、わずかだけど色が薄くなっているな。よく気付いたなあ。」
「水を吸収したから薄くなっているんだと思うけど。まあ、だからってそれがどうなるかわ分からないけど、ちょっと気になって。」
「いや、ありがとうナコリナ。そういった気付きはちょっとしたことでも欲しかったんだよ。」
ロディはナコリナに振り向いて笑顔でお礼を言った。
何も攻略法が浮かばない今、少しでもとっかかりになるものが欲しいのは事実だ。
だがそれがはたしてボス攻略につながるだろうか。それにヒュージスライムは魔法耐性が高く、とくに水魔法は全くダメージを与えられそうにない。それが攻略につなげることが出来るとはとても・・・。
「・・・まてよ。」
ロディはふと思い出した。このボス部屋に入る前に、フェイが言っていた言葉を。
『・・・ボスは魔法耐性が高い。それは長所じゃ。しかしの、長所は往々にして短所となりうるのじゃよ。・・・』
ヒュージスライムは水魔法に対し明らかに強いという長所がある。しかし、もしこの長所も、行き過ぎてしまえば短所になる可能性があるということなのか。
「もしかしたら・・・。」
ロディはそうつぶやくと、自らのギフト『修正』を発動させた。
この戦いの間、ロディは自分のギフトである『修正』を発動させていなかった。魔法戦をすることが決まり、魔力の消費を少しでも抑えるために発動を止めていたためだ。
ギフトを発動したロディは、その状態でヒュージスライムを視る。
「・・・!!」
ロディには、ウォータージェットを当てた部分がぼんやりと赤みがかって光っているのが見えたのだ。
ロディの『修正』は、間違った部分があると赤く光ってそこを教えてくれる。これまでにも文章も、数字も、地図も、魔法陣も、その間違いを指摘してくれて来た
それと同じように、いまヒュージスライムの体にうっすらではあるが赤みがかかっている部分がある。
(それはつまり、あのうっすらと赤い部分に『少しだけ間違いがあるぞ』って俺のギフトが教えてくれているんだ。あそこだけ『本来のヒュージスライムの部分と少し違う』ってことだ。・・・そうか!)
そう気づいたロディは勢いよく顔を上げた。そしてナコリナに笑顔で振り向いた。
「ありがとう、ナコリナ。おかげで攻略法が判ったかもしれない。」
「本当!?」
ナコリナに向けたロディの顔は、さっきまでの苦しそうな顔ではなく、希望を持った明るい顔だった。
それを見て、ナコリナはヒュージスライムの討伐が成功することを確信したのだった。
「すまない、遅くなった。エマ、変わってくれ。」
ロディが気力に満ちた足取りで前に出て、エマとのチェンジを申し出る。
「お、兄ちゃん、ハァ、ハァ、たすか、った。ハァ、もう、限界。」
「ありがとう、エマ。」
ロディは妹にニッコリとほほ笑み、それを見たエマは最後の力で後ろに脱して、息を切らしながらの倒れこんだ。
慌ててエマに近寄るレミアとナコリナに、エマは「大丈夫、息が切れてるだけ」と笑って言った。どうやらうまく逃げ回れたようで外傷はないようだ。
「ロディ、行けんのか!?持ちこたえるのも限界があるぞ!!」
これまで頑張って腕の1本を受け持ってきたテオがロディに声をかける。腕をいなすか受け止めるかして対応してきたテオは、ヒールで随時回復してはいるが、それでもダメージは蓄積されているらしく余裕がない表情だ。
「ああ、何とかなるかも知れない。」
「そうか、そりゃよかった。けど『かもしれない』じゃねえ。必ず何とかしてくれよ!」
「ああ、わかった!」
テオもロディの顔を見て何かを感じたのか、少し口角を上げて笑っって言ったのだった。
(テオ、エマ、ナコリナ、レミア。彼らの頑張りにもこたえなきゃならないな。)
ロディは腕を避けながらも気合を入れる。
そして思いついた攻略法を試すべく、魔法を発動した。
「ウォーターボール!」




