82話
ガレオン号が水の都に到着した。
アレクは、意気揚々と甲板から降りてきた。
そこには、マリア姉、イリア姉、カリーナ女爵と兵士達が居たのである。
アレクはお迎えかと思い、気軽に声を掛ける。「皆さんどうしました、僕のお迎えですか。」
マリア、イリアの顔が引きつる。「アレク、仕事を振り出して逃げたわね。」
「逃げていませんよ。カリーナ女爵に代行を命令したのです。」
「いいえ、アレクス様は逃亡しました。」
マリアは兵に、アレクを拘束するように命令を出す。
アレクの周りにいた、全身鎧に覆われた個体が兵士を無言で倒していく。
マリアが「アレクやめなさい。」
「何を言ってるんです。攻撃してきたのは兵士ですよ。」
マリアは兵士を下がらせて、アレクに話しかける。
「アレク、どうしたのいつものアレクじゃない。」
「突然、兵士が攻撃してきて、拘束しようとしたら抵抗するでしょう。」
「逃亡したので、一時拘束をしようとしたのです。」
「逃亡はしていません。カリーナ女爵に代行を頼みましたからね。カリーナ、僕は命じたよね。」
「命じられましたが、明らかに仕事がいやで、逃亡しました。」
「カリーナ、君はもういらないよ。」
「マリア姉、イリア姉、引き取ってね。あと僕と争う気ならとことんやるよ。」
マリアとイリアは焦っていた。こんなアレクは初めてなのだ。いつもは陽気に笑って、じゃれてくるのである。こんなに怒っているアレクを初めて見たのだ。
「マリア姉、イリア姉、他の関係のない人たちは帰ってくれるかな。」
「文句があるなら受けて立つよ、それがオリオン公国相手でもね。やりすぎなんだよ。仕事は楽しみながらするんだよ。強制で仕事はしないよ。」
マリア、イリアたちは、公都に追い返された。
マリア、イリアはハロルドとエレメルに報告に行った。
二人に水の都での出来事を正確に伝えた。
4人は夜遅くまで話し合っていた。
翌朝、ハロルドはオリオン公国公王として、アレクス・オリオン伯爵を公都ブレストに呼び出した。
ガレオン号が公都ブレストに着陸した。
アレクス伯爵は、22の個体と共に公城に向かった。
公城
「父上、お久しぶりですね」
そこにはいつものアレクがいた。
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ハロルドは「元気だったか、何やら揉めたようだな。」
「揉めたようではなく、揉めたのです。」
「そうか、マリアとイリアからの報告は聞いている。どうしたい。」
「そうですね、今のオリオン公国はやりすぎです。やめましょう。」
アレクはハロルドに今の異常さを伝えていく。
「国の発展も大事です。だけどそこに住んでいる人たち、働いている人たちが居るんです。オリオン公国は領民に対して手厚く保護をしています。生活を豊かに暮らしやすくなっています。大事なことです。だけど、城内、領地運営等の働いている人たちは違います。明らかに働きすぎです。異常ですよ。
魔法が使えるようになり、一番驕っていたのはオリオン家の人達なのかもしれません。
僕はそれを変えなくてはいけません。魔法を伝えた者として。」
ハロルド、エレメル、マリア、イリアは黙って聞いていた。
「今のオリオン公国の状況もわかります。急激な発展、人口増加、各所の開発、いくら人手があっても足りません。だからこそ違うやり方を考えましょう。
家臣たちを、部下たちに激務をさせないように。体も精神も持ちませんよ。
考えを変えて頂けるのであれば、やり方を考えます。どうですか父上、母上。」
「そうだな、奢っていたのかもしれないな。」
「そうね、一番驕っていたわね。」
「ごめんね、アレク。」
「アレク、ごめんなさい。」
「いいですよ、分かってくれると思ってましたからね。」
それから5人でこれからのオリオン公国のあり方を話し合ったのだ。
「オリオン公国は、国を運営しているのだ。家臣、部下たちに、ある程度の強制、無理をさせることもある、それはしょうがない事だ。だけど過度な強制仕事は良くない。無理をさせたら休ませる。定期的な休みを設ける。一日の労働時間を決める。その時間内で出来るだけ効率よく働けるようにするのが、僕たちの仕事なんだ。オリオン家の人たちが模範にならなくてはいけません。」
「そこで登場するのが、これ。」
「気になってはいたが聞けなくてな、なんだそれは。」
「個体1号から22号です」
「??????」
アレクは、個体の説明をしていく。
「この個体は、以前に製作した木人とは違い、事務作業ができます。
労働作業もできますが、勿体無いので使いません。今行っている書類の作成、計画などを命令するとやってくれます。任せれば、計画から完成までやれますよ。任せられますが人がきちんと管理をしなければなりませんね。
父上たちに、一体ずつお渡し致しますから、使い方を試してくださいね。」
そうすると、個体5号から8号がハロルド、エレメル、マリア、イリアの後ろに移動した。
「父上、母上、マリア姉、イリア姉、髪の毛を1本個体に渡してください。」
ハロルドたちは、自分の髪の毛を個体に渡す。
個体は髪の毛を受け取ると、髪の毛からの情報を登録する。
「これで、父上たちの後ろにいる個体は各自の命令を、優先して受けるようになりました。」
「何かやらせてください。」
マリアとイリアが食いつく。
マリアが「この計画を裁量に、効率を優先に再計画書を作成しなさい。」
イリアが「これの、財務の批評を作成しなさい。」
個体は、自身のマジックバックから、机と椅子を取り出し作成を始めた。皆、無言である。
「カリカリ。カリカリ・・・・」
10分後、個体はマリアとイリアに書類を手渡す。その書類を確認している二人は、目が跳び出ていたように見えた。
二人は絶賛し、この個体は、もう自分のものだと名前を書いていた。いや名前をつけていた。
ハロルドとエレメルも試しに命令を出し、この結果に驚愕していた。
この個体があれば、今この城の事務仕事など10体もあれば解決してしまうだろうと説明をする。
オリオン家が、これからの都市開発、農地開発、他の開発の計画、立案などを今の何倍も出来るようになりますよ。
ハロルドが、「この個体はアレクが創ったのか。」
「そうですよ、迷宮核を使い、作成しました。」
「鎧を着ている者も同じか。」
「こちらは戦闘用ですね。僕の兵です。」
「何体造れる。」
「大量には創れません。精巧すぎて色々とありますので、月に3体でしょうね。性能を落とせば月に10体。性能を落としても能力は人の数十倍ですね。」
「よし、マリア、イリア、家臣たちの業務内容の見直しをやれ。内容はアレクの指摘通りにな。」
こうして個体たちはオリオン公国の仲間になった。
マリア、イリアはアレクにもう一度、謝っていた。アレクは笑って、おどけていた。
もう仲直りさすが兄弟だね。
アレクは水の都に帰るために城を出ようと、ガレオン号に向かう。
そこに、カリーナ女爵が待っていたのだ。
「アレクス様、申し訳ありませんでした。」
カリーナは、深々と頭を下げて謝罪をした。
「もういいよ、カリーナも犠牲者の一人だしね。カリーナ、水の都に戻るよ。」
アレクとカリーナは、ガレオン号に乗込み、水の都に飛び立っていった。