第36話 ロディ、ギルド長に会う
「マジかよ。オークキングは討伐されただと。」
「お前らすげえな。よくオークキングを倒せたな!」
「どうやって倒したんだ?教えろよ。」
「よかった。これでダンジョン封鎖はすぐにでも解かれてまた稼げるぜ。お前たちのおかげだ。」
冒険者たちはロディとナコリナを取り囲み、次々に感謝と祝福の言葉をかけた。ロディはたじたじになりながら、「ありがとう」とか、「いや、まあ。」とか照れながら返すだけだった。
「ロディさん、ナコリナさん。討伐おめでとうございます。ギルドはオークキングが討伐されたことを認定致します。それと僭越ながら、ギルドと冒険者に代わりまして、あなた方パーティに感謝いたします。」
女性職員が笑顔でロディたちを祝福し、頭を下げた。その笑顔には、オークキングを討伐するための犠牲、かかる経費や労力など、ギルドや冒険者たちの負担が消えたという安堵も含まれているのだろう。
「いえ、成り行き上討伐せざるを得ませんでしたので。しかし感謝の言葉はありがたく受け取っておみます。」
「はい。それとこの魔石ですがいかがいたしますか。できましたらギルドで買い取らせていただきたいのですが。」
「ええ、それは・・・」
「ちょっと待った」
そこへ、ロディたちの会話に待ったをかける者が現れた。ロディたちは意表を突かれ、周囲の冒険者とともに声のほうへ振り向いた。
そこには、にやにや顔で近づいてくる、例の3人組がいた。
「あいつら・・・」
ナコリナは何かにつけて邪魔をするゴルザたちに怒りのまなざしを向けた。そしてその怒りはロディもまた同様だった。
「何か用か?」
「おっと、そんな怖い顔するなよ。一緒に戦った仲じゃねえか。」
「・・・は?」
" ロディとナコリナは一瞬彼が何を言っているのか理解できず、気の抜けたような返事を返した。
ゴルザはロディのそんな様子にお構いなく話し続けた。"
「最初にボスと戦ったのは俺たちだ。その時ボスにはいくらかダメージを与えている。つまりボス討伐者としての権利は俺たちにもあるってことさ。」
「・・・」
まさに呆気にとられるとはこのことだった。ゴルザたちは自分たちもボス討伐の功労者であると名乗り出てきたのだ。
「残念ながらオークキングは倒せなくて撤退したが、まさかボスが部屋を出てくるとは思ってもみなかったぜ。だが奴らを倒せたのは俺たちが先にダメージを与えていたからだろうな。それがなきゃ倒せなかっただろうぜ。」
「・・・」
「まあ最後に倒したのはお前らだから、俺たちはそこまで欲張らねえ。まあ3割くらいの権利がほしいとこ・・・」
「いい加減にしろ!!」
ゴルザのあまりの言い草に、ロディは怒り心頭で大声で怒鳴っていた。
「俺たちが・・・俺の仲間たちが、それこそ死にそうになりながらようやく倒したオークキングだ。それをただ逃げていただけのお前たちが、討伐者としての権利をよこせだと。ふざけるな!」
「そうよ。それに私たちが戦ったオークキングは、まったくの無傷だったわ。あなたたちが戦ってダメージを与えてたなんてとても思えない。そんな寝言は寝てから言いなさいよ。」
ナコリナもお怒りモードでゴルザたちに食ってかかった。
「そんなのはお前たちが言ってるだけで誰も見ちゃいねえだろ。俺たちは確かにボスにダメージを与えていたんだ。」
「あんたたちだってただ言ってるだけで証拠もないじゃない!」
「だが俺たちはCランク冒険者3人だ。お前たちの最高位はDランク。どちらが信用できるかわかるよな、みんな。」
ゴルザは周りの冒険者たちに向かってそう言った。
彼らが言うようにたしかに当事者以外誰も目撃者がいない。となれば冒険者ランクがある程度幅を利かせてくることになる。実際、周りの冒険者たちは冒険者ランクの話をしてから少し雰囲気が変わってきた。もしかしてゴルザの言ってることは間違いではないのかも、と。
まずい、とナコリナは思った。証拠がなければあとは第三者の判断でしかない。そうなった場合互いの主張は平行線となり、結果、双方の中間で決着することが多いのだ。冗談ではない。あんな奴らにほんのわずかな利益も与えたくはない。
ナコリナの焦りを見てとったロディが、ここでナコリナに代わって進み出た。
「お前たちの言い分は今は置いておく。それより俺はお前たちに言いたいことがある。いや、お前たちじゃなくギルドにだな。」
そういってロディはギルド職員のほうに向きなおり、彼女に向かっていった。
「職員さん。このゴルザたちはボスから逃走する時に、俺たちパーティの一人を魔法で突き飛ばして犠牲にしようとしたんだ。おかげで俺たちはもう少しで全滅するところだったんだ。俺たちはゴルザたちを告発する。」
「なんですって!」
職員が叫び、再びギルド内がざわついた。いかに無頼者が多い冒険者たちであってもやってはいけない不文律というものがある。同業の冒険者を殺すことや、わざと犠牲にして逃げることなどはその最たるものだ。
「おいおい、あいつらそんなことを・・・」
「なんて奴らだ。」
ふたたびギルド内の雰囲気は変わった。もともと悪い意味で有名だったゴルザたちだ。そういういう告発にも真実味があると感じる者が多かった。
「な・・・何言いやがる。そんなことはしてねえ。」
「後ろに向かってブラストを放っただろう。俺たちのメンバーめがけて」
「そ、それはオークたちの足止めをしようとして」
「魔法の前に『やれ!小さい子供だ!』って命令してただろ。そして実際小さい子供(に見えるレミア)に当たったぞ。」
「そんなことは言ってない。聞き違いだ。」
「後ろに魔法を撃ったことは認めるんだな。」
「そりゃオークを攻撃するためだ。わざとなんてないぜ。」
ロディとゴルザは喧々囂々と言い争い、周囲もその話を主題にしてああだこうだと噂しあっていた。
そこへ口論を止める、凛とした声が響いた。
「お静かに!」
その声に口論を止めたロディとゴルザは、カウンターを見た。
そこには眼鏡をかけた女性が立っていた。いかにも『できる秘書』という雰囲気を漂わせている。
女性は喧騒がやんだことを確認してから、眼鏡を上げながら言った。
「ロディさん、ナコリナさん。ギルド長がお話を聞きたいと言っています。ギルド長室へお越しください。それと、」
彼女はロディの横のゴルザを見て、続けた。
「ロディさんの告発についてもお話を聞くそうです。ゴルザさんたち3人も同時にいらしてください。」
ロディたちはギルド長室に呼ばれた。確かに、ここまで話がこじれたら、それなりの役職の人が話を聞いて判断するしかないだろう。
(でもギルド長ってどんな人だろう。)
ミズマの街に来て日の浅いロディたちは、まだギルド長に会ったことがない。ギルド内の規律や雰囲気からすると、デルモスのような私利私欲の塊のような人では無いのはわかる。
しかし証拠もない話だけに、どのような判断をするのか全く分からない。
ロディはちらっとゴルザを見た。ゴルザは不敵な笑みを浮かべてはいたが、少し緊張している様子だった。
ロディたち5人が眼鏡美人に連れられてギルドの2階に移動して行った。そして彼女は廊下の突き当りにある「ギルド長室」と書かれた部屋の扉をノックした。
「ギルド長、ロディさんたちをお連れしました。」
「入ってくれ。」
ロディはその声に聞き覚えのあるような気がして「おや?」と思った。そしてその疑問はすぐに解消された。
ギルド長室の扉が開き、そこから執務机に座るギルド長が見えた。ギルド長は机から顔を上げ、こちらを見た。
その顔に覚えがあったロディとナコリナは同時に驚いた。
「「フェルマーさん!」」
フェルマーはロディたちを見て少し微笑んだように見えた。




