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 俺はガーネットに漫画の描き方を教えた。線を引いてブロックを作る。その中に絵を入れる。セリフは吹き出しに入れると読み易い等を話した。


「ガーネット嬢、それでどうして私と婚約破棄したいんだ?」


 彼女は表情の起伏が乏しい。 それでもさっきまで少しは楽しそうだったのに急に不機嫌な顔になった。 何か不快なことを言ったのだろうか?


「名前、ガーネットって呼んで欲しいの。一人称も『俺』がいい。昔みたいに……。 さっき本を読んでいる時は言ってくれたわ。 私はジャンのこと殿下とか王太子様なんて呼べない」


 それ不敬罪です!


 さっきは本に夢中でうっかりしていたが、この国には身分制度がある。その頂点に立つ王族を許し無しに呼び捨てにすることはできない。

 俺が使っている一人称の『私』や令嬢の名前に『嬢』を付けるのだって貴族としての礼儀作法だ。


「二人でいる時はそれでいいよ。ガーネット」


「うん」


 彼女は艶やかな紫色のサラサラな髪を小刻みに揺らしコクリと頷いた。


「でも!人前では貴族の礼儀作法を守ろう。 叔父上や叔母上のことだってパパ、ママじゃなくてお父様、お母様って呼ばないといけないし敬語も使わないといけないよ。 俺のことだって外では殿下って呼ばないとな」


「口うるさいわね」


「ぐぬ。 しょうがないだろ。 そういうものなんだから」


「ちゃんと出来る自信ないわ」


「人前だけでいいから頑張ってみようよ?」


「……わかった。 ジャンが言うなら頑張ってみる」


 この子は学園のテストもダメダメだったが、それ以前に貴族の振る舞いもダメダメだ。せめてそれくらいは改善しないと周りからつま弾きにされるし、叔父上や叔母上の顔に泥を塗ることにる。



「でだ、婚約破棄の話に戻るけど、理由を教えてくれないか」


「あなたに婚約破棄してもらうと望みが叶うと聞いたの。それは本当?」


「ああ本当だ」


 俺に婚約破棄されると相手の娘は願いが叶う。意中の男性と結ばれたり、不思議な力に目覚めて無双したりする。


「やっぱりそうなのね。 私、絵が上手くなりたいの。 本の絵、見たでしょ?」


「見たな……」


 人が野菜に見えるやつだ。ぶっちゃけかなり下手糞だった。

 絵の上達が強い願いなら婚約破棄すれば突然謎のスキルに目覚めて絵が上手くなる可能性はある。


 でも……。


「絵って練習すれば上手くなるんじゃないか?」


「ずっと練習しているのよ。 習いもしたわ。 でも全く上達しないの。 人が野菜に見えるのよ」


 だからポテトがキャロットにntrされてオニオンがパンプキンとキスしてたのか! 納得!


「なら人を使えばよいんじゃないか? 君がストーリーを考えて絵は誰かに頼む、とか?」


「それは嫌。 自分で描きたいし、……人に見られるの恥ずかしいわ」


 俺には見せてくれたけど……。なるほどな、彼女がそうしたいのなら婚約破棄なんて朝メシ前だし別にやってもいい。

 問題はザマァなんだが今回は危険なザマァにならなそうだ。


「わかった。 その婚約破棄引き受けよう」


「ありがとう」


 ガーネットは胸を撫で下ろす。





「ただ条件がある」


「なに?」


「今度、夜会に参加してくれないか」


 彼女は貴族の社交会に全く参加しない。 そういう場で他の令嬢の所作を見て礼儀作法はみがかれていくものだ。


「絶対に嫌よ。 私なんて一人ぼっちになるに決まっている。 それにもし話しかけられても上手く返事ができないわ」


「そこは安心してくれ。 俺が常にそばにいてエスコートするから」


 俺には王太子という身分がある。彼女が多少粗相をやらかしても上手くフォローできるだろう。


「一人ぼっちにしない?」


「ああ、約束する」


「それなら…… うん…… 行ってみたいかな」


「それに人付き合いは君の作品作りに役立つんじゃないか?」


「うん。 きっとそうね」


 ガーネットは宝石の様な青い瞳を細め可愛らしく微笑む。




「なら決まりだな。 それと学園の試験前に我が家で試験勉強をしているのだが、君も参加してくれないか?」


「二人で勉強するの?」


「いや、俺はいつも使用人のモリナガさんとアンドリューに勉強を教えているんだよ。 そこに参加してくれれば君にも教えるから。 あの点数だと卒業できないぞ」


「アンドリューって?」


「いつも俺の横にいる緑の髪の執事だよ。 背の小さい」


「?」


 彼女は小首を傾げる。誰だそれってリアクションだ。


「人がいるなら行かない。 問題ないわ。 パパの口添えで卒業できるから。 これまでだってそうしてきたし」


 大貴族である六貴族の口添えがあれば大抵のごり押しは可能だろう。でも――。


「ガーネットッ!」


 俺は強い口調で名を呼んだ。


「なに?」


「それは許容できない。 貴族の権力は国を守る為にある。 不正で私利私欲を満たす為にある訳ではない。 これからはそんなことをしないでくれ」


「でもパパが学院長の胸倉を掴んで睨みを利かせればオールオッケーって言ってたわよ?」


 どうしようもないクズだな!あの親父!


「もしそんなことを続けるなら俺は君のことを嫌いになると思う。俺に嫌われるのと学院を卒業するのどっちがいいんだ?」


 何この質問。 俺キモっ。

 学園の不正に関してはいちいち取り締まっていられない程横行しているのが現状だ。詳しくは割愛するが、ガーネットのように親の金や権力で不正をする輩は結構いる。いつかは改革しないといけない問題だ。


「ジャンに嫌われる方が、嫌」


 え?そうなの? この子可愛いところあるな。


「だから学園を辞めるわ」


 えええええ? 意味がわからん!


「何でそうなるんだよ?」


「だって勉強はできないし、ジャンに嫌われたくないから……」


 発想がポンコツすぎる! このままだと本当に辞めかねない。


 因みにこの部屋は盗聴されている。左右隣りの部屋に数名ずつ人が配置されていて俺達の会話は筒抜けだ。 まぁ未婚令嬢の部屋に上がっているのだから当然の処置なのだが。

 更に遠方からもこの部屋は覗かれている。 これは不測の事態に備えたモリナガさんかな……。


 このまま話しの流れでガーネットが退学することになったら叔父上やからにどんな追い込みを掛けられるかわからない。


「大丈夫だ、ガーネット。 俺が付きっ切りで教えるから。 部屋を分けて二人になれるようにして教えるよ。 な? それなら問題ないだろう?」


「うーん……、それなら、勉強してもいいけど」







最後まで読んでいただきありがとうございます。

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