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第22話 泉のほとりの記憶

「おーい、エマ―!!」

「エマ―!!」

「何処なのだ―?」


 森の中で名前を呼ぶ3人の声がこだまする。本来森で大声を出すのは出来るだけ避けるべき行為だが、そんなことは言ってられなかった。

 エマが採取から帰ってこず、心配した3人はあたりを探し回っていたのだ。


「どう、いた?」

「いないのだ。」

「どこ行ったんだよあいつ・・・。」


 3人が泉のほとりに集合して状況を確認するも、手がかりも全くつかめていない。

 ナコリナは空を見上げ、2人もつられるように顔をあげる。

 だいぶ陽が傾いていて、このままでは暗くて探せなくなる。3人には焦りの色が顔に現れていた。


「まずいのだ、このまま夜になると危険なのだ。」


 いくら森の浅い場所でも魔物が徘徊するため、夜は危険だ。3人ならまだましだがエマは最悪1人で夜を過ごすことになる。


「どうしようか・・・」


 3人がこれからどうするかを考え始めた、その時・・・



ガサッ



 近くの茂みから音がした。

 3人はぎょっとして、すぐに身構えて音のした方向に体を向けた。

 そこには・・・


「あ、もう居たんだ。」


 草をかき分けて現れたのはエマだった。


「「「エマ!」」」


 3人はエマの名を叫んで一斉に駆け寄ってきた。


「ど、どうしたの??」

「どうしたもこうしたも、いったいどこに行ってたのよ。」

「え?どこって・・・回復草を採取に行ってたけど・・・」


 エマは少し驚いたような表情で答えた。3人がなぜそう言うのか、わからないような顔だ。


「こんな長い時間をかけてか!?」

「え、時間?・・・あ・・・」


 そこでエマは初めて気づいたように見上げて色づきつつある空をみた。


「もうこんな時間に!?」

「そうだぜ。もうだいぶ夕方に近い。」

「みんな心配したのだ。心配したのだ。」


 レミアの目が少しうるんでいる。

 3人は口調は怒っていたが、顔には安堵の表情が見えている。みんなエマが無事だったことに安心していた。

 そこで初めて、エマは自分が3人に心配をかけたことに気づいた。


「ごめんなさい。いつの間にかこんな時間になってたなんて気づかなくて。心配させちゃって、本当にごめんなさい。」

「回復草を探してたのか?ずっと?」

「それが、よくわからないの。自分ではそんなに時間が経ったようには感じなかったんだけど・・・。よく覚えていない。」


 しょんぼりとうなだれるエマを見て、ナコリナはフッと息をついて、笑顔を浮かべて言った。


「まあとにかくエマちゃんが無事でよかったわ。それが一番よ。じゃあまずは街に帰りましょう。お小言は街に戻ってからね。」

「そうだ、早く帰らねえと日が暮れるぞ。」


 テオがそう言って4人が帰ろうとしたその時、レミアがエマの手にあるものを見つけて叫んだ。


「あ、エマの持っているの、白い花なのだ。白い花の回復草なのだ!すごいのだ!」

「「「え!?」」」


 そう言われて初めて気づいたようにテオとナコリナはエマの手に持つものを見た。確かに白い花が咲いた回復草を持っていた。


「え!?エマちゃん、これ、見つけちゃったの!」

「・・・すげえな。これを探して遅れたのかよ・・・」


 3人はエマに寄って来て白い花をしげしげと眺める。3人とも白い花の実物は当然初めて見るので興味津々だ。


「エマ、どうやって見つけたの?どのへんに咲いてたの?」


 ナコリナがワクワクした目をしながらエマに聞いてきた。

 しかし当のエマはというと、こちらも手に持った花を掲げ見てなぜか驚いていた。


「白い花・・・なんで私これを持ってるんだろう??」

「え、どういうことだ?」

「エマが採ったんじゃないの?」

「全然覚えてない・・・。」


 怪訝に思った3人はエマに尋ねるが、エマは自分が白い花を採取したという記憶すらなかった。手の中にあるのに今気付いたという。


「もしかして、きおくそーしつなのだ?」

「記憶喪失?そんな・・・」


 エマも花のことを懸命に思い出そうとするが、まったく思い出せそうにないようだった。

 どうにもわからないことだらけだ。普段時間にルーズではないエマが、夕暮れにも気づかずに遅れてきたことといい、なんだかおかしい。


「とにかく、白い花のことは嬉しいが、今はあまり時間はねえ。話は帰りながらにしようぜ。」

「あ、うんそうしようか。」


 夕暮れが迫っていることに気づいて、4人は泉のほとりから街に向かって足を進め始めた。


 ふとエマの目に、来た時に見た石の祠のようなものが目に入った。それは最初に見た時と同じように苔が表面に生えている。

 一瞬、石の箱の中で小さな光が見えた気がした。そして同時に、何かを忘れているような、思い出しそうな、そんな感覚がエマの胸に沸き起こった。

 エマは森の中を振り返った。そうしなければならない感じたため。なんだかわからないけど、あるものを見つけたいと思ったため。


 しかし、エマの目には森に生える木々や草しか目に入らなかった。


「エマ、何してんだ、忘れ物か?」

「え、忘れ物・・・ううん、何でもない。」


 しばらく森を見ていたエマは、名残惜しむ感情を振り切って、3人に振り向いて小走りに走っていった。

 あとには、清らかな泉のそばに静かに佇む、苔むした『石の箱』が残るだけだった。

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