811話 悪を退治
姫様とパープルは毎日仲良く遊んでいた。
姫様は、政務をまだ行えない。幼いせいもあるが感情優先の為にまだ任せられないのである。
「今日は、ドラゴン村に行くのじゃ。」
「姫様、お稽古のお時間です。」
「えーーーー。」
「お稽古のお時間です。」
「だってー。」
「お稽古です。」
「・・・・・・」
姫様はショボーンとしながら侍女に連れていかれた。
必至に眠気と戦い勝った姫様は、退屈な時間も終わりお昼ご飯を食べていると、パープルがやってきた。
「姫様ーーあそぼっ。」
「おーーーパープル待っておったのじゃ。」
「お菓子があるのじゃ。」
「うん。食べるー。」
二人は今日は何処へ行くかを話し合っている。
「今日はどうするのじゃ。」
「うんとね、今日は悪者を探すぅ。」
「悪者は、成敗しないといけないのじゃ。町に悪者がいないか探すのじゃぁ。」
この姫様の一言で家臣たちは、あー町に行くのなら安心だと思い込んでしまった。
だが姫様とパープルは、二人で町に向かっている途中で、町には悪者はいないと結論付けてしまった。
「そうなると、森かな。森には盗賊がいるんだ。盗賊は商人から物を奪う悪者なんだ。」
「そうじゃな、盗賊は悪者じゃな、それよりも隣の領主はもっと悪者じゃ。何しろこのフーリン領を狙っておるからな。」
「えーーーそれ本当なの。凄い悪者だー。」
「そうなのじゃ悪者なのじゃ。」
二人は盗賊と隣の領地の偵察をするために隣の領地に行く事になった。
「どうやって行こうかな。」
「そうなのじゃ。悪者はいるのじゃが、歩いてはいけないのじゃ。」
「あーーーーっ、いい事思いついたー。」
突然パープルが叫び出した。
それはドラゴンが仲間を呼ぶ信号のようなものであった。
「キューーーーキュウクックーーー。」
数分すると大空に黒い点が見えてくる。段々と黒い点が近づいてくる。
「パープル呼んだか。」
「あっおじさーん(まっくろ)。呼んだーーーぁ。」
姫様は大きな口をあけて呆けている。
「あのねー、悪者を退治に行きたいんだ。だけど遠くて行けないんだ。」
「そうなのか、なら俺が乗せて行ってやる。」
「パパパパープル、この大きなドラゴン様は、何者じゃ。」
「姫様、叔父さんだよ、まっくろのおじさんだよ。」
ギョロリ。
「お嬢さん。パープルの叔父だ。宜しくな。」ちなみに血縁関係は全くない。
それからマックロの背中に乗り姫様は大喜びしていた。空を飛べる機会などないからである。
「凄いのー、いいのー。空飛べていいなー。」
姫様のべた褒めに気を良くしたマックロは
「姫様、俺を雇わないか。今なら山一つで守ってやるぞ。」
「真かー、山一つ用意するのじゃ。」
「えっ、本当に山一つくれるのか。」
「ワラワはフーリンの領主じゃから大丈夫なのじゃ。」
「おおーー、守るぞ。姫様、守ってやるぞ。悪者の成敗も手伝ってやるぞ。」
そうこうしているうちにメリケン領が見えてくる。
「おー敵の本拠地が見えてきたのじゃぁ。」
「あそこの町に降りればいいのか。」
「悪の巣窟なのじゃぁ。」
そこはメリケン領都であった。突然現れた黒いドラゴンに町はパニックとなっていた。
その中で、一部の者達は好機ととらえていた。隣の領地ではドラゴンが住みつき繁栄していると噂があったからだ。ドラゴン=神である。
マックロが町に中に降りるが、町は静まり返っていた。領民たちは間違って踏みつぶされないように逃げていたのである。
そこへ、領主の家臣が現われる。
「ドドドドラゴン様。よくお出で頂きました。」
少しだけ話は遡る。
「ドラゴンが現われたのか。」
「さようです。私の交渉の成果です。」
「流石一流の商人だな。褒美は村を一つ任せよう。」
「はっ、ありがとうございます。」
「よし、フーリンもドラゴン村を作ってるし、我が領地にもドラゴン村を作ろう。ドラゴンに言ってこい。村の運営は任せるぞ、アハハハハ。今日はいいひだ。」
「えっ。」
そして話は戻る。
商人は焦っていた。領主に取り入る為に最初は小さな嘘であった。
だが段々と信じる領主に、少し調子に乗ってしまった。そして大きな嘘を付きとおす羽目になっていた。
(これで私の嘘がばれる事は無くなった。運よくドラゴンがこの領地に来てくれたからな。グフフフッ。まぁドラゴンの村など作ることは出来ないだろうが、交渉決裂といえばいいだけだ。領主の家臣にでも責任を取らせれば済むだけだ。領主の一言には少し焦ったが、まだこちらの思惑通りだ。)
「ドラゴン様、よくお出でくださいました。」
「えっ待ってたの。」
「はい。それはもう首を長くしてお待ちしておりました。お約束通りに村を進呈いたします。このイチノ商人が領主に変わってお約束いたします。」
そこへ、突然話に入ってきた者がいる。小さなドラゴンと幼い子供であった。
姫様は、話を少し誤解していた。悪者の話ばかりしていたせいもあるが、少し残念な方向にいっていた。
先ず、村を進呈するを領地の献上するに変わっていた。そしてイチノ商人が領主に変わったと誤解してしまったのだ。
「悪は倒れたのじゃぁぁぁぁ。」
「姫様、どうして悪は倒れたの。まだ悪者は出てきていないよ。」
「パープル、ドラゴンが近づいた事で悪者が逃げてしまったのじゃ。そしてこの商人が代理となり、村を作ってくれるのじゃ。」
「おーーーー、叔父さん良かったねー。これで一国一城の主だね。」
「パープル、大きくなったな。ズズーーーッ。ズーーーー。」
まっくろは、感動屋であった。難しい言葉を使ったパープルに感動してしまったのだ。まっくろは、一国一城の意味は知らなかった。
イチノ商人は少し話が合わなかったが気にしない事に決めた。この場を治めればよいだけであった。
そして商人の計算が頭の中でパチパチとはじかれていく。この場で領地を決めてしまえば、ドラゴンの要望として押し通せると考えたのだ。
「ドラゴン様、あそこに見えます。大きな山とその周辺に村を作ります。近隣領地への要所となります。」
「へーーーあそこねー。姫様どう思う。」
「よいのじゃぁ。領地境なのじゃ。まっくろの村が出来れば問題ないのじゃ。」
姫様はメリケン領が領地を割譲すると誤解していた。イチノ商人は、交易の拠点に適した場所を指定しただけであった。そして領主には、隣の領地攻略の為と報告できるからであった。
「じゃぁ悪者もいなくなったし。あそこの山を見てみよう。」
「「おーっ。」」
まっくろなドラゴンが幼い二人と一緒に返事をしている姿は、全く威厳が無かった。




