886話 脱出計画
外へ出るためにアレクは毎日資料室へ通っていた。資料室には興味深い物が多く。中和剤を始め幾つもの発見があった。
「コー、この資料を書き写してくれ。」
「りょーうかーい。」
「おーアレク。」
「カイン兄、船の方はどうですか。」
「順調だぞ。今はレッドが現場監督しているから問題ない。」
「カイン兄、それカイン兄の仕事でしょう。」
「固いこと言うなよ。俺は俺で脱出の為に色々と聞き込みしているんだよ。」
「へー何か情報ありましたか。」
「あったぞ。色んな研究者の中で出回っている地図だ。」
「地図?」
「そうだ、この巨大魔物の地図だ。」
「そんなものが在ったんですか。」
「まぁ本物かは分からないが、これだ。」
その地図は巨大魔物の解剖図であった。巨大魔物内では絶対に作る事が出来ないものであった。
「これ、絶対に想像図でしょう。」
「だけど、かなりリアルだろう。それとこれだ。」
カインの差し出した物は、一冊の本であった。
「この本は?」
「食料100日分で買った。」
「カイン兄、まさかマジックバックの中身を整理したんじゃないですよね。」
「ババババカなこと言うなよ。おおお俺は親切で肉を売ったんだ。」
カインは、自分のマジックバック内にあった魔物の肉と本を交換していたのである。その肉はもちろんカインが狩りをしてしまっていた物である。決して、決して忘れていたわけではない。
カインが差し出した本は、ある意味日記であった。毎日の生活の中で知りえた事、巨大魔物の生態、そして脱出のカギとなるであろう、詳細な消化液の研究成果が書かれていた。
「カイン兄、これ凄いですよ。この人ティムで色々と調べたんですね。」
「ティムって魔物を従わす能力だろう。この巨大魔物を従わせたのか。」
「違いますよ。この中にいる寄生虫をティムしたんですよ。それで内部構造を調べたんです。あの地図を造った人がこの本の作者ですね。」
「おーーー、じゃぁあの地図は本物か。」
「ですね。」
だがこれで脱出路が2本以上ある事が確定してしまった。誰にでもわかる事だが生物は口から飲み込んでものを食べ消化して出すのだ。入口と出口2か所あるのだ。
「正確には俺たちが落とされた換気口もありますから数か所の入り口があります。どこを狙っていくかが一番のカギとなるでしょう。」
「今までは肛門に向かっていたんだろうな。」
「そうですね、消化液と水の流れがそっちに向かっていますからね。」
「逆だと消化液が出ないと言う事だろう。」
「そうですが、口に向かうのは難しいでしょうね。出て又飲み込まれる恐れがありますからね。それなら俺たちが落とされた換気口の方がまだいいでしょう。でもそれでは大人数の脱出は難しいでしょうね。それに換気口は内側からは開きません。」
「・・・ケ・・ケツから出るのか、何かいやだな。」
「カイン兄、それは仕方ないでしょう。入口から出るより出口から出る方が簡単ですから。」
それからアレクは、調べつくした。
「ガウル。いるかー。」
「どうした。アレクさん。」
「ガウル。この町はとりあえずは安心だ。町に消化液が降る事は無いな。」
「本当か、何故わかる。」
アレクは地図と本を出し説明していく。
「この町はここで塞がれているんだ。元々は巨大魔物の排泄口が3つあるんだ。その一つを先人が塞いだんだ。」
「そんなことできるのか。」
「出来たから町があるんだ。まぁ運も味方したんだろうな。この場所は神経が通っていないんだ。だから町(遺物)があっても何も感じないのだろうな。」
「そうかなら脱出の時にその神経を斬りながら進めば出られると言う事なのか。」
「それは無理だな。巨大魔物が激痛でのたうち回るだろう。中にいる者がぐちゃぐちゃになるぞ。」
「・・・そうか。」
「ガウル、本当は外に出たいんだろう。」
「嗚呼、出たいな。本当は8割以上の者達は出たいと思っているよ。だけど出る事が出来ないと思っている。」
「俺たちが脱出に成功したら、次はガウルたちを脱出させる。外から物資も補給する。」
「成功しそうなのか。」
「うまくいく。俺やカイン、レッドは、バリアを張れるからな。外へ出たら消化液に耐えられるバリア(魔道具)を送る。それで脱出をしてくれ。」
「ならば、先にお前たちだけで脱出すのか。」
「それは今更出来ないだろう。外へ出れると頑張っている者達がいるからな。それに船3隻なら一人一隻でバリアも張れるからな。あの人数なら大丈夫だよ。」
だが噂とは恐ろしい物であった。まだ脱出も成功していないのに第2陣の脱出者募集の噂が広がっていた。
「おい、聞いたか、今度の第一陣は、バリアで守られているんだってよ。」
「応、知っているぞ、何でも消化液もきかないバリアだってな。本当なのか。」
「町長のガウルが言っているんだ間違いないだろうよ。」
「ガウルが言っているのか、じゃぁ第二陣の噂もガウルからだな。俺も応募して外へ出るかな。へへへ」
「お前は肉を食ってから外、外とうるさくなったよな。」
「へへへ当たり前だろうよ。魚ばかりだったのに肉を食べたんだ。あの肉の味を思い出したんだ。外へ出たいと思うだろう。」
「だよなー。」
酔ったガウルが喋ったことが町中に広がっていた。嬉しさのあまりほろ酔いのガウルが悪いのだが、肉を提供したカインの少しだけ責任があった。
「アレクさん、船の確認をお願いします。」
「おう、よくできているな。」
「アレクさんのおかげですよ。こんなに大量の布普通用意出来ませんよ。」
「マジックバックに入っていたんだよ。」
「ですが、脱出後の浮き輪ですか、脱出後の事なんて普通考えませんよ。」
「海の中に出るんだぞ。泳げないやつもいるだろう。船に乗っていると言っても船が壊れるかもしれないからな。」
そうアレクは大量の布を使い。浮き輪を造ったのだ。もちろん普通の布ではない。水を通さない空気が漏れないように加工している。
「残りの布は町に置いていくから好きに使えよ。」
「ありがとうございます。布は貴重ですから助かります。」
「他にもある物は置いていくから好きに使ってくれ。」
アレクとカイン、レッドはマジックバックにしまわれていた。大量の食料と布や魔道具を町に寄付していく予定である。
「ガウル、これ使え。」
「こここれはママジックバックじゃないか。いいのか。」
「ああいいぞ、この中に食料とか色々はいっているから町に寄付するよ。」
ガウルはマジックバックを拝むように受け取っていた。