⑥
あれから2ヶ月経ちました……!
二人で毎日の様に勉強会を開きガーネットに勉強を教え捲った甲斐もあって今日返された彼女のテスト結果は52点 41点 34点 25点 94点!! 20点以上取れれば追試は無いッ!
因みに彼女はこれまで勉強を疎かにしていたせいで基礎が全くできていなかった。そこらのスタートだった故、最初は正直ダメかと思った。だが案外やる気になってくれて彼女の努力の成果でここまでの点数を叩き出せた。
「凄い! 凄いよガーネット!!」
俺は学院帰りキーハンコ公爵邸に寄り、玄関ホールの隅にあるロココ調テーブルソファーに腰を掛けながら興奮気味に試験結果を見ていた。
「むふ。こんなに凄い点数取れたの初めて。 嬉しいわ」
ガーネットも頬を赤らめて興奮している。 テーブルを囲っているこの家の使用人の中にはハンカチで涙を拭う者もいる。
「君はやればできるんだな……。 私も嬉しいよ」
俺は使用人の前では一人称は『私』を使っている。
「ジャ……殿下が教えてくれたおかげよ! 他の人が教えたんじゃやる気にならなかったわ」
「いや君の努力の賜物だよ。 正直見直した」
「ありがとう、……殿下」
「これからも勉強は継続しよう。 私もなるべく時間を作るから」
「はい」
彼女は微笑んだ。その笑顔は宝石の様にキラキラしていた。
ガーネットが俺の答案用紙も見たいと言うので見せてあげた。
「全教科100点なのね。 殿下は全く勉強していなかったのに」
「まぁね」
俺にとって今の授業内容は基礎的なことばかりで、勉強する必要はなかった。
「あ、あとね。 ずっと言おうと思っていたことがあるの。 なかなか言い出せなくて……」
俺の答案用紙を見終えたガーネットは気まずそうに話しを切り出す。
「ん? なんだ?」
「前にね……、その……、上履きに画鋲入れてごめんなさい」
彼女は椅子に座ったまま深く頭を下げた。
そんなことあったなー。
「いや、いいんだ。 もう気にしないでくれ」
あれは彼女が世間知らず故の行動だと思っている。 あの時はかなりムカついたけど、もうすっかり忘れたよ。
「 …… 」
彼女は申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「でだ、明日は学園の夜会がある。 参加するよね?」
「私……大丈夫かしら?」
不安げな表情をするガーネット。まぁ夜会初参加だしな。
演奏を聴きながら美味い料理を食べ酒を飲んで気が向いたら踊るのがこの国の夜会だ。 参加者も色々で軽く挨拶程度でしか参加しない者いればがっつり楽しむ者もいるし人脈作りに勤しむ者もいる。
俺は王族だから引っ張りだこになることが多いが、明日の夜会はモリナガさんとアンドリューにしっかりガードさせて彼女との時間を作る積りだ。
「私がエスコトートするから君を一人にはしないよ。 だから一緒に楽しもう」
「……うん」
ガーネットは恥ずかしそうに頷いた。
気のせいか彼女は前よりも喜怒哀楽を表に出すようになった。
そんな感じで話しをしていると。
「あらジャン。 いらしてたのね」
帰宅した叔母上が玄関からこちらのテーブルに歩いてくる。
「お邪魔しております。 叔母上」
俺は立ち上がり、胸に手をあて頭を下げる。
「マ、お母様、試験の結果が返ってきました。 それを殿下に見てもらっていたところです」
ガーネットはここ最近、叔母上のことを人前ではお母様と呼ぶようになった。俺のことも殿下と呼ぶ。それに敬語も使えるようになった。 俺がチクチク小言を言い続けたせいなんだけど。
叔母上はテーブルのティーカップの横に並べてあった答案用紙見て目を見開く。
「これ貴女のテストなの?」
「はい」
「信じられないわ。 こんなのって。 だって今まで凄く良くても10点も取れなかったじゃない」
え?そうなの? 初耳なんですけど……?
「家庭教師を付けても邪険にするだけで勉強なんてしなかったのに……」
「ごめんなさい」
「違うの。 褒めているのよ。 よくやったわ。 頑張ったのね。 凄いわ、ガーネット!」
叔母上は半泣きでソファーに座るガーネットを抱きしめた。
「ジャン、貴方教師に向いているわね。 教えるのが上手いわ」
「いえ、全てはガーネット嬢の精進の成果ですよ」
教師か。残念ながら俺が教師になることはない。
俺は国王になる。 そしてこの国は亡びる。 このままだと……。