エピローグ
ロディ、ナコリナ、エマ、レミア、テオの5人はミズマ北方の山岳地帯の森の中のひらけた場所に立っていた。
目の前には焼け落ちた建物の跡がある。あの魔法師ザルクルースが火を放った館だ。
ミズマを出発するときに、レミアとテオがどうしても行ってみたいと希望したため、5人で連れ立ってこの場所に来ていたのだ。
館は原型を分からないくらい崩れ落ち、家の壁などに使われたであろう石材やブロックは黒くすすけたまま辺りに散乱しており、わずかに残る柱の木は芯まで炭化しているかのように黒々とした姿で佇んでいる。
すでに兵士たちが調査したためであろう、ところどころで床がきれいにならされていおり、館跡の周辺にはその際に移動したと思われる雑多なものが数か所に積み上げられていた。
「大丈夫か。気分は悪くないか?」
「大丈夫だぜ。」
「私はお姉さんだから気遣い無用なのだ。」
ロディの問いに、2人は気丈に答えた。
テオとレミアが先頭に立って館の一区画に移動して立ち止まった。
「ここに部屋があって、何人か連れてこられた子供達がいたのだ。私たちはしばらく一緒に居て、いろいろ話をしたのだ。」
「同じ村から連れてこられた人も何人かいた。俺たちがここを離れる前にすでにいなくなった人もいたけど、でもまだ数人残っていたはずだ。」
レミアとテオが感情を抑えて淡々と話す。いろいろと思うところはあるのだろうが、感情を表に出さないようにふるまっている。
2人は口には出さないが、彼らはもうこの世にはいないだろうと確信に近く予想していた。火事で焼け死んだのか、その前にすでに犠牲になっていたのか、それは判らない。しかし領兵の捜索でも生存者は見つからなかったらしい。生きている可能性はほぼないだろう。
部屋のあった場所に向かい、2人は手を胸に当て目をつぶった。少し遅れて3人も同じ姿勢を取った。
5人には、ここにいたであろう人たちの冥福を祈るしかできなかった。
「・・・おや!?」
ロディが何かに気づいたような声をあげたのは、お祈りが終わった時だった。
「ロディ、どうしたの。」
「うん、ちょっと変なんだ。この下から生き物が動く反応がある。」
ロディは床下を指さす。ロディは周囲を警戒して索敵を使っていたのだが、それに何かが反応したのだ。
「ちょっと待って。・・・あ、ホントだ。わずかだけど何かいる反応があるわ。」
ロディの言葉で自分も索敵を使ったエマが、ロディの言葉を裏付けるように言う。
「下から?もしかして地下室があるのか?」
「まさか、生き残っている人がいるのだ?」
テオとロディが勢い込んで聞いてくる。しかし、しばらく集中して索敵を続けたロディは、やがて首を振った。
「地下室かもしれない。けど反応は凄く小さい。人間や魔物の反応じゃなさそうだな。」
2人は生き残りがいることを期待したのだが、ロディは否定した。ロディも「もしかして生存者かも」と期待していたのだが、索敵結果からはとてもそうは思えなかった。
「でも、でも生き物がいるということは、地下室があるかもしれないのだ。調べてみたいのだ。」
レミアがロディにお願いしてきた。テオももの言いたげな瞳で見つめている。
「確かに地下室は興味があるわ。探してみるのもいいかも。」
ナコリナが同意したため、もう少し調べてみることにした。
「地下室なら入口があるはずだけど・・・。」
5人が館を捜索して回ったが、入口らしきものは見つからない。もしあったとしてもがれきに埋もれているのだろう。膨大な量のがれきをしらみつぶしにどけていくことは不可能だ。あきらめるしかないか・・・
「いや、待てよ。あれが使えるかもしれない。」
ロディは一つの可能性に思い付いた。
「お兄ちゃん、何かいい方法を思いついた?」
「あのグライムスさんの部屋の「扉魔法」、あれを応用できないかな。」
以前、グライムスの部屋の入口にあった扉の魔法陣。空間の一部を切り取る機能があるため、入口として使用できる魔法陣だった。
「実は何かに使えないかと作るだけは作っていたんだ。これを床で使えば地下室までの空間を開けることが出来るんじゃないかな。」
ロディは収納から20cm角の木の板を取り出した。そこにはすでに魔法陣が刻まれていた。
「なるほどね。もしかしたらうまくいくかも。」
「じゃあやってみよう。」
ロディは索敵で反応があったあたりの床に木版を置き、魔力を流した。
すると、床に2m角の穴が空いた。
「す・・・すごいのだ。こんな魔法があるのだ。初めて見たのだ。」
「これも古代魔法ってやつなのか。古代魔法ってすげえ・・・。」
扉魔法を初めて見たレミアとテオが興奮して驚きと感動が混じったような声をあげた。
ロディ達が開いた穴の中を覗き込むと、周囲をブロックで形作られた空間があった。
「あ、やっぱり地下室みたいなのがある!」
ナコリナが叫んで穴に近づいた。
その時、地下の空間の中を何かがちらっと動いた。
「何?」
動くものに目を向けると、そこには1匹のネズミがいた。ネズミは突然明るくなったことに驚いたようで、「チュチュッ!!」と鳴き声を残し、素早く動いて姿が見えなくなった。
どうやら索敵はあのネズミに反応していたようだ。
「ネズミだったのか。・・・でも間違いなく人工のものが地下にあったな。」
「でも部屋というほどの広さはないし、細長いし。多分通路じゃないかしら。」
「たしかに通路っぽいな。」
「じゃあ奥に進めば何かあるかもしれないのだ。」
5人が見つけたのは地下室ではなく地下通路。奥を見るとまだ先に続いているみたいで、先が見通せなかった。
「せっかく見つけたんだ、このまま何もしないわけにはいかないよな。」
「とーぜんなのだ。」
5人とも通路を探索するのには賛成のようだ。
ロディ達は、発見した地下通路をどのように調査するかを話し合い、結果、ロディとテオが中に入って捜索し、女性陣3人は待機することになった。
扉魔法を再び発動させ、2人は素早く下に降り立つ。床に立った2人は素早く体制を整える。少なくとも近くに危険なものはないようだ。
「じゃあ行ってくるよ。」
「2人とも気を付けて。」
発動時間が過ぎ、扉が閉まると二人は暗闇に包まれた。ロディがあらかじめ取り出していたたいまつに火をつけると辺りはぼんやりと明るくなった。
2人は左右を見渡す。彼らから見て後ろの方向には、崩れ落ちたたくさんのがれきが積まれていた。そして、がれきの隙間から上に続く階段もわずかに見えていた。どうやらそこが入り口だったようだが、今は崩れて通れない。
「こっちに行くしかないな。」
テオが反対側を指さし、ロディがうなずいて、2人は足を進めた。
その通路は高さも幅も2m程度。屈んで通らないと頭が当たるかもしれないサイズだ。
2人は注意しながら進んで行った。
進みながら周りの壁を観察したが、部屋などの入り口は見当たらず、どうやら一本道の通路しかないようだ。
そして通路は石のブロックからすぐに素の土肌の通路へと変わった。ブロックで整えられているのは館の下のごく一部だけのようで、あとは堀りっぱなしらしい。
2人はずっと無言で警戒しながら進んで行く。そして、およそ500mほど進んだところで道がやや曲がり、その先に光が見えた。
「光が見える!」
2人は光に向かってさらに進んで行く。
そして歩んでいくにつれ、それがなんの光なのかが2人にはわかってきた。
光の先を突き抜けた2人が見たものは、緑の木々と、下に流れる川。
「・・・外に出たな。」
「ああ、」
その光は外からの太陽光で、通路は外につながっていた。
そこは少し切れ込んだ谷あいの小川のような場所。穴の位置は岩や草木で巧妙にカモフラージュされていて、傍から見ればその出入り口は隠れていて見えない。
「どうやら通路だけだったみたいだな。」
しばらく周辺を探したが、他にめぼしいものは何も見つからず、2人は元来た道を戻って行った。
◇◇
「通路しかなかった、ということは、この通路は何?」
屋敷跡に戻り結果を伝えた時、エマが当然に疑問を口にする。
「多分、屋敷から脱出するための隠し通路だろう。」
ロディは帰ってくるまでの間に、通路の用途をそう推測していた。
「隠し通路、それじゃもしかして・・・」
その予想を、ロディはあまり言いたくなかったが、言わないわけにはいかなかった。
「ここにいた魔法師は、この地下道を通って逃げた可能性がある。」
「「!!」」
わざわざ見つからないように作っていた地下道だ。何かあったときの脱出用と考えられる。とするならば、火事を起こした後、当の本人がこれを使った可能性が高い。
まったく予想外の事態だ。魔法師ザルクルースが生きているかもしれないなんて、想像もしていなかったのだから。
はっと気づくと、テオとレミアが真っ青になっていた。
あの魔法師が生きている可能性がある、それを聞いて平静ではいられなかったのだ。
「大丈夫よ2人とも。貴方たちはみんなで守る。約束するわ。」
ナコリナはレミアを抱きしめ、テオの目を見て伝えた。
「なんてことなの・・・。これならここに来なければよかったんじゃ・・・。」
「いや、そんなことはない。むしろ来てよかったよ。」
ロディはエマの言葉に反論した。
「魔法師が生きているかどうかはわからないけど、もし生きていたとして、突然2人の前に現れる可能性がある。その時に、彼が死んでいると思ってたら気が動転して何もできないかもしれない。でももしかして生きているかもと思っていたなら、その時魔法師に対してうまく対処できるかもしれない。それに、もしもの時にどうするかをあらかじめ考えておけるのはメリットになると思う。」
「ロディの言う通りだわ。今は気が動転してしまっているけど、それが今でよかったかもしれない。知らずに現れた時の方がはるかに危険だわ。」
ロディはレミアとテオに近づいた。
「ナコリナも言ったけど、もし魔法師が生きていたとしても、俺たちが必ず守る。約束するよ。」
それを聞いたレミアは、まだ表情は硬いが笑顔でロディに言った。
「あ、ありがとうなのだ。もちろん私もみんなを守るのだ。」
「ああ、あいつが目の前に現れたら返り討ちにしてやるぜ。」
テオも立ち直って勇ましい言葉で自身を鼓舞していた。
予想外の事実に、5人の前途にわずかに影がかかってしまった。しかしポジティブに考えれば、知らないよりは知っておいた方がよほどいい。
「さあ、みんなもう出発しましょ。次の村に夕方までにつかなきゃ大変よ。」
ナコリナが早くここを離れたほうがいいと思ったのか、すぐに出発しようと言った。
「そうだ、日が暮れる前に次の村に行かないと野宿になるぞ。」
「それはイヤだわ。」
「早く出発するのだ!」
5人はようやく元気を取り戻し、そして足早に焼け跡の館を去っていった。
果たして5人の未来に現れた暗雲は、大きくなって襲い掛かってくるのかどうか、未来の事は誰も分からない。しかしどんな困難にも力を合わせて立ち向かっていくだろう。そんな5人の後ろ姿だった。
ここまでこの物語を読んでくださってありがとうございます。
ロディのお話も第3章まで終わり、少し一区切りします。
もちろん続きの構想はあります。ご期待ください。
代わり、というわけではありませんが、近く新作をUPします
その際には近況のノートにも連絡いたしますので出来ましたら読んで楽しんでいただけたらと思います。
2023/2/19 灯火楼




