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第23話 ロディ、後悔する

 その日はフェイの稽古がない、つまりロディの休日。

 ロディは街中をのんびりと歩いていた。隣にいるのは、レミアだ。


「最近ロディの匂いを満足に嗅いでいないのだ!ロディ成分が足りていないのだ!」


 先日、ロディと一緒に居る時間が少ないとレミアがわがままを言いだしてとても難儀したため、ロディは次の休日には一緒に街を廻る約束をせざるを得なかったためだ。


 他の仲間は周りにいない。

 ナコリナはロスゼマの店で手伝いをしている。春になり、冒険者活動が活発になって、それに伴ってポーションが多量に必要になってくる。そのため店は大忙しとなり、最近は連日手伝いに出向いているのだ。

 エマとテオは別行動で、2人で武器屋や防具屋、雑貨屋などを廻るらしい。あまり色気はないが、ちょっとしたデートみたいなものだろう。


 そういう意味ではロディとレミアもデートみたいなものだが、傍から見てるとそうは思えない。

 レミアの見た目が10代前半のため、恋人というよりは兄妹にしか見えないからデートと言うよりお出かけといった感じだ。

 デートに見えないのはそれだけではない。


「この『くれぇぷ』という菓子はうまいのだ!生地が柔らかくてクリームが甘い。私は大好きになったのだ!」


 レミアは両手に食べ物を持ち、食べ歩きながらロディに話しかける。さらにレミアの量ポケットは大きく膨らんでおり、何か入っているよう見える。おそらくは別のお菓子が入っているのだろう。

 そういうところも兄妹にしか見えない理由だ。


 そんなレミアを横に見ながら、ロディは笑顔で手に持つ『くれぇぷ』を時たま頬張る。

 普段の殺伐とした冒険者活動とは全く異なる、穏やかな光景だった。


◇◇


 街中の露店を巡り、かつ甘味で有名な店を2件ハシゴし、昼には『ここに行ってみたかったのだ。』と、ランチが美味しいと評判の店で食事を終えた時には、2人とも満腹になっていた。


「もうさすがに入らないのだ。あとは3人にお土産を買うのを忘れないでおくのだ。」


 大きくなったお腹をさすりながらレミアが満足そうな顔で言った。


「そうだね、美味しいものはみんなにも少し分けてあげないとね。」


 ロディも張ったお腹に苦しみながらも同意する。


「さあ、午前中は私の行きたいところばかりだったので、これからはロディの行きたいところに行くのだ。」

「え、俺は別に行きたいところはないけど・・・。」

「それはダメなのだ。ロディはこの街に来て、あまり街中を廻っていないのだ。旅先の街を見て回ることも街になじむために必要なのだ。なにごとも経験なのだ。」


 レミアは意外にもまともなことを言ってきた。確かにこのザイフの街に数か月滞在しているのに、街のことはあまり知らない。

 このザイフの街は古都だけあって、他の街にはない名所に事欠かない。そう言った所にまったく目を向けないのは街に対しても失礼かもしれない。


「わかった。じゃあそうしよう。・・・でも俺は街にいどんなところがあるのかあまり知らないんだ。」

「そこは私の任せるのだ。私がおすすめの名所をいくつか話すので、ロディが面白そうだと感じた所に行ってみるのだ。」

「レミアはけっこう馴染んでるね。わかった、面白そうなところを教えてくれ。」


 レミアは見どころがあると思った場所をいくつも挙げた。


 いにしえの神々が祀られる古い廟。街が一望できる高い塔。過去に有名な冒険者2人が闘ったとされる場所。季節ごとの花々が咲き誇る美しい庭園。荘厳に祀られている初代国王の墓。干ばつでも涸れなかったと言われる湧き水豊富な美しい池、賭け事に使われることが多い競馬場兼闘技場etc。


 レミアの挙げる場所はどれも面白そうで、ロディは場所を選ぶのになやんで時間がかかってしまい、レミアに怒られてしまうほどだった。


◇◇


 レミアのアドバイスの元、ザイフの名所を見て回ったロディたち。


「いや、レミアがこんなに名所に詳しいとは思わなかったよ。おかげですごく楽しかった。」


 ロディが興味があるところを伝えると、レミアは先導してその場所へとロディを連れていき、それだけではなくその場所にまつわる様々な話を教えてくれた。

 おかげでロディは3か所ほどの名所をめぐる間全く退屈しなかった。


「とーぜんなのだ。お姉さんは物知りなのだ。もうザイフの街の名所ならどんとこいなのだ。」


 レミアはそう言って(無い)胸を張る。

 レミアは意外に情報収集にたけているようで、名所だけでなくおいしいお店などもいち早く見つけてくるようだ。これは隠れた才能というべきか。


「そうだ、最後に行きたいところがあるんだけど。」


 だいぶ時間が経ってしまったため夕日も赤くなってきている。そんなときにロディは最後に行きたいところがあるらしい。


「いいのだ。案内するのだ。」

「いや、みんな知ってる場所だから案内はいらないよ。」

「どこなのだ?」

「ギルドさ。最近あまり行けてないんでちょっとだけ見ておこうと思って。」


 と言ってロディは笑った。最近は暇さえあればフェイとの稽古に励み、ダンジョンなどにも行けてないため冒険者としての活動がおろそかだ。

 それはまずいので、とりあえずギルドに顔見せしておくことにしたのだった。




 ギルドは夕方だけあって冒険者たちで混雑していた。ザイフの街のギルドは大きく、受付カウンターだけでも3か所あるのだが、どれも列が並んでいた。


「うーん、混雑しているのだ。」

「そうだね。でも並ぶ必要はないから関係ないさ。」


 そう言ってロディは周りをぐるりと見渡す。

 場所は違えども、ギルド職員時代に見慣れた光景だ。しばらくギルドに来ていないため少しだけ懐かしさを感じているロディ。


 その時、ふとロディの目に気になるものが見えた。


(ん?今のは・・・)


 ロディは目に留まったものを再確認しようと、カウンターに目を向てた。

 それはカウンターの女性の手元にある、小さくて四角いもの。


「それでは冒険者カードをお返しします。」


 女性は笑顔で、反対側にいた冒険者らしき人物に冒険者カードを渡した。


「・・・!」


 ロディは遠巻きにまじまじとそのカードを見つめる。赤く光って見えるのは、その冒険者カードだった。

 冒険者カードはロディのギフト「修正」の能力により赤く見えている。ということは、その冒険者カードは『間違っている』、つまり偽物である。


「冒険者カードが赤く見えるなんて・・・」


 ロディは驚き、戸惑っていた。

 なぜなら冒険者カードは「偽物を作るのは不可能」と言われているのだ。

 元ギルド職員の知識として、ギルドカードは特殊な偽造防止の対策が施されており、偽造が不可能であると聞いていた。これまでの経験上、偽カードが話回ったことは一度もないはずだ。

 しかし現実には、冒険者カードが偽物であることを、ロディ自身の能力が告げているのだ。自身の能力を信じるロディは、カードが偽物であることを確信した。


「ではご注文の魔石をお渡しします。」


 カウンターではその偽カードを持つ男と受付嬢とのやり取りが続いていた。

 受付嬢は両手で持てるくらいの大きさの袋を男に渡す。先ほどの話からどうやらその袋には魔石がいっぱいに入っているらしい。容積から考えるとかなりの量だ。

 魔石の取引自体は何ら問題はない。ギルドで管理している魔石の売買はそう珍しいものでは無いからだ。

 しかし、その根本を支えているのがほかならぬカードだ。カードで身元が保証されているからこそ魔石の売買が可能。

 しかし、あのカードはロディが見たところ偽物だ。

 ところが、ギルドはそれを見破れていない。


 偽のカード。大量の魔石。・・・これは実はとても重大なことでは・・・。


 そんなことを考えるうちに、取引を終えた男はカウンターを離れ出口に向かうように歩き出す。このまま出て行くのならばロディのそばを通るだろう。

 ロディは一瞬、ここで男を止めて、偽カードであるとギルドに話すことを考えた。しかし、すぐにそれは無理だと判断した。

 男のカードはすでに一度ギルドで本物と判定されている。ここで自分が何かを言っても、覆せるだけの証拠などない。自分の能力についても、実績のないこの街のギルドでは信じてもらうことは今の時点では無理だろう。

 一瞬の判断で、ロディは男から視線を外して男をやり過ごすことにした。

 その男はロディのそばを通り過ぎた後、何事もなくギルドを出て去って行った。


 ロディは、男が見えなくなったあとの出入り口ををしばらく眺めていた。不正が分かっているのに何もできない自分にもどかしさを感じて。


「ロディ、どうしたのだ?」


 レミアの声に、ロディはふと我に返ってレミアを見下ろす。


「いや、別に・・・」

「さっきの男が気になるのだ?」

「!?」


 驚きの表情でレミアを見ると、彼女も出入り口を見ていた。


「さっきからロディがずっと男のことを気にしていたのだ。私も気にしてみていたのだ。」

「そ、そうか・・・。」


 レミアに気づかれていることも知らずに見入っていたとは・・・。ロディは少し恥ずかしくなった。


「あの男は何なのだ?」

「わからない。だけどなんだかよくない感じがする。」


 ロディは具体的には言わずに、ただあの男の不審なことをほのめかした。

 するとレミアが少し真面目な顔で話し出した。


「そうなのだ、あいつは嫌な臭いをしていたのだ。それに、最近あいつと同じような匂いの奴らに何度か会っているのだ。」

「え!?」


 レミアはあの男の匂いを感じ取っていた。そのレミアは、『同じような匂いの奴らに出会っている』らしい。


「それって、同じ人じゃなく?」

「別の男なのだ。これまで4~5人は同じような匂いだったのだ。」

「同じ匂いって、どういうこと?」

「私もよくわからないのだが、同じグループの人は似たような匂いになりやすいのだ。」

「・・・」


 ギルドも騙せる偽ギルドカード、多量の魔石、その男と同じ匂いの複数の者たち・・・。


(これは無理にでも男を止めていたほうが良かったか・・・。でもやっぱり証拠がないしな。・・・でも、気になる・・・)


 レミアの話を聞き、ロディは漠然とした不安に駆られた。しかし後悔しても、男はすでにギルドを去ってどこかへ消えた後だった。

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