908話 我が子はフラン
貧乏神は唖然としていた。
フランケンを浄化してそれぞれの元へと送り出したまでは良かった。神の力があってこそできる物である。
所が、浄化したフランケンであるが残っていた者がいる。
元のフランケンが人々の寄せ集めであった。だがそれだけで大きな体を動かし、人になる為に動かすことは出来ない。そこに確固たる意志がなければ行動できないのである。フランケンはその意識が芽生えていたのだ。
パーツの集まりであったフランケンであるが、一つの肉の塊が各パーツを繋いでいた。その一つの塊に希薄であるが意識が芽生えてしまったのだ。
「おんぎゃぁぁぁぁーー、おぎゃーーーー。おぎゃーーー。」
「・・・ワシがこの齢で子持ちになるのか。・・・・」
貧乏神は焦った。貧乏神初めての子供であった。
「うっ、おおおおっぱいをやらねば。」
思考の止まっていた貧乏神は何と自分の胸を赤ん坊に押し付けた。幾ら神でも無謀である。男である貧乏神がおっぱいを与える事等出来るはずがない。
「うおおおおお、ワシではおっぱいが出る訳ない。女子を探さなければ。」
焦る貧乏神であるが、子供を産み、育てている者でなければ出る訳ないのであるがそこはまだ気づいていなかった。
貧乏神は神域を飛び出し、必死に探し回っていた。
「泣くなーー、泣くなー、今おっぱいを探しておるからなー。」
必死に探し回る貧乏売神の前に子育て中の狼を見つける。貧乏神はその狼に近づき、母狼に見えるように赤ん坊を見せる。
母狼は慈愛に満ちた表情をしている。泣く赤ん坊が子育て中の子供たちとダブったのかもしれない。
母狼はごろんと寝転がり腹を見せる。
貧乏神は赤ん坊を母狼の乳房に近づける。すると赤ん坊は乳房に吸い付きゴクゴクと嬉しそうに飲んでいく。
少しだけホッとした貧乏神。
ゴクゴクと飲み終わると赤ん坊はすぐに寝てしまった。
母狼は赤ん坊をぺろぺろとなめている。母狼の周りの子供狼も興味津々な様子である。
その様子を静かに見ていた貧乏神は母狼に子育てを頼む事にしたのだ。さすが神だけはある。母狼と意思疎通が出来るのだ。言葉をしゃべる事に出来ない狼であるが、神の言葉は理解しているようだ。
「ウオン。」
「そうか育ててくれるか、ならばこの場所を安全にせねばな。」
貧乏神は、母狼の縄張りを神域とした。魔物であるこの狼はフォレストウルフであった。
貧乏神は、母狼の為に色々と世話を焼くようになる。赤ん坊の様子を見るためもあるが、母狼の為に獲物の差し入れや子供狼の為に水飲み場、寝床を作っていったのだ。もう完全な飼い狼である。
「ふぉふぉ、今日も元気じゃなー。いい子じゃ、よい子じゃ。」
「「「ワンワン。」」」尻尾がブンブン
貧乏神の周りを走り回る子供狼は3兄弟である。
この子供たちは神域に影響されたのか数日でかなり大きく育っていた。
母狼も知性が芽生えた表情となっていた。
「母狼よ、いつもすまんのー、これは土産じゃ。」
貧乏神の作った小屋に母狼と赤ん坊がいる。小屋といってもかなり立派な物である。赤ん坊用のベットに貧乏神用の椅子やテーブルがあり、母狼様にクッション迄用意されている。
「ウヲォン。」
「おーべっびんさんじゃな。」
貧乏神は来るたびに母狼を褒めている。
「今日はお眠じゃな。ちと遅かったかな。」
赤ん坊は寝ていたが30分もすると泣き出していた。
「おおおおいい子じゃ、いい子じゃ。」
貧乏神は今までにない幸せを感じていた。家族の温かみを味わっていたのである。
神と狼の親子、そして人間の子供、どうやっても繋がる事の無い者同士である。それが家族の様に暮らしているのだ。
貧乏神はこの幸せを長続きさせようと森全体に迄神域を広げていた。母狼の敵になりそうな魔物たちを狩りつくし、子供狼や赤ん坊が安心して遊べる環境つくりを行なっていたのである。
「ぬおおおおおおおーーー、この森は母狼の縄張りじゃーーー、どけー。」
「「「「うぎゃー。」」」」
魔物たちは逃げ出す。森の外へと逃げ出していった。主に肉食を追い出し。それ以外は住まわせるようにしていた。
貧乏神は必至に考え環境つくりに邁進していた。
「これがよいな、子供狼ように、これとこれを…こうして・・・こうやって・・・」
そこにアレクがやってきた。
「貧乏神、お前狼に手を出したのか、いくら貧乏でも拙いんじゃないか。あまりにも節操がないだろう。」
「何を言っとるんじゃ。この母狼に赤ん坊の面倒を見て貰っとるんじゃ。勘違いするな。」
「えっ赤ん坊?」
ベビーベッドで静かに眠る赤ん坊がいる。
「この子、誘拐でもしたのか、貧乏神拙いだろう。俺が戻してきてやる、一緒に謝ってやるからな。一緒に謝りに行こうな。」
「誘拐なんかするかーー、ワシは神じゃぞ。」
アレクは合われるような表情で貧乏神を見ている。神の国で段々と馬鹿になる人たちを見てきているせいで人は馬鹿になると思ってしまっていたのかもしれない。
怒る貧乏神であったが、アレクにフランケンのことを説明する。
「おーーそうだったんだ。早く行ってくれよー。アハハハ。」
「速攻で勘違いしていたではないか。」
「まぁまぁ貧乏神、そう怒るなよ。それより神の国でのことだけど、どう思う。」
「そうじゃな、まずは神の血を飲んでおるな。再生能力が異常なのは神の血のおかげじゃな。」
「やっぱいそうか、小さく切り刻まないと殺せないか。」
「そうじゃな、それでも完全には死なないな。小さな人が出来る可能性はあるぞ。」
「マジか。」
アレクは想像してしまった。小指(小人)がいっぱいになる想像であった。
アレクは小人の事も貧乏神に伝える。
「そ奴をみてみたいのう。」
「大丈夫だろう、行くとき誘うよ。」
「楽しみにしておるよ。フォフォフォ。」
「それよりこの赤ん坊名前は何ているんだ。」
「・・・・・・」
「まさかな名無しじゃ無いよな。」
「・・・忘れていた。」
「貧乏神が親なんだろう。いい名前を付けてやれよ。」
「ワシが親・・・・・」
貧乏神は感動していた。
「そうじゃな、よい名を与えないとな。」
「我が子よ。我が子フラン。我が子フランに祝福を」
美徳の神(貧乏神)である神が名づけを行なった。そして祝福を送ったのである。
アース全体が震えていた。土、水、木や草花、全てのモノが神の祝福に喜んでいる。