第6話 ロディ、ナコリナに出会う
通常、人が魔法を覚えるには、魔法陣が書かれた紙に魔力を通すことによりその魔法を覚えることが出来る。
ではその魔法陣はどうやって作るのか。
当然、魔法陣を描く人がいて、その人が描くことにより魔法陣が出来る。
だが、魔法陣は誰でも描けるというものではない。じつは魔法陣は、決められた人しか描くことが出来ない。
それは『魔法陣製作士』という。
『魔法陣製作士』は、国家資格だ。年に1度首都で資格試験があり、それに合格すれば晴れて「魔法陣製作士」となれる。
ただし、言うのは簡単だが実行するにはとんでもなく困難だ。
国内で魔法陣製作士を受験する者は、1回につき全国で1000人くらい。しかし合格者は規定で10人までと決まっている。しかも、単に上位10人ではなく基準点に達しない場合は足切りされるため、それ以下となることもざらにある。
つまり魔法陣製作士は、競争率100倍以上の狭き門なのだ。
しかしそれでも「魔法陣製作士」は魅力的だ。自分で魔法陣を描くことも出来るし、依頼されて描けばお金にもなる。なにより、魔法陣に触れることで自分も魔法に近づくことが出来る。
「よし、『魔法陣製作士』になろう。魔法陣の勉強をしよう。たとえ困難であっても、やってみなきゃわからない。」
競争率100倍以上の超難関に挑む、ロディは心の中で高らかに宣言した。
その日からロディは家で魔法陣の勉強を始めた。
本を買うお金を節約するため、街の図書館やギルドで魔法陣関連の本を読んだ。また魔法陣を描かなければならないので、簡単な魔法陣から描く練習も始めた。
さらには定期的に開かれる講習会に参加しようと申し込んだ。
魔法陣製作士試験のため、3ヶ月に1回の割合で各地で講習会が開かれている。
講習会には実際の『魔法陣製作士』免許を持った講師が中央から派遣されて教えてくれることになっている。魔法陣製作士の話を直接聞くことが出来るのは、初めて試験を受ける者にとって非常に有益だ。ロディは講習会を楽しみにしていた。
講習会の日、指定された部屋に訪れたロディは、ざっと辺りを見回す。
部屋にいるのはロディ以外には6人の受講生たち。彼ら、いや、よく見ると女性しかいないので彼女らは、それぞれ座って講師を待っていた。
元々魔法陣製作士を目指す者は女性が多い。免許を持つ人の割合も大体7割以上女性らしい。職業柄、荒事を好まない人に人気で、また魔法陣製作には緻密な作業が必要となるため、自然と女性が多くなるようだ。
6名の女性はみんな結構若く、年長でも大体20歳前半くらい。普通は1度講習会を受けたら以後受けないから、ここにいる人たちはおそらく初参加だろう。
特に座る場所は決まっていないようなので、ロディは前の方の机に座る。
(しかし、自分以外全員が女性か。ちょっと気後れするな。)
ロディが肩身の狭い思いでいると、左側から声がして、彼の肩がトントンとたたかれた。振り向くと、1人の女性が笑顔でこちらを見ていた。
「こんにちは。」
その女性は普通の声と小声の中間ぐらいの声であいさつしてきた。ロディはどぎまぎしながら彼女を見て
「こんにちは。」
と何の変哲もない返事をする。
「私の名前はナコリナ。呼び捨てで読んでね。君は?」
「え、ああ、僕はロディ。」
「私、『陣士』の講義は初めてなんだ。あなたは?」
「僕も初めて。」
ナコリナは人懐こそうな笑顔でいろいろ聞いてくる。ちなみに「陣士」とは「魔法陣製作士」の略称で、名前が長くて読みにくいので一般には「陣士」と呼ばれている。
「ロディ、歳はいくつ?」
「もうすぐ14歳になる。」
「やった、私の方が一つ年上だ。」
なぜか年上だったことをとても喜んでる。お姉さん属性でもあるのだろうか。
彼女は、肩より少し長い、少し濃い茶色の髪を、首のあたりでまとめていた。
「今日は男性は一人だよね。みんな注目してるよ。」
そう言われればなんだか視線を感じる。教室を見渡すと、サッと視線を逸らす人が数名いた。・・・無遠慮に見て嫌われたのかな?やっぱり男が一人だけってのは嫌な感じなのかも。
「選り取り見取りだよ、ニクいね、このー。」
と言って左肩をツンツンしてくる。嫌われてだろうから無理だと思うけど。
(しかし初対面ですぐにスキンシップできるってすごいな。この雰囲気、少しエマに似てる。)
とロディは感じた。
そのせいか、会話をするにつれロディは徐々に固さが取れてきた。
彼女はここから東に2日ほどのヒータ村の出身で、12歳の時に「魔法師」のギフトを授かったのでメルクーに出てきてここを拠点に冒険者活動をしているらしい。けれど冒険者だけでは将来に不安があるため、魔法陣製作士の勉強を始めたという。
「魔法師か。いいなあ。僕は魔法が使えないから・・。」
「え、魔法が使えないってそんな人いるの?・・・・あ、ごめんなさい。悪く言うつもりはなかったの。ただ初めて聞いたから驚いて。」
ナコリナはすまなそうな顔で謝る。
「気にしないでいいよ。よく言われることだから。それに魔法を使えなくても特に問題ないし。」
「確かに魔法を使う職業じゃなければ、不便だけど絶対必要ってことじゃないわね。でもそれならこの魔法陣製作士はうってつけね。魔法は使えなくても魔法陣は描けるからね。」
ナコリナは明るく言う。彼女と話しているとこちらも明るい気持ちになってくる。
講師が来るまでの間二人は気ままに様々なことをおしゃべりをしていた。主に彼女が語り、彼女が質問し、ロディはその受け答えをするだけだったが。
二人とも合格できるように頑張ろうね、と彼女が言ったところで扉が開いた。途端に周りのおしゃべりの声もおピタリと止む。
教室に入ってきたのはおそらく講師だろう。扉から黒い髪を後頭部でお団子にまとめ、服装も黒っぽく統一された、見るからにキャリアウーマンっぽいきりっとした顔立ちの黒縁メガネの40代くらいの女性だった。
彼女は、ツカツカと教壇まで進み、ロディたちに体を向け、そして口を開いた。
「こんにちはザマス。ワタクシはエリザベスというザマス。今日はあなたたちの魔法陣製作の講師としてきたザマス。」
最初のあいさつで、受講生はみんなポカーンとしてしまった。理由は当然、彼女の言葉の語尾だ。
(ザマスって、何その語尾!王都で流行ってるの??)
部屋を戸惑った雰囲気が漂う。
しかしそれを気にも留めずエリザベス講師は続けた。
「ではまず皆さんが自己紹介をするザマス。窓側から順に一人ずつ自己紹介をするザマス。」
戸惑いながら、指名された受講生が自己紹介を行う。
気になること(語尾)はあるが、とりあえず「そういうもんだ」と思うことにした。
自己紹介では特にハプニングもなく、そのまま魔法陣製作の講義が始まった
途中でナコリナの小さなささやき声が聞こえた。
『あの語尾、変じゃない?』
『そうだね。初めて聞いたよ。魔法陣製作士の間ではあれが普通だったりして。』
『だったらヤだ。私あれができる自信が無い。』
「そこの二人、私語は慎むザマス!講義を聞いていないと試験に受からないザマスよ!」
「「すみません。」」
強い口調でザマ・・・・エリザベス講師に叱られ、二人は小さくなって謝った。




