第37話 ロディ、勝ち取る
ロディとナコリナは、フェルマーがギルドマスターだったことに唖然としていた。
それを見てフェルマーはいたずらが成功したかのような顔でクククッと笑った。
「新しく街にやってきた冒険者はギルド長が私であることを知ると驚くもんだが、今回はなかなか特別なシチュエーションだったね。今までで一番だ。」
「フェルマーさんがギルド長だったんですか。なぜ受付に・・・」
「ミズマのギルド長は暇だから、かな。」
フェルマーは誤魔化すように笑って言った。しかし机の上の書類の量を見てみると、今が特別な状況であるとはいえ、暇だとは考えづらい。
聞けば、フェルマーはギルド長でありながらよくギルドカウンターに顔を出し、受付に座ったり買取手続きをしたりとしているらしい。随分と職員と冒険者に近い立ち位置をとっているなと、ロディは感心するやらあきれるやら。
おそらく、冒険者と直に接したいと思っているのか、職員たちのチェックを兼ねているのか、もしくは現場が好きなのか、いずれかだろうか。
「とにかく、みんな椅子に座り給え。立ったままじゃあ話がしにくかろう。」
フェルマーは着席を促し、5人は部屋の真ん中にあるテーブル近くのソファに座った。2人と3人が向き合って対峙する形だ。
そしてフェルマーも着席し、その後ろに眼鏡秘書の女性が付き従った。
「さて、まずはダンジョンボスの変異種であるオークキングの討伐について、ギルドを代表して心から感謝する。君たちが早々に倒してくれなければ、冒険者たちの被害は計り知れないものになっただろう。」
フェルマーは今回の討伐報告に謝意を表した。
「正式にはダンジョン内にオークキングがいないことを確認してからでないと認定は出来ないが、君たちが持ってきた魔石の事を考えれば、まず間違いないだろう。」
魔石はすでにオークキングのものと鑑定されている。近隣にオークキングレベルの魔物がいないことを考えれば、ダンジョン産のオークキングのもの以外には考えられない。
「では、オークキングの発見及び討伐について説明してくれたまえ。これは今後の為の記録でもあるんだ。正確に頼むよ。」
フェルマーはまずオークキングとその群れの発見の経緯について、ゴルザたちから話を聞いた。
ゴルザたちは、身振り手振りを交えて話した。話の途中で『ボスに魔法でダメージを与えた』だの、『途中でオークを数体倒した。』だの自己貢献のアピールもそこかしこに織り込みながら。実際どうだったかは他に誰も見てないので断定できない。しかし彼らの言葉を嘘と判断することも出来ないのだ。
「・・・とまあそう言ったわけで、力及ばず逃げざるを得なかったんでさぁ。そして逃げてる途中でコイツ・・・彼らのパーティに出会ったんで。」
そこまで彼らが話し終えたところで、フェルマーは今度は話をロディ達に交代するように指示した。
ロディとナコリナは、出来るだけ必要なことを端的に、しかし自分たちの秘密に関係しそうなところはうまく省いて語った。
ボスの話をゴルザたちから聞いたこと。ボスの群れが見えたので逃げだしたこと。ゴルザたちに仲間のレミアが魔法で飛ばされたこと。レミアをかばってロディが負傷したこと。そのため逃げ遅れてボスと対峙する羽目になった事、テオの身を挺しての活躍により何とかボスを倒せた事。
レミアがゴルザたちの魔法で攻撃されたと話した時には、フェルマーはピクリと体を動かした。ゴルザたちは反論しようとしたが、「今はまだ彼らが話している。後で聞くから静かにしていなさい。」と注意されて黙らざるを得なかった。
「なるほど。おおよその話は分かった。」
一通り話し終わり、フェルマーがゆっくりと話し始めた。
「思うに、今回のボスは徘徊型のレアボスで間違いないだろう。過去に1度そのようなボスが発生したと記録されている。その時は討伐するまでにかなりの時間と損害を必要としたが、そう言った意味では早期に討伐出来て今回は幸運だった。あらためて感謝する。」
そう言ったフェルマーは、一呼吸おいて全員を見回した。
「で、今回お互いのパーティーがもめていると聞いた。これについても判断する必要があるということだな。」
「そうです。」
「1つ目は討伐の分け前のことらしいが。」
「へへ、そうなんだ。さっき説明した通り俺たちもボス討伐に協力している。だからそうだな、魔石の売上の4割は欲しいところだ。」
ゴルザは待ってましたとばかりにフェルマーに分け前を主張した。しかもその割合を1割アップさせている。全く姑息な奴らだ。
「ロディ達の主張は?」
フェルマーはロディ達に顔を向けた。
「彼らの話は実際見ていないので否定することはできません。ですが、現れたオークやオークソルジャー、そしてオークキングには傷ついている様子は全くありませんでした。」
ナコリナは、自分が見ていた事実をありのままに主張した。残念ながらロディは戦闘中のほとんどを気絶していたのでほとんど見ておらず、口をつぐんでいるしかなかった。
「てめえ、よくもそんなことを。傷ついてたはずなのにそれを見なかっただと。そんなに金が欲しいのか、この守銭奴が!」
あきれたことにゴルザは自分を差し置いてナコリナを守銭奴呼ばわりをした。さすがにナコリナはむっとしてゴルザを睨みつけた。しかし、言葉はあくまで冷静さを保ったままだった。
「私は自分の見たままを言ったまでです。変更することはありません。それと、あなたの言った言葉はそのままあなたに返します。」
「何だとこのアマ!」
「おいおい、ギルド長室でギルド長の目の前でケンカしないでほしいな。2人とも冒険者資格停止になるぞ。」
フェルマーが穏やかにくぎを刺すと、双方は一応矛を収めた。
「ではこの件について判定を下す。オークキングの魔石、および討伐功績はすべてロディ、ナコリナのパーティのものとする。」
フェルマーがあっさりした口調でロディ達の勝ちを告げた。
最初はそのあっさりとした口調に何を言われたのか頭が追い付かなかったが、やっと理解したロディが口を開いた。
「あ、あの、俺たちの主張が全部認められたということですか?」
「そう言ったつもりだが。」
「ゴルザ達には権利は全くない、ということですか。」
「そうだ。」
「やった!」
フェルマーの最低はロディ達の完全勝利だった。ロディとナコリナはハイタッチして喜んだ。
一方ゴルザは内容に納得がいかず、文句を言い始めた。
「おいおい、なんで俺たちに何もないんだよ!なんのために戦ったかわからねえじゃねえかよ。」
そんなゴルザをフェルマーは冷静な目で見つめながら説明を始めた。
「理由は簡単だ。君たちは冒険者だ。だからそのルール通りにしたまでだ。」
「ルールだって?」
「ゴルザ、君に聞こう。もし君たちがあるパーティの戦闘に遭遇して、そのパーティから『助けてくれ』とお願いされたらどうするのだね。」
「そりゃ場合にもよるが、倒せそうなら助けるな。」
「では助けた後にその報酬はどうするのだ?」
「そりゃ倒した俺たちが全部もらう・・・・。」
そこまで言ってゴルザはその先が言えなくなった。
「そうだ。助けを求めた冒険者たちを助けたら、その報酬は全て助けた者に権利がある。それが君たち冒険者のルールだ。今回オークキングを倒したのはロディのパーティだ。たとえオークたちにダメージを与えていたとしても、君たちのパーティは逃げていてその場にいなかった。ならばその権利は全てロディ達のパーティのものだ。逃げた者たちの権利はなおさら認められない。」
フェルマーはきっぱりと言い切った。
「で、でもよ。今回のオークキングは特別な存在だ。ギルドも非常事態だったんじゃないか?だったら何か俺たちに分け前があってもあってもいいじゃねえかよ。」
ゴルザはまだあきらめきれないのか、なんとか屁理屈をこねてきた。しかしフェルマーはそれを一蹴した。
「君たちから情報があったとはいえ、それだけでギルドはオークキングの存在を断定してはいない。ギルドはまだダンジョンへの立ち入りを規制し、調査隊を編成しようとしていた段階だ。ギルドがオークキングの存在を認定する前に討伐されたのならば、それは通常の討伐と何ら変わりがない。」
「けどよ・・・」
「ああ、君たちにも別途報酬はある。ダンジョンボスの異常に関する情報提供の報酬だ。君たちが文句なく受け取れる報酬だ。後で窓口で有難く受け取り給えよ。」
ゴルザたちは口を開こうとしたが、言葉は出てこなかった。どうやらあきらめたようで、恨めしそうにロディ達を睨んできた。
ちなみにダンジョンの事情に関する情報報酬は、その内容によってグレードが分けられるのだが、徘徊ボスの発見は最上位の情報提供に当たる。そしてその報酬は大銀貨1枚(10,000円くらい)だ。
ロディとナコリナは、オークキングの討伐とその報酬が認められたことに安堵した。それよりもゴルザたちの権利が認められなかったことに大満足していた。2人に弛緩した空気が漂った。
しかしフェルマーの次の言葉で、その空気は一気に霧散し、緊張が走った。
「さて、早速だがもう1件の話に入ろう。ロディ達のパーティーメンバーがゴルザたちに攻撃されたと訴えている件だ。」




