829話 カイン現われる
そんなのどかな朝の始まりも長くは続かなかった。
このクルド村にメイシス領軍が押し寄せてきていた。昼前にメイシス両軍はクルド村の入り口を塞ぐように展開している。
村人たちは大騒ぎとなっている。突然村を軍隊が囲んでしまったのだ。
メイシス領軍の将軍は、渋い顔をしている。メイシス領主にドラゴンとの交渉を命じられているかのである。
将軍は一人前に出ていく。
「此処にドラゴンたちがとどまっていると聞いて事実か。」
「はい事実でございます。」村長
将軍は、村の中でのんびりしているドラゴンが見えている。
「ドラゴンと話は出来るか。」
「聞いてみます。」
村長は自分で考える事をやめていた。メッセンジャーになる事で生き残ろうとしていた。
村長は、裏ボスである、マッカに話をした。マッサオに話してもマッカ次第ですべてが覆されるからである。
そんな事をぐずぐずとやっていると、遠くの空から大きなレッドドラゴンが飛んできていた。
レッドドラゴンは、人の集まっている軍の前に舞い降りたのだ。
「おーーーお迎えご苦労。」
「みんなー、元気ですかー。」
場に会わない掛け声に何も言えない村人と軍人達であった。
「パープルから誘われたんだ。宴会あるんだってな。」
「カイン。昨日宴会は終わったよ。」
マッカの言葉に愕然とするカインとレッド。
「宴会は今日もやるぞ。」
「待ってくれ、こちらの話を先に宜しいか。」
「ん、お前誰だ。」
「私はメイシス領のカイジンと申します。軍を率いております。」
「軍、こんな村に軍隊を連れてきているのか、お前戦争をする気なのか。」
カインの威圧が将軍に刺さる。
「うっ、いいえ戦争などするつもりはありません。軍の訓練を兼ねて立ち寄っただけです。」
「へーそうなのか、なら今日の宴会に参加していいぞ。」
将軍は、軍人である。カインとレッドを見た瞬間に逆らってはいけない存在だと瞬時に理解した。ドラゴンであるレッドはもちろんであるが、人であるカインを見て恐怖したのだ。人の姿をしているがドラゴンよりも強い存在感であった。
「よーーーし、俺が酒と肉を出すぞー。村人には食事に手配を頼む。一人銀貨2枚出すぞー。」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」
「村長はいるか。」
「はははい、私が村長です。」
「これ金な、後で配ってくれ。それと酒と肉はこれな。」
カインはマジックバックからこれでもかという程酒と肉を出していた。村人と軍隊の人数を見て題しているのだが、多少多めに出していた。
3日連続の宴会が決定してしまった。今は昼を少し過ぎたあたりである。屍たちがやっと動けるようになったあたりである。
屍たちは今日も宴会と聞きつけて、早速準備を手伝っていた。この男達は村の仕事をこの二日全くしていない。
「おい、軍をもっと村から離れさせろ人が通れないだろう。」
「はい。移動させます。」
「それじゃぁこれ持っていけ。」
「はぁ?」
カインは酒と食料を指さしている。
将軍はカインが何を言っているのかを理解できなかった。宴会は村人たちで開かれると思っていたのである。自分たちは参加しないと思っていたのだ。
「ほら人数が多いから別々にやらないとな。軍隊は村から少し離れてやれよ。お前は村の方に参加してもいいぞ。」
「こんないただいてもよろしいのでしょうか。」
「嗚呼問題ないぞ。兵にたらふく食べさせてやれよ。村から料理した物を運ばせるから先に飲んどけよ。」
「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」」」
突然兵たちの唸り声がした。兵たちは将軍とカインの話に聞き耳と立てていたのである。戦闘も覚悟していた。戦死も覚悟していた兵たちである。それが大宴会で飲み放題、食べ放題になったのだ。喜ばない訳がない。
「今日は、好きに飲めー、好きなだけ食べていいぞー。この将軍のおごりだー。」
「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」」」
「えっ。」将軍の顔が真っ青になっていく。そんな金は持っていないからである。
「大丈夫だよ。俺のおごりだ。将軍の兵達だろう。将軍が奢る方が受けがいいだろう。」
宴会の始まる前、カインとレッド、カイジン将軍は村長宅で話し合っていた。
「それで本当は何できたんだ。」
「・・・・・領主からの指示で、ドラゴンとの交渉です。」
「ドラゴンと交渉?何を交渉するつもりだったんだ。」
「メイシス領都にお出で貰う交渉です。」
「はぁ?」
カイジンの話は、興味深い物であった。(カインは興味なしであった)
今のメイシス領は、周りの領地に比べかなりの広さを保っている。その為に周りの領主たちが連合を組み、メイシス領に侵略を計画しているのである。それを止める手立てが今のメイシス領にはなかったのだ。だがメイシス領のはずれでドラゴン現われるの報が領都に来たのだ。調査と交渉を兼ねた一軍が派遣されたのである。
「ふーーーん、戦争か。」
カインの触手がピクリと動いた。
「すぐにという訳ではありません。わが軍は精強であり。周りの領主たちが束になっても負けはしません。」
「そうなのか、まぁ俺が協力してもいいぞ。」
「真でありますか。」
「ああ俺とレッドがいれば勝ちは確実だな。」
「カイン、勝手に戦争したらアレクに文句言われるよ。」
「レッド大丈夫だ。これはメイシス領が攻められるんだ。俺たちはただの助太刀だけだ。俺たちが始める戦争じゃないから問題ない。」
「あっカイン頭いいねー。」
将軍は、背筋に冷汗が流れていた。
「助太刀いただける対価はどのようにお考えでしょう。」
「対価、そんなもんいらないぞ。戦えるんだ。楽しめるんだ。それだけでいいぞ。」
将軍は、これは拙いと感じていた。好き勝手にやられては溜まった物ではない。何とかしてカインとレッドを制限できる事は無いかと考えた。
「ででは、フーリン領とメイシス領の不可侵条約でいかかがでしょうか。」
「不可侵条約。姫様呼ぶか。」
そして姫様が登場した。
「分からんのじゃぁぁぁ。」
カインはだよなと納得していた。レッドも同じであったがこの場にはいなかった。重要案件であるためにレッドはフーリン領迄じいを迎えに行っているのであった。
「まぁ夕方までにはフーリン領の領主がくるからそれまで待ってくれ。」
「何を言っておるのじゃワラワが領主なのじゃぁ。」
「姫様、領主は近くの領主の事や、外交の勉強をしているんだぞ。姫様勉強終わったのか。」
「・・・・・まだじゃ。」
「じいさんが来たら一緒にやるんだろう。それまで待っていろよ。」
「・・・・・・」
「じいさんには姫様が頑張ってここまでまとめたと言ってやるから、なぁ将軍。」
「ももちろんです。姫様と交渉しました。」
「そそそうなのじゃ、ワラワは頑張ったのじゃぁサツマーを10本食べただけじゃないのじゃ。」
姫様はクルド村でもう10本も大きなサツマーを食べきっていた。村人たちがお腹痛くなるよと心配するほどであった。




