第21話 『妖精の世界』と『ダンジョン』と
2人が墓参りのあとで家に戻る時、庭を見ていたエマは、ふとある花が目に留まった。
「あ、この花・・・」
その花の地面に近いところにある葉はエマがさっきまで採取していたあの回復草にそっくりだ。そして回復草と異なる点は、そこから上に伸びた茎と、きれいに咲いている白い花。
「あら、それは回復草ね。これを乾燥させておけば、病気になってもそのお茶を飲めば治っちゃうのよ。」
トリシュがこともなげに言う。
トリシュの話からも、エマはこれはロスゼマが言っていた白い花が咲く回復草に間違いないと思った。
驚いたことにその白い花は、トリシュの裏庭の花園の1区画に、咲き誇るように何十本も咲いていた。
1つ大金貨1枚もする白い花の回復草がたくさん育てられている。エマは驚きながらもトリシュに尋ねた。
「あの、回復草って白い花をつける個体はとても希少だって聞いてます。でもここにはたくさん咲いているのは・・・」
「ああ、その話ね。回復草の白い花はね、妖精のいる場所でしか咲かないらしいわ。つまりここだけね。」
「ここだけなんですか!?・・・でも元の世界でもたまに咲くって聞いてます。」
「それは、たまに妖精が気まぐれで外の世界に出かけた時に、その影響で回復草が白い花をつけることが稀にあるって、妖精さんが言ってたわ。」
トリシュ(と妖精さん)が言うには、白い花の回復草は妖精のいる所でしか咲かないという。そして妖精がたまに外に出た時に、そこで偶然白い花を咲かせることがあるという。それが本当ならば、白い花の回復草が稀にしか見つからないというのは納得だ。
「あ、あの、トリシュさん、お願いがあるんですが。」
「何?」
「この花の咲いた回復草を欲しがっている人がいるんです。だから1つだけでもいいのでいただけないですか?」
「フフ、たくさんはダメだけど1つだけならいいわよ。」
トリシュは1つだけならとOKを出した。ただし、と条件を付けて
「その代わり私のお願いも聞いてほしいんだけど、いい?」
「私にできることならなんでも。どんなお願いですか。」
「簡単なことよ。私とおしゃべりしてほしいの。」
「おしゃべり?」
「何十年もここに住んでいると、話し相手は妖精さんだけ。だからたまに元の世界の人とおしゃべりをしたくなるのよ。今日はそのいい機会なの。」
トリシュの要求した白い花の回復草の対価は、彼女とのおしゃべりだった。
「エマさんは冒険者なのよね。いろいろの冒険の話や、それ以外の話でもいいの。お話をたくさん聞かせてほしいわ。」
「それくらいなら喜んで。」
おしゃべりはエマも好きなので、トリシュの要求は望むところだ。
2人はニッコリと笑いあうと、家の中へと入って行った。
◇◇
それから2人はとりとめなくおしゃべりをした。
エマは自分の経験してきたことを語る。孤児院での生活。家でダントン一味からの襲撃。3人で故郷を出てからの事。レミアやテオとの出会いetc
それらの話をトリシュは笑い、驚き、頷き、感情豊かに聞いていた。
そしてトリシュはお爺さんの思い出などを語った。釣りが好きでよく魚を釣っていたこと。裏庭に菜園を作ったのもお爺さん。しかしまったく料理が出来なかったこと。ほとんど怒らないお爺さんが一度だけトリシュを叱った事etc
2人の話は、時に話が脱線して関係のない内容になっていった事も1度や2度ではない。それだけ2人は会話を楽しんでいた。
「冒険者でダンジョンにも入ってるなんて、エマさんってかなり強いんですね。」
「私より兄がとんでもなく強いですよ。ほかのみんなもそれぞれ強みがあって、みんなで助け合いながらやっています。」
「いいパーティで楽しそうね。・・・そうそう、ダンジョンで思い出したけど、昔お爺さんから聞いたことがあるの。」
トリシュがふと昔のことを思い出したようで、エマに話し始めた。
「どんな話ですか?」
「ダンジョンと、ここ妖精の世界とは、本質は同じなんじゃないかって。」
「え?」
その言葉にエマは驚いて、自然と身を乗り出していた。
「それってどういう意味ですか?」
「全く同じってことじゃないんだけど。ダンジョンって聞くところによると、地下なのに空があったり海があったりするって話よね。」
「ええ、その通り。とっても不思議です。」
「だからダンジョンは、実はそこにあるわけではなく、階層ごとに別の空間とつながっているんじゃないかって話があるって聞いたわ。」
「確かにそういう話は聞いたことがあります。」
「それで、お爺さんが言ってたの。『この妖精の世界も、元の世界とは別のところにある。そういう意味ではダンジョンの作りと同じなんだ。少なくとも『別世界にある』という事象は同じだから、根源は同じものなんじゃないか』って。」
エマはそれを聞いてなるほどと思った。
ダンジョンのその説が正しいとすると、ダンジョンは階層ごとに別空間につながっているということだ。
この妖精の世界もダンジョンと同様、元の世界とは別空間なのだ。だから、本質的には同じ、ということもありうる話だ。
「じゃあ、まさかこの空間って、のちのちダンジョンに変わっちゃったりするんじゃ・・・。」
エマはふと思いついたことを口にした。が、そのあとすぐに後悔した。ここに住んでいるトリシュに、「ここはダンジョンになるかも。」という話はあまり気持ちがいいものじゃない。
しかしトリシュは全く気にした様子はなく、変わらない口調で答えた。
「まさか。それはないわよ。」
トリシュは当たり前のように簡単に否定した。
「だって妖精さんがいるのよ。そんなところがダンジョンに変わるなんてありえないわよ。」
「・・・妖精さんがいるから、って」
トリシュのあっけらかんとした言葉にエマは少しあきれた。トリシュの話は全く根拠がない。妖精がいるからダンジョンにならない、なんて誰もわからないはずだ。
けれどトリシュのそう信じる気持ちもわからないではない。こんなほのぼのとした空間がダンジョンに変わっていくなんてとても信じられないのだ
それに、エマも感覚的にはトリシュと同意見だ。妖精とダンジョンの魔物とは相容れない存在のようで、とても共存できるとは思えない。
「妖精がいる限りダンジョンにはならないだろう」と、エマも理由なく信じることにした。
それからも2人は、時が経つのも忘れて語り合った。




