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私だけデスゲーム  作者: ゆきは なつき
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第五話「また明日」

第五話「また明日」


「最近楽しそうだな、金合歓。…ポン」

「VRゲームにハマッてんだ。…オープンリーチ」

「コンシューマーは何年もやってないなー。…カン」

「その嶺上取る必要なし。…ロン」


放課後のフードコートに女子高生四人。…麻雀でしょう。


いつものように、ただダラダラと駄弁るために、わたしはイオンでこいつらと会う。

同じ学校に通ってるわけではない。

溜まるだけの、気軽な関係。


今槍槓でアガッた下家が、国栖忽那。

瞳の濁った能面みたいな容姿が見る者に一種の恐怖を与えるが、意外と裏表のないやつだ。

勝ちたい“友達”がいて、すぐそいつの話をする。


上家の胸がでかい赤いクセ毛が赤間レナ。

斜に構えたクール女子で、若いのに金への執着が強く、ヤバいバイトをしてる。

わたしらとの麻雀で賭けたことは一度もないが。


対面の厚底ブーツ黒ネクタイが、大和マリアンヌ。本名ではない。

ネットJK。もう一度言おう、ネットJKだ。この集まりの発起人。

あるコミュニティで呼びかけたオフ会に、このフードコートで集まったのが始まり。

今思えば参加しなかった他のメンバーは、こいつがニセJKってわかってたのかもな。

結局あのコミュニティは解散したし。


「“ゼロ”がただのゲームにハマるとは思えないんだけど、タイトル聞いていいかしら?…ダブルリーチ」

「“Reincanation”知ってる?」

「知ってるも何も覇権じゃん。あたしも少しやってたわ。…現物」

「レナも?やめたのは何で?」

「いや、面白かったけど、…色々鈍って“仕事”に響きそうだったから、ね。それにRMT周りが厳禁で監視がヤバかったし」

「ふーん…」


RMTに目を光らせる運営が、わたしのチートに気づいてないのか…?

それとも黙認で泳がされてるのか…。


「で?“ゼロ”を夢中にさせてるところは?まだ聞いてないぞ?…裏目」

「…ここだけの話だぞ。わたしはゲームに命を賭けてる。…追っかけリーチ」

「!?…何?」

「またまたー。言うよねー。『俺は〇〇の為なら死ねる(キリッ)』ってやつ」

「命懸けのデスゲームって、…ハハハッ!…ツモ。ザンク」

「信じてないなー。まぁ、いいや。それより、明日大会があってさ。出ようと思ってるんだ。“ビギナーズバトルドーム”っての」

「超!エキサイティング!」

「急にどうした、大和」

「気にしないで。…あー、飛んじゃった」

「ちょうどいい。そろそろ解散しようか」

「零はその大会参加するとして、死ぬ気かい?」

「いいや、死ぬ気は毛頭ない。…だから、来週もここで待ってる!」


3人へわたしは不敵に笑ってみせた。





「さて…最終調整といくか」


所変わってバーチャル世界。

わたしは“Reincanation”ワールド内、今やすっかり馴染んだ“モーニンググローリー”に降り立っていた。

始めにひとこと謝らせて言わせていただこう。

“揺蕩う民のフェイスベール”と“揺蕩う民の服”はすでに売却した。

今のわたしは全裸か、だって?ノンノンノン、BANされちゃうよ。

というか「装備なし」状態だと購入した“パーソナルエリア”から出れなくなる仕様だから無理なのさね。


閑話休題。


わたしの姿は緑を基調にしたデジタル迷彩に包まれていた。そう、軍服である。

“モーニンググローリー”内を散策してたら、裏路地でミリタリー系装備を扱う“プレイヤー”のショップを見つけた。

そこで買った“サバゲー入門ジャケット”などをベースに“裁縫師”のスキルで改造しまくったのが今着てるやつだ。

“帝国軍特殊部隊”シリーズで身を固めたわたしを、けっこうなプレイヤーが遠巻きに避けていく。

ファンタジーな世界でこの出で立ちはやはり悪目立ちするもんだな。


わかってないな。この装備の有用性を。

いつものように、狩場である近隣ダンジョンの“グリーンボーイフォレスト”へと足を向ける。

今やすっかり庭と化した、あのホブゴブリンとの死闘を演じた地だ。


…あれから三度、遭遇した。

が、初戦の興奮はもう得られなかった。

今のわたしの敵ではないのだ。


レベルやスキル、パラメーターの問題ではない。

わたし自身の経験値が、もはやこいつらに苦戦をさせない。


「……来たか」


森の中を軽快に歩いていたわたしは、奴らの接近に気づき、足を止める。

ゴブリン5匹が、茂みより姿を見せた瞬間に、“おおよそ”均等に振っておいたパラメーターをアジリティへと一気に振る。

リアリティを求めるこの“Reincanation”。

視界の概念はモンスター側にも当てはまるらしく、緑地の中においてわたしの軍服は酷く視認しにくいらしい。

低級モンスターには恐ろしく素早く映るわたしの姿を見失ったゴブリンたち。

最後尾の個体の背後に回ったわたしは、ナイフを無言で首へと奔らせた。


その後の展開を語るまでもなく、ゴブリンは早々に全滅した。

「7秒かー。もっと縮められるなー。初撃に移るまでの時間が一番使ってる。振り直し用の数字を最初から一つに振るバンク的なところをつくるか。…いや、待てよ!そもそも振ってない状態にした方が早くなるな」

思案の為にぐるぐると歩き回るわたしの元へ、新たな来客の知らせだ。

「…よぅ、ホブゴブリン。ちょうどよかった。練習につき合え」

さっそく実践してみた。おお!初撃への移行時間が半分以下になった!


ともかく1頭が奔り出した。

吞気に戦闘開始の咆哮をあげていたホブゴブリンの懐へ密着して、放つは距離ゼロで最大威力になるスキル“寸勁”。

インパクトの瞬間に攻撃にパラメーターを振り直されたソレ。

ダンジョン最強モンスターは崩れ落ち、何もさせないまま、全てを終わらせた。

その間、わずか2秒!


「…んー、もう駄目だな。ここの奴らではサンドバックだ。かえって危機感が鈍る。…あえて接近を感知しないで不意打ちさせてみるか」


ベアトリーチェは妥協することなく、繰り返し繰り返し、また思考と試行を重ね、牙を研ぎ澄ませていく。

明日に控えたプレイヤー同士の戦いを最高に楽しみ、そして生き残るために。


本番へのスタミナを消耗しきらないために、動きの確認に納得がいった時点でログアウトした。



金合歓零に戻ったわたしはゲームの端末を外してベッドを降りた。

ちゃんと晩御飯を食べて、しっかりと寝て、万全の状態で明日の“殺し合い”に臨みたいからね。


リビングに降りる前に、弟の部屋に寄ってみた。

「よぉ、悠太。…久しぶりに、ここで話したくなってな」




    *     *     *




「でねー。明日の大会出ることにしたんだ」


『何だよ、ハマってるじゃん。最初は渋ってたくせに』


「やってみたら面白くて。そういえば、けっきょくゲーム内で会えてないけど、なんて名前でログインしてるの?真央」


『内緒。そこは劇的に明かしたいじゃん。…にしても、ずいぶんとピーキーなキャラメイクにしたもんだな』


「えへへ」


『来瑠子と透も始めたらしいね。大会で戦うかもな。ダチでもかまうな。ぶちのめしてやれ』


「えー!?…うーん」


『ま、プレイスタイルは、個々の自由だ。リアルと一緒でな。わたしは大会の参加資格ないから、楽しく観戦させてもらうよ。がんばれよ』


「ありがとう、がんばる!」


「拓人ー!ご飯できたわよー!」

「うん!すぐ行くよー!…お母さんに呼ばれた。じゃあね、真央。また明日」

『ん、おやすみ』


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