第13話 ロディ、新たな能力を見つける
ロディがフェイから教えを受け始めて1週間が過ぎた。
フェイはなかなかのスパルタで、訓練のある日はロディは頭も魔力も体力もすべて使い果たすほどくたくたに疲れ果てるほどだ。
ただその分だけ成長していることは間違いない。元賢者の教えはロディの知らぬこと、考えつかぬことが多く実に為になる。そのためロディはきついながらもフェイの教えに食らいついているのだ。
その日の剣術の稽古の途中、へばって倒れ込み、荒い息を吐いているロディにフェイが歩み寄ってきた。
「ふむ、ロディは剣術の筋はまあまあじゃが、これといった長所がないのう。」
「はぁ、はぁ・・・そう、ですか・・・。」
息を切らしながらもロディがなんとか返事をする。ロディは普通の体格や運動神経なので、剣術の訓練を続ければ成長していくだろう。しかし戦闘系のギフトを授かった者たちに比べれば1歩も2歩も後れを取る。
ロディはそれを”ないものねだりだ”と考えて、他と比較せずに愚直に努力を続けている。
しかし、フェイはそれでは物足りないと考えているようだ。彼は顎髭をさすりながら考えていたが、ふと気づいたようにロディに目を向けた。
「ロディ、おぬしのギフトは『修正』じゃったのう。」
「はい。」
フェイにはロディのギフト『修正』と、何が出来るかは伝えている。ただ魔法陣を修正できることだけは伝えてはいない。古代の魔法陣を復元できる力というのはさすがに伝えていいかどうか判断できないため、今は秘密のままだ。
「ロディは剣を使っている時に『修正』は発動させておるか?」
フェイは思いもよらないことをロディに聞いてきた。ロディは剣の稽古の際に魔力循環はやっているのだが、『修正』ギフトを発動させてはいない。
「え・・・いえ、使ってません。」
「なぜじゃ?」
「え?・・・『修正』は文章や図面などに効果がみられるようですが、動きがあるのもは関係ないと思うので。」
「それは誰が決めたんじゃ?確かめたのか?」
「それは・・・」
フェイに指摘されてロディは言葉に詰まった。『修正』は文字や絵などに効果がある。ロディはそこで先入観ができてしまい、動きがあるものに作用することは考えていなかった。しかしそれは勝手な思い込みで、実際には決まっているわけではない。そのロディの間違いをフェイの言葉で気づかされた。
「ロディのギフトはまだ誰も知らぬ未知のものじゃろう。ならば決めつける必要はない。何でもやってみればよいではないか。もしかしたら剣術にも何かしら効果があるかもしれんぞ。」
フェイは諭すようにロディに言った。
ロディは目から鱗が落ちる思いだった。自分は視野が狭く柔軟な発想ができていなかった。それをフェイに見抜かれた。それは経験の差なのだろう。
どんなに優れた若者だろうと「経験」というものは簡単には身につかない。長く、地道に継続しなければ身につかないもの。才能とは全く異なる力。ロディには足りないそれが、フェイにはある。
「わかりました。やってみます。」
ロディはフェイの助言と経験に自然と頭を下げた。
それ以降剣の稽古中ギフトを発動し続けるロディ。しかし最初のうちはなにも効果が見られなかった。ただ単に魔力を消費し続けるだけの時間が続く。ほんとうに何かしら効果が出てくるのか、と疑問がわいてくる。
しかしロディはそれをやめるつもりは全くない。
(今はとにかくやり続けるんだ。あきらめるのはまだ早い。とことんまでギフトを信じてみよう。)
『自分のギフトを信じる』。ロディは不惑の信念で剣を振るい続けた。
◇◇
”それ”が現れたのは、突然だった。
フェイから言われて継続して「修正」を発動し続けること5日目。
その日もフェイにしごかれていたロディ。フェイの剣戟を防ごうと自らの木剣をフェイの木剣に合わせようとしたそのとき、
「!!」
ロディの目に”赤いもの”が映った。それはロディが動かした両手と木剣から少し前にずれたところ。そこに自分の腕と木剣とそっくりな、半透明な赤い何かが、はっきりと。
「うぐぅっ。」
直後にうめき声をあげるロディ。赤いものに気を取られ、剣を一瞬止めたためにフェイの木剣がロディの脇腹にまともに入ったのだ。
「!?大丈夫か?どうしたのじゃ。動きが止まったぞ。」
地面に転がり痛みに身もだえるロディにに少し慌てたフェイが言葉をかける。
「いえ、大丈夫です。・・・それより、見えました。」
「?何がじゃ。」
「俺の振る剣の先に、赤い腕と剣が。・・・たぶん、ギフトだと思います。」
「なに!そうか。」
ロディは自分が見えたもののことを話し、フェイは時に質問を加えながらロディの話に聞き入った。
話を聞き終え、フェイは少し考えながらロディに言った。
「ふむ。・・・それはおそらくギフトが『正しい動き』を見せてくれたのではないかの。」
「正しい動き、ですか。」
「そうじゃのう、仮にそれを”赤い影”とでも言うておこうか。おそらくじゃが、ロディがその赤い影の通りに体を動かせばワシの剣をうまく受けることができるのじゃろう。つまり、赤い影はロディの動きの至らぬところを『修正』して、最適な動きを見せてくれているのじゃ。」
「赤い影・・・最適な動き・・・。」
「もしロディがその赤い影の通りに動くことが出来ればワシとまともに戦うことができるじゃろう。ま、あくまで”出来れば”じゃがな。」
ロディはフェイの話を聞き嬉しさが込み上げてきた。
自分のギフト「修正」は、剣術にも効果があることを見出すことができた。いや、この赤い影は、剣術だけでなくひょっとしたら体術や弓術、槍術などにも効果があるのではないか。
ロディの想像は楽しい方向に広がっていった。
「さて、まだ稽古の終わりの時間ではない。せっかくギフトの新しい力が見えたのじゃ。それを自分の力にするために続きをするぞ。」
「はい!」
ロディは高揚した気持ちのまま勢いよく返事をし、立ち上がって意気揚々と木剣を構えた。
・・・のだが・・・
バシンッ!
「げほっ!」
「ストップ!ストップじゃ。」
何度目かの木剣がロディの体にまともに入り、さすがのフェイも木剣を止める。目の前には四つん這いになったロディの額から痛みによる脂汗がにじみ出ている。
そのロディの姿を見ながらあきれたようにフェイが言う。
「まったく動けておらんじゃないか。」
「はい、すみません・・・。」
ロディのギフトが発動していないわけではない。ギフトは発動し、ロディに赤い影を見せてはいるのだ。
だが、当のロディの技術や動きがそれについていけていない。
見えている赤い影のように剣や体を動かそうとするとどうしてもワンテンポ遅れて動きがぎこちなくなり、さらにタイミングもずれてしまう。赤い影を意識するあまり、逆に動きに制約がかかってしまってしまいスムーズに動けないのだ。
「ふむ、まだ動きをトレースするには早いのじゃろうのう。おぬしにまだその力が無いのじゃ。」
理由をすぐさま理解したフェイは、残念そうにため息をついた。
「しかたない。今は赤い影を意識せず、無いものと思って動くがよかろう。」
「え。せっかく最適な動きが見えるのに。」
「見えていても使えなければ意味が無いわい。」
「う・・・」
フェイの言うことはもっともで、その通りに動けないからロディはフェイにぼこぼこにされているのだ。
「とにかく、赤い影を意識せずに普通に動くのじゃ。そのとき赤い影の動きをなるべく記憶せよ。そして稽古後に、赤い影の動きを思い出してイメージトレーニングをするのじゃ。しばらくはそれしかないのう。」
「・・・はい。」
せっかくギフトの新しい力を見出したロディだったが、すぐに使えるようなものではないことを嫌でも分からされてしまった。
世の中そんなにうまくいくもんじゃない。ロディは先ほどの高揚の反動で、急降下に意気消沈するのだった。




