第35話 ロディ、鑑定してもらう
夕方のギルドはいつも騒がしいのだが、今日は普通とは違う。
「どうしたのかしら。」
2人が中に入って、冒険者の話に耳を傾けると、どうやらダンジョンボスの変異が原因らしい。つまりあのオークキングの事だ。
ギルドはダンジョン封鎖を決定して、緊急でダンジョンに潜っている冒険者およびダンジョン入口の店舗などに通達しようと駆けていた。
また、取り残された冒険者の救出、並びにオークキングを調査、討伐するためのパーティーを編成するため、その希望者を募っていた。
「ダンジョンの徘徊ボス、オークキングの調査パーティを募集します。冒険者ランクはC以上、参加人数上限は4組最大20人。参加報酬は1人大銀貨3枚。発見報告者には大銀貨5枚追加します。」
「おいおい、ダンジョン封鎖ってどういうことだよ。俺たちはどうやって金を稼げばいいんだよ。」
「オークキングだと、Bランクじゃねえか。しかも取り巻きが数十体だと。とてもじゃねえが勝てねえ。」
「今仲間がダンジョンに潜ってんだ。あいつは無事なのか。誰か知らないか?」
ギルド内では様々な声が飛び交っている。これまでにないほどの騒ぎの中、ロディとナコリナはお互いに顔を見合わせてフフッと笑い、そしてカウンターに進んで行った。
「あー、お前は!!」
途中、ロディの耳に聞いたことのある声が聞こえた。ロディがイヤな顔をして振り向くと、ギルド一角のテーブルにあのゴルザ一味がいた。ゴルザたちは驚愕の表情で立ち上がっていて、ロディ達を指さしている。
「い・・生きてたのかよ。」
ゴルザの言葉にロディは彼らを今にも飛びかかりそうな顔をしてギロリと睨んだ。そのロディの袖をナコリナが引っ張る。
「ロディ、気持ちはわかるけど、まずはギルドに報告しましょ。奴らのことは後よ。」
「・・・そうだね。ありがとうナコリナ。」
ロディはナコリナの意見に従い、彼らから顔をそらしてカウンターへ進んで行った。ナコリナは彼らを一瞥すると、フンっという表情をして、同じようにカウンターへと向かった。
取り残された状態のゴルザたちは、まだ同じ体勢で固まったままだった。
そして、彼らのやり取りを気にしていた者は誰もいなかった。
カウンターに座っている職員が見当たらない。それはそうだ。今はダンジョンに現れたオークキングへの対応のためにてんてこ舞いになっているのだから。自分たちの対応をしてくれたフェルマーも見当たらない。
「すいませーん。ちょっと報告したいことがあるんですけど。」
ナコリナが職員に声をかける。周辺の緊張感のある声と比較すれば、気の抜けたような声だった。
「すみません。今それどころではないんです。明日・・・いや数日後にしていただけますか。」
ナコリナの声を聞いた一人の女性職員が近づいてきて断りを入れた。忙しいのだろうが、それでも丁寧に対応してくれている。やはりこのミズマのギルドはきちんとしているな、と感じる。
「待って、オークキングに関する話です。私たちはさっきダンジョンから戻ってきました。」
その言葉を聞いて、立ち去りかけていた職員がピタリと止まり、そして足早にカウンターに戻ってきた。
「何ですって、オークキングの情報!しかもダンジョンから戻ったっばかりですか。それであれば情報はいくらでも欲しいです。今すぐ伺います。」
女性職員はカウンターに座り、メモを取りだした。
「それで、オークキングの情報とは何です?」
「あの、出来ればギルド長と話がしたいのですが。」
「残念ながらギルド長は現在多忙の為、会うことはできません。」
「重要な話なんですが、それでもですか。」
「重要かどうかは私が聞いて判断させていただきます。それで重要な内容と判断できましたらギルド長に取り次ぎいたします。」
できれば大勢がいる中で話をしたくはなかったが、そう言われては仕方が無かった。
ナコリナは仕方ないと言った表情で口を開いた。
「分かりました。では伝えます。オークキングは私たちのパーティが倒しました。今はもうオークキングはダンジョンに居ません。」
「・・・はい?」
ナコリナの話を聞いた職員の動きが止まる。頭の中でナコリナの言葉をリロードしているようだ。ようやく気を取り戻した職員がナコリナに問い返した。
「すみません、ちょっと聞き違えたみたいです。もう一度言ってくれませんか。」
「はい。オークキングは私たちのパーティが倒しました。今はもうオークキングはダンジョンに居ません。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「何ですってえええ―――――!」
女性職員は叫び声にも似た声をあげた。
それによって、喧騒に包まれていたギルド内は一瞬にして静まり、全員がカウンターに視線を向けた。
(あーあ、こうなりそうだったからギルド長に直接話をしたかったんだが・・・)
ロディとナコリナはお互いを見てため息をついた。
注目を集めてしまった職員は、周囲を見渡して赤面し、あわてて座り直して取り繕った表情になった。
「コホン。失礼しました。えっと、オークキングを倒した、ということですが、本当ですか?嘘を言っては罰せられることもありますが。」
「本当です。」
「ちなみにあなた方の冒険者ランクは?」
「二人ともDランクです。」
「パーティに高ランクの方は?」
「いません。私たちが一番上です。」
「・・・ではにわかには信じられません。オークキングはBランクです。Dランクの方が集団でも倒せるとは思いません。」
「でも本当に・・・」
「待って、ナコリナ。」
説明しようとするナコリナをロディは止めた。
「ここで押し問答するよりも、証拠を見せたほうが早いよ。」
そういってロディが一歩進み出て、袋から取り出した魔石をカウンターにゴトリと置いた。
「これがオークキングの魔石です。」
その瞬間、周囲の冒険者たちから
「「「「おおお!!」」」」
という感嘆と驚きの混じった声が響いた。冒険者はまだ注目してみていたのだ。
「あれがオークキングの魔石なのか?」
「確かにでけぇ。オークジェネラルと同じ赤色だが、大きさが明らかに違う。」
「じゃあ、奴らがオークキングを倒したっていうのは本当なのか。」
周囲のざわめきの中心で、ギルド職員の目は魔石に釘付けになっていた。
「こ・・・これは、たしかに大きな魔石。オークジェネラル以上は間違いないと思いますが・・・。少しお待ちください。鑑定の者を読んできます。」
そう言ってバックヤードに引っ込んだかと思うと、すぐさま一人の初老の男を連れて戻ってきた。
「これです。何の魔石か、鑑定してください。」
「やれやれ、今忙しいというのにまったく・・・。ん、こ、これは!」
初老の男は文句を言いながらやってきたが、魔石を見るや否やあわてて片眼鏡をかけなおすと、その魔石を手に取りじっくりと眺めた。
そしてしばらくのち、魔石を置きながらこう言った。
「色といい大きさといい、間違いなくオークキングサイズだ。それにこの魔石は新しい。倒してから1日と経っていない。」
「ということは・・・」
女性職員は鑑定士の男に恐る恐る聞き、鑑定師の男は周囲を見回し、そして最後にロディとナコリナを見てにこりと笑って言った。
「時間的に考えて、この魔石はミズマダンジョンで発生したオークキングの魔石で間違いないじゃろうな。」
「じゃあ、彼らがオークキングを倒したという話は・・・」
「この子たちがそう言っとるのか?ならその通りなのじゃろう。おめでとう、若いの。」
鑑定士はオークキングの討伐にお墨付きを与えた。
その瞬間、ギルドは冒険者たちの大歓声に包まれた。




