第38話 ロディ、安心する
「お、おれたちは何もやってねえよ。何かの間違いだ。」
ゴルザが慌てて騒ぎ始める。
「静かにし給え。話は後で聞く。」
フェルマーはゴルザを黙らせてから、ロディ達に顔を向けた。
「まずは訴えた君たちの言い分を聞きたい。先ほどの話に中でもあったのだが、もう少し詳細に話をしてほしい。」
「はい。」
ロディとナコリナはレミアが魔法を受けた状況を、お互いに補足しながら細かく説明した。
話を聞き終わったフェルマーは、「ふむ」と一言言ってからゴルザたちに顔を向けた。
「君たちは今の話に反論はあるかね」
「もちろんある。」
ゴルザは勢いよく立ち上がった。
「後ろに魔法を撃ったのは間違いねえ。だがそれはオークを攻撃して少しでも足止めをくらわそうとしたからだ。それが間違って子供に当たっちまったんだ。わざと攻撃したんじゃねえ。」
「なるほど。ジャイケルも、それに間違いないかね。」
話を向けられた魔法師のジャイケルは、ちょっと慌てた感じで答えた。
「あ、ああ、そうだ。コントロールがくるって子供に当たっちまったんだ。わざと当てたはずがねえ。」
「ロディ達が言うには、ゴルザは『やれ!小さい子供を狙え』というような意味の言葉で命令していたと聞いたが、それについてはどうかね。」
「い、いや、ゴルザはそんなことは言ってねえ。先頭を狙え、みたいなことを言ってた気がするが、正確には覚えてねえ。なにせ慌てちまってたからな。けど子供とは言ってねえ。こいつらは聞き間違えしてるんだ。」
「そうだぜ、俺はオークを狙えとは言ったが子供の事なんて話しちゃいねえんだ。」
「ヘンケル、君はどうかね。」
「お、おれも『子供』なんて聞いてない。」
ゴルザたちは口々にレミアを狙ったことを否定した。どうやらここまでの間に3人で言い訳を考えて口裏合わせをしていたようだ。
「ロディ達は今の話を聞いて、自分たちの聞き間違いだったという可能性をどう考えるかね。」
「俺は聞きました。『ジャイケル、やれ!小さい子供だ!』と。そしてブラストが一番小さいレミアに当たりました。聞き間違いなんて絶対にありません。」
「私もロディと同じです。聞き間違いではありません。」
ロディもナコリナもゴルザの言う『聞き間違い』をきっぱりと否定した。
しかしこうなってくると水掛け論になり、明確な証拠が無いことから判断が難しい。最悪、無罪になってしまう可能性もある。
(それだけは絶対嫌だ。みんなの命を危険にさらしたこいつらが、のうのうと冒険者を続けるなんて絶対に認められない。だけど、確かな証拠もない。どうすれば・・・。)
ロディにはなかなかいい案が浮かばず、焦りにも似た感覚が心の中に生じていた。
「双方の主張は大体わかった。内容を吟味してギルドとしての判定を行わねばならない。しかしその前に、まずギルドは被害を受けた当事者のレミアという少女に聞き取り調査を行う。当の被害者は生きていているなら証言が可能だろう。」
フェルマーは、ゴルザたちを見て言葉を続けた。
「彼女がどういう証言をするかは聞いてみなければわからないが、もし仮にロディ達と同じ証言になった場合には、ゴルザたちのパーティーは無罪というわけにはいかない。」
「な、なんでだよ。これまでそんな訴えも何度かあったけど、結局罰も何もなかったじゃねえか。」
ゴルザは過去の事例を持ち出して反論してきた。しかしフェルマーは冷静にそれに答える。
「たしかにこれまではそういう結果になったものが多かった。しかしそれは『被害者が亡くなって』いて、訴えたのが直接の被害者ではないパーティメンバーという状況がほとんどだったからだ。もし仮にレミアという少女が死んでいたならば、ロディたちの証言だけでは弱いためにそういう結果になっただろう。しかし彼女は生きている。被害者の証言は重いのだよ。」
フェルマーは、次第に顔色が悪くなってきているゴルザたちにさらに告げた。
「無論、彼女が君たちと同じ証言をした場合は、ロディ達の勘違いという結論で無罪になるがね。君たちの話が正しいなら堂々としていればいい。」
フェルマーはここで意地悪そうににやりと笑い、それを見ていたロディは確信した。
おそらくフェルマーは、今回の件はゴルザたちがオークキングから逃げるためにわざとやった考えているに違いない。明確に断言しないが、うまく誘導してゴルザたちに『罪に問われる可能性が高いぞ』と思わせるような話し方をしている。心理的に追い詰めて何かを引き出そうとしているのではないか。
それが分かってロディは少し気が楽になった。
「それから、ジャイケル。君が魔法を放って少女に当たり、彼女が危機にさらされた。これは事実だ。だから今回の結論に関わらず、間違いなく何らかの罰を与えることになる。」
「へ、あ、罰・・・?」
フェルマーの言葉に、自分が一人だけ追加で罰を受けることが分かって、ジャイケルはうろたえる。
「そしてヘンケル。」
「へ?」
まさか名前を呼ばれるとは思っていなかったヘンケルは、その大きな体をびくっとこわばらせてギルド長を見た。
彼は今までほとんど話をしていない。そしてこのタイミングで話しかけられるほど重要な立ち位置ではないはずだ。そのヘンケルにフェルマーは声をかけた。
「これまでの話を聞くと、君は『何もしていない』。指示も攻撃もしていない。ただ逃げただけだ。しかし君は先ほどゴルザのレミアに対する攻撃の指示はなかったと証言した。もしそれが被害者レミアの証言と異なっていた場合には、何もしていないはずの君にも残念ながら罰を与えなければならないのだよ。」
「へ・・へぇ。」
フェルマーと話すにつれ、ヘンケルは汗びっしょりになって小さくなっている。見かけによらず小心者のようだ。
「しかしヘンケル。君がもし『本当の事』を話したならば、君の罪を軽くすることができるだろう。なにせ君はただ逃げただけだ。もしかしたら、何の罰も無い、ということも可能かもしれない。」
「へ・・・本当か?」
「もちろんだ。君が本当のことを言うならば、だがね。」
フェルマーはヘンケルに、本当のことを言う代わりに減罰するという取引を持ち掛けた。その話にヘンケルは表情を一変させた。ロディは「このまま説得すればヘンケルは本当のことを言いそうだ」と直感した。
「騙されるんじゃねえ!!」
旗色の悪くなったゴルザが立ち上がって叫んだ。
「そんなことあるはずがねえ。お前は騙されてるんだ。喋ってもいいことなんかあるはずねえ。お前は黙ってりゃいいんだ。」
「お・・・おお。」
ゴルザの剣幕に怯えたヘンケルが、縮こまっておとなしくなった。
それを見たフェルマーは、今度はジャイケルを見据えた。
「ジャイケルは、このままでいいのかい?」
「な・・なんだよ。俺は何も言わねえ。さっき言ったことが全てだ。」
ジャイケルはヘンケルと違ってしらを切りとおすつもりのようだ。しかしフェルマーはジャイケルにさらに語りかけた。
「それが本当の事ならそれでもいい。そして君はこの中で一番重い罰を与えられることになる。」
「は・・・一番重いって。」
「さっきも言ったが、君がレミアを傷つけて危険な目にあわせた事実は変わらない。当然他の誰より罰が重くなる。しかし、」
フェルマーは言葉を切ってゴルザたちを一度見つめなおした。
「もしロディ達の話通り、君がゴルザに『命令』されて魔法を撃った、となれば話が変わってくる。」
「命令・・・。」
「君が命令により魔法を撃ったとなれば、命令した者の方が実行した者より罪は重くなる。そして君への罰は、命令されて仕方なく、という事を考慮してその分軽くなるだろう。」
「騙されるんじゃねえ!!」
ここで再びゴルザが騒ぎ出した。さっきと言葉が同じなのは語彙力が無いからだろう。
「こいつらは俺たちを陥れようとしてるんだ。だまして自分たちの思い通りにしようとしてやがるんだぜ。そんな奴らの言葉に耳を貸すな。ヘンケルもジャイケルも黙っていろよ。」
ゴルザが大声で2人に黙るように命令した。しかしフェルマーはそれを認めなかった。
「ゴルザ、静かにしなさい。私は本当のことを話してもらおうとしている。そして君にはそれを脅して遮る権利はない。静かに座っていなさい。」
「ウソをつくな!俺たちを無実の罪に陥れてようとしているに違いない。人をだまして何が楽しい。俺は何もやっちゃいねえ。何もやっちゃいねえんだよ!」
「静かに座りなさい。これが最後通告だぞ。」
フェルマーが冷静に告げるが、残念ながらゴルザにはその効果が無かった。
「うるせえ、これが黙ってられるか。インチキで俺を陥れようと・・・」
「サリサ。」
そう言ってフェルマーが後ろに立つ女性ををちらりと見た。
サリサと呼ばれた眼鏡秘書はコクリと頷くと、次の瞬間その姿が消えた。
「!!」
気付くと彼女はゴルザの後ろに移動しており、わめくゴルザの首にビシッと手刀を当てた。彼女に全く気付いていなかったゴルザは、彼女の一撃に「うっ」と一言うめいて意識を飛ばし、椅子に崩れ落ちた。
(すごい。仮にもCランク冒険者に気づかれもせず後ろを取るなんて、おそらくBランク以上の冒険者レベルなんだろうな・・)
ロディが感心してみていると、それに気づいたサリサはロディに向かってウインクをして、そして流れるように元の場所に戻って行った。
ロディの脈拍が一気に早くなった。まさかウインクされるなんて・・・。その気はないにせよ、美女にウインクされれば嬉しいに決まっている。ロディの顔が自然と緩みそうになる。
「・・・ロディ・・・」
隣からの怒りのこもった声にロディはハッとした。実体のないはずのナコリナの視線が、なぜかチクチクと刺さってくる。
ロディは咳払いをして何もなかったかのように顔の表情を引き締めた。
「さて、静かになったところでヘンケルとジャイケルには考えてもらおう。さっきの証言をそのままにするか、それとも変更するかを。」
フェルマーは残った2人にその判断を促した。
2人は黙って考えに沈んだが、それもわずかの間でしかなかった。彼らは結局、ロディ達の言った通りゴルザが「子供を狙え」と言ったことを認めた。これによりロディ達の主張は完全に認められることになった。




