第33話 ロディ、復活
テオは自らのギフト「獣戦士」を発動させた。体は大きくなり、オークキングとほぼ同じ体格にまで変化していた。何よりも見た目は2足歩行の狼が巨大化したようないでたちだ。
獣化が完了たテオはオークたちを一睨みし、そして口を大きく開けて咆哮を放った。
「ウオオオォォォォォォォォォォォ!」
その咆哮は、風を起こすかの如く空気を震わせ、並み居るオークたちを硬直させた。
「これが獣化・・・すごい。」
エマが素直な感想を口にする。それほど今のテオは圧倒的な力に満ち溢れていた。
咆哮によりオークを怯ませたテオはすぐさま動いた。まず近くにいたオーク、オークソルジャーたちを、腕を振るってその爪で切り裂き、また拳で殴りつけ、一瞬で数体を再起不能にした。
それだけでは終わらない。テオはすぐさま前進し、他の取り巻きのオークたちに襲い掛かった。
「ウオオオォォォォォォォォォォォ!」
雄たけびをあげながら縦横無尽に動き回るテオ。
オークたちはテオの暴力的な力になすすべなく蹂躙されている。オークソルジャーとて例外ではない。果敢に反撃して切りつけるオークもいたが、その剣は皮膚をわずかに傷つけた程度にとどまり、代償としてテオの拳で吹き飛ばされ、数体を巻き添えにして転がっていった。
テオの奮闘により戦況は逆転した。テオに阻まれてオークはエマやナコリナに攻撃するどころか、押し込まれ続けている。
その状況を見たナコリナは、後ろにいるレミアのそばへやってきた。
「レミア、ありがとう。ロディはどう?」
「ハイヒールをかけ続けているのだ。だけどなかなか目が覚めないのだ。頭の傷がかなり深かったと思うのだ。」
「そう・・・」
苦しげな表情でレミアが答える。今は止まっているが、ロディの頭部からの出血はかなりの量だったらしく、床には血だまりが出来ていた。
「でも今テオが頑張っているから何とかなるかもしれないわ。もしかしたらこのままオークキングまで倒してしまうかもね。」
たしかに今のテオはそう信じさせるのに十分な力を披露している。エマやナコリナが、安心とは言わないまでもほっと一息つけるほどだ。
だが、ナコリナを見上げたレミアの表情は暗かった。
「あの力は、長くはもたないのだ。」
「え!?」
「獣戦士の獣化は、本当はあれほどの力は出ないのだ。体も一回り大きくなるだけ、力も倍になるくらいなのだ。」
「じゃあ、今のテオの力は、」
「あれは、テオと私の体に埋め込まれた物が、無理やりその力を強化させているのからなのだ。体の魔力をたくさん使ってああなっているのだ。」
レミアが言うには、人体実験として埋め込まれた何かは、その人のギフト能力を一時的に強大な力が発揮できるようにするものらしい。ただし、体内の魔力も相応に使うため短時間しか使えず、使用後は魔力枯渇状態になるという。
「じゃあ、テオの力は」
「もって3分くらいなのだ。それを超えれば獣化が解けて倒れてしまうのだ。」
ナコリナはテオを振り向いた。テオはまだオークを倒し続けていてその力は衰えていない。しかしそれがいつまでも続くわけではない。力が尽きる前にオークキングを倒せなかったらどうなるか・・・。
ハッと気づいて、ナコリナは再びレミアを見た。レミアの顔は少し青ざめており、額に汗が浮かんでいる。
「レミア、もしかして貴方も・・・」
「当然なのだ。私の僧侶の能力もパワーアップしているのだ。」
レミアも、その望まざる力を発揮してロディを治癒し続けていたのだ。
「こんなに魔力を使って、貴方も倒れてしまうわ。」
「構わないのだ。ロディが助かるならそれでいいのだ。この能力、ここで使うためにもらったと思うのだ。ここで力を使わければ、後悔してしまうのだ。」
そう言って、レミアはロディにその力を使い続ける。
ナコリナは何か言いたげな様子で逡巡していたが、結局何も言わずに立ち上がってテオの戦闘の様子に目をやった。
テオは、ちょうど最後の取り巻きのオークを倒したところだった。
オークを倒し切ったテオは、残るオークキングにゆっくりと振り向いた。『あとはお前だけだ』とその目が物語っている。
それまで取り巻きたちの戦闘を眺めていただけのオークキングは、左右の取り巻きの死体を眺めて、さも期待外れとでもいうような表情をしたかと思うと、テオに向き直った。
「ウオオオォォォォォォォォォォォ!」
「グオオオオオオオオァァァァァァ!」
2体の獣の咆哮が広間全体にこだまし、何倍にも増幅されたように響いてくる。エマとナコリナが耳をふさがなければ耐えられないほどに。
そしてあいさつ代わりの雄たけびのあと、両者は激突した。
オークキングが斧を振り下ろす。それをテオは躱し、斧は床にたたきつけられて床のブロックを壊し、破片が周辺に飛び散る。
テオがオークキングに殴りかかって、その満面に拳を叩きつける。オークキングは少しよろめいたが、持ちこたえてそのままお返しとばかりに拳をテオに叩き込もうとする。が、テオは持ち前のスピードで躱して懐に飛び込む。
ガシッ
両者は互いの両手の指を組んだ状態になり、力比べをしている体勢になった。
互いの腕に力が入る。一歩も譲らぬパワーのぶつかり合い。
しかし、徐々にその体勢に変化があらわわれた。
「テオが、押してる。」
力比べはテオがじりじりと前進していた。オークキングは驚きの表情をしている。
「ウオオオ!」
膠着状態から先に仕掛けたのはテオ。
テオはその体勢のまま、頭を振ってオークキングの頭に頭突きをくらわす。ダメージを受けたオークキングはたまらずたたらを踏むように1歩後退した。
そのチャンスを見逃さず再度テオの拳が振るわれ、再度オークキングの顔面にヒットし、オークキングは今度は3歩ほど後ずさった。
テオが優勢、このままオークキングを倒せる。誰もがそう思った。
が、そこでテオに異変が起こる。
殴りつけた体勢のまま、全身から力が抜けたような動きで片膝をついた体勢になったのだ。
「マズいわ。限界が来てしまったんじゃ・・」
ナコリナの言う通り、テオの体はその魔力を使い尽くし、限界に来ていた。
絶望から希望へ、希望から不安へ、運命の天秤は激しく揺れ続ける。
テオの異変を見てとったオークキングはここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。テオは何とか立ち上がって、再び両者が指を組んで力比べの体勢になった。
が、今度はオークキングが押す。テオは力が出せず苦しそうな表情をしていた。テオはじりじりと押され後退していく。
「テオ、頑張って!」
そこに、エマから応援の声がかかった。
その声を聞いたテオは、苦しげな表情を一変させ、歯を食いしばりながら死力を尽くしてオークキングを押し戻した。
「愛の力ね。」
ナコリナが小さくつぶやいた。
オークキングを押し戻したテオは、そのまま前方に突き放してオークキングとの間合いを作った。そしてテオはすぐさま拳を固めて、力を振り絞ってオークキングの体に拳を叩きこんだ。
ドォォン!!
その拳は、オークキングの胸、ちょうど魔物の核のあるあたりにたたきつけられた。外部からの衝撃で核を壊そうとする起死回生の一撃。その力はオークキングの防具にひびを入れ、オークキングを吹き飛ばし、あおむけに倒したのだった。
「「テオ!!」」
エマとナコリナは歓喜の声をあげる。
再逆転。テオはオークキングを倒したのか・・・。
しかしその希望はむなしく、オークキングは頭を上げるとゆっくりと起き上がり始めた。オークキングは倒されていなかった。テオの渾身の一撃はオークキングの防具によって阻まれ、核を破壊するには至らなかったのだ。
そしてついにテオに限界が訪れた。
オークキングの動きに逆行するかのように、テオは崩れるように前のめりに床に倒れこんだ。倒れたテオはうつぶせのまま動かず、そして、徐々にその体が小さくなり、体毛は消え、やがて元のテオの体に戻っていった。
「「テオ!!」」
エマとナコリナがあわててテオに駆け寄る。
「テオ、大丈夫!?起きて!目を覚まして!」
エマはテオに呼びかけるが、テオの反応は無く倒れ込んだままだ。
その間にオークキングは立ち上がっていた。
オークキングはその状況を見てにやりと口角を上げた。そしてテオに向かって進み、途中で床に突き刺さっていた自分の斧を抜いた。
斧を眺め、再びにやりとしたオークキングは、さらに近づいてテオ達3人の前に立った。
「ファイヤーボール、エアカッター!!」
テオをかばいながらナコリナが魔法をオークキングに撃ち込む。しかしオークキングは避けもせず魔法を受けた。魔法を受けてもダメージを受けた様子は全くない。
そしてオークキングは斧を振りかぶった。3人にたたきつけるために。
エマとナコリナはとっさにテオの体をかばうように覆いかぶさった。防ぐことはできないと知りながら、2人は目をつぶった。
オークキングの斧がその頭上に高々と掲げられる。
その時、魔法を唱える声が響いた。
「ファイヤーアロー!!」
突然現れた白いファイヤーアローがオークキングに向かって飛来する。その数3つ。
1つ目は、テオが砕いたオークキングの胸の防具部分に当たりその防具を完全に破壊し、
2つ目は1つ目と全く同じ場所に当たり、露出したオークキングの胸をえぐり、
3つ目は、1,2つ目と全く同じ場所にあやまたずに当たり、そしてそのまま突き抜けてオークキングの胸に大穴を開けた。
「グ・・グォォ・・・」
何が起こったのかわからない表情のオークキングは、胸の穴を見おろした。
そのまま数秒が過ぎ、やがて理解したかのようにオークキングは顔を上げた。オークキングの視線はファイヤーアローが撃たれた方向へとむけられ、自身の体に大穴を開けた魔法使いを目にした。
そしてそのままゆっくりと、しかし大きな音を立てて倒れこみ、やがてオークキングの巨体は消えていった。
オークキングは倒されたのだ。
呆然とオークキングの死を見ていたエマとナコリナは、オークキングが消えた後に、ハッと気づいて魔法が放たれた方向を振り向く。
そこには上半身を起こし、右腕を前に出したロディの姿があった。




