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第1話 ロディ、家を借りる

 ロディの見習いギルド職員生活が始まった。


 冒険者ギルドの主な仕事は、一言で言うと「冒険者の為に様々な業務を仲介して行う」ということだ。

 仕事の依頼がある場合、依頼主の依頼内容を正確に把握し、それを冒険者に目に見える形で提示しする。依頼が完了した後には依頼の成否を的確に判断して依頼料の授受などを行う。

 またほかにも、依頼の副産物として冒険者の狩ってきた魔物やその部位などの買取り、その部位をj加工業者へ卸すなどの多種多様な業務もある。


 ロディはまずギルド掲示板へ貼り出す依頼票の作成及び貼り出業務を担当した。

 前日日没までに受領した依頼を取りまとめ、依頼票に必要事項を書き写す。上司の職員に内容をチェックしてもらった後、夜ギルドが閉じた後に貼り出す。そういう仕事を任された。

 ほかにも、日中はギルド内の掃除から始まり、書類や討伐部材、魔石の運搬など、他の職員の助手として忙しく働く。


 魔石は、魔物が体内に持つ魔力がこもった”石”で、おもに魔道具の魔法陣を起動させるエネルギー源に使用される。


 ギルドでは礼儀作法も習わせる。ロディは言葉遣いも習うよう指示され、敬語、丁寧語など厳しく指導された。これはギルドマスターであるユースフの行った冒険者ギルド改革の一環でもあった。

 以前の冒険者ギルドでは職員も敬語などを全く使わないことも普通であったが、ユースフが就任した直後に「丁寧な応対や言葉使いは住民に親しんでもらうための最初の取り組みである。」として意識改革を始めて3年、現在は職員全員が業務では丁寧な言葉遣いになっている。ロディの一人称も仕事上では「僕」ではなく「私」を使うよう指導されていた。

 そんなこんなで、ロディは忙しいながらも充実した日々を送っていた。


 ロディは当初、ギルド職員用の独身寮に住んでいた。

 孤児院の管理人であるモイスから、”約束通り”きっちり翌日に追い出されたロディは、すぐさま独身寮に入居することが出来てほっと一安心した。仕事の状況によっては、最悪しばらく野宿の可能性があったのだ。そういう意味でもロディは幸運であった。

 独身寮はギルドに隣接していて、家賃は格安で、頼めば朝夕の食事を出してくれる。味も量も申し分ない。独身の者はなかなか寮から出たがらないと聞くが、それも分かる待遇だ。

 ロディはもちろん妹を引き取って暮らすという目標は忘れていない。しかし最初から妹を引き取って生活するにはさすがに無理なため、ロディは独身寮住まいで生活費を出来るだけ切り詰めてお金を貯めていた。

 目標は二人で住む家を借りれるだけの資金を貯めること。

見習い身分であは正規職員ほど給料はもらえないのではあるが、その中でもロディの頑張りで貯金をひねり出す。


 そしてロディの努力の甲斐があり、およそ半年で目標の金額を貯めることが出来た。

 貯金のめどがついたロディは、さっそく家を探す。一軒家を借りるには最初に手付金が必要なため、自分の手持ちのお金以内に収めないといけない。幸いギルドには家の借り入れや購入の斡旋もしており、しかも職員特典として多少の割引もある。

 ギルドに紹介を依頼して2週間余りで、ロディは手持ちのお金の範囲内で十分納得できる家を見つけることができ、借入の決心をしたのだった。

「よし、これで妹を引き取って暮らすことが出来るぞ。」

 ロディは未来への希望で胸が膨らんでいた。


 入居当日、ある家の前には少年少女が二人立っていた。ロディとその妹エマである。

 その家はメルクーの街の東のはずれにあった。築30年以上で見た目にも古く、また街の中心部からは遠くてやや不便だが、その分賃料が安い。

 ロディは感慨深く家を眺め、そしてエマに振り向く。


「エマ、これが新しい俺たちの家だ。これから一緒に住むんだ。」


ロディはエマに笑顔を向けた。


 エマの外見は、栗色の髪でショートカットが似合っており、青い瞳は大きくくりくりしているいかにも活発そうな子だ。ぱっと見、美人の部類に入ると兄の欲目で思うのだが、お転婆という本性を知っているのでそこは減点部分だ。

 エマは明るい性格で元気がよく、いつも男の子と一緒に外で駆け回ったり、チャンバラごっこが好きだったり、得意の木登りをしていたりしていた。全く女の子らしくないが、元気ならばいいか、とロディは半ばあきらめていた。

 そんなエマだが意外にも料理は得意らしい。食事登板の時、たまに「今日のスープは私が作った!」と自慢げに話したりしていた。

 また裁縫も苦手ではないようで、女の子たちと一緒にしゃべりながらやっているのを見かけたこともしばし。結構女子力高い。


ロディはエマに向かって宣言するように言う。


「もうエマに孤児院のようなつらい思いをさせない。エマは俺が守る。だからエマは幸せになってほしい。」


そう言われたエマは兄を見てクスッと笑った。


「お兄ちゃん、そのセリフってまるでプロポーズみたいだよ。なになに?私で予行演習でもしてるの?いい人いるんじゃない?」

「な、いや違う、そんなんじゃない。いい人なんているわけない、俺はだな、ただエマに幸せになってほしいと思って・・。」

「えー、でも赤くなってるよ。ホントはどうかな~?」


慌てふためいて弁明するロディ。それを見てエマはからかう。


「違うって言ってるだろ。まったくもう・・」


ロディはあきれたようにため息をつく。


「フフ、わかってるって。ちょっと言ってみただけ。」


◇◇◇◇


 屈託のない笑顔で笑うエマ。その笑顔は、兄であってもやはり可愛いと思う。

 事実、エマは孤児院の男子から人気が高かった。

『エマの気持ちを聞いてくれないか』と頼まれたことはこれまで3回もある。子供のくせにませてるな、と子供ながらに思いながらエマに話すと、いつも

『自分で言ってこない子はイヤ!』

と取り付く島もない返答だ。一刀両断、あいつらもかわいそうに・・・。

 しっかしお前モテるなあ、と言うと、

『お兄ちゃんほどじゃないよ』と冗談を言ってくる。

バカ言うなよ、俺がモテるわけないだろ。

『え?なにそれ。お兄ちゃんもしかして天然なの?・・・あーあ、お兄ちゃん鈍感すぎ。もっと周りの女の子たちを見てよね』

・・・とエマは怒って言い返すのが常だった。冗談だとわかっているけど、こんな会話が楽しかった。


◇◇◇◇


 家の前で立ち止まったエマは、振り返ってまじめな表情になり、しっかりとロディを見て言った。


「お兄ちゃん。」

「ん?」

「私の為に、ありがとう。」


エマが口にしたのは、心からの感謝の言葉。


「ッ・・・・あ、当たり前のことをしただけだ。」


ロディは恥ずかしそうに頬を指で掻きながら言った。


「そうだとしても、だよ。ありがとう、お兄ちゃん。」


ロディはエマの笑顔を見る。喜びにあふれた、天使のような笑顔。この笑顔一つでこれまでのすべての苦労が報われるような気がして、ロディはその感慨に浸るのだった。


「さ、入ろ、お兄ちゃん。どんな家かなー。楽しみ。」

「古い家だから期待するなよ。」


新たな門出を切る二人、その前途に幸あれ。

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