768話 突然の領主指名
俺はなんてことを言ってしまったんだろう。
あの一言が無ければ俺は地道に働き夢と希望を抱きながら暮らしていただろう。
それが今は、港町、領主なんだそれ、こんなに忙しいなんて領主は優雅にお茶を飲みながら家臣にあれこれ指示を出して、朝、昼、晩と優雅に食事をしながら酒を飲むんじゃないのか。
領主に指名された少年は、その時大喜びしていた。夢であった領主である。それも大きな港町の領主だ。
喜ばないはずがない。だが違った。
少年の名はベータ。ベータはアース大陸で貴族家の3男に生まれた。貴族家と言ってもかなり貧乏であった。父は朝から畑仕事に出ている。農家と変わりない生活をおくっていた。
俺は3男だ、家を出なければならない。そんな時に俺はある募集広告を目にした。この時、字が読めた事を感謝した。あの辛い勉強も役立っていたのだ。
俺は飛びついた。タンドラ大陸という文字を見落としていたが、そんな事は些細な事だ。働けば金を貰える。3食食べれるんだ。
俺は父と母に伝えた。父も母もあまりいい顔をしなかった。もしかしたら働き手がい無くなる事を心配しているのかもしれない。だが俺にも自分の人生がある。ここで募集に乗らなければ一生農家手伝いで終わってしまう。
募集はカイン王国であった。今はレオン王国にいる。カイン王国までの路銀をどうするかそれが大問題であった。そこに神が舞い降りた。何と次男が金を貸してくれたのだ。
噂を聞いた次男が3男の俺に為に路銀を工面してくれたのだ。信じられなかった。
「兄貴、いいのか。」
「いいに決まってるだろう。そのために持って来たんだ。」
「必ず返すよ。いつか自分の土地を持って兄貴にも分けてやるよ。」
「ハハ、いいな。期待しないで待っているよ。」
だが俺はカイン王国まで行かなくてよかった。近くのオリオン王国まで行けば船で運んでくれるのだった。少し余った路銀は何かあった時に取っておこう。
俺達、募集組の者達とは色々と話した。タンドラ迄着く間、暇だったからな。
そこで仲間たちは、領主、開拓、文官などのキーワードが出てきていた。文官になり、実績を作り領主となる。これが募集組の理想の出世コースであった。
俺もその気になっていった。いつかは領主と思っていた。
それが着いたその日に、領主となってしまったんだ。それもくそ忙しいー、休む暇も飯を食べる暇もないほどだ。信じられない。
俺は必至に働いている、これで領主失格なんて言われたら死ぬに死ねないからな。こんな大きな町どうやって運営するんだよ。俺は名ばかり貴族の3男なんだよ。
で俺は少ない知識の中で必死に考えた。町も商店と一緒だ。物を買って売る。これが基本だ。
領地は税が入ると思っていた時期もあった。税収0そんな土地どうすんだーーーー。
此処はタンドラ大陸だ。アースの常識は非常識となっていた。税何それであった。
カイン様は税なしで暮らせるようにしろと一言で終わった。その代り金をくれた。
「足りなければカイン王国に伝えろ。持ってこさせるからな。頑張れよ。」
「はい、自立できるように頑張ります。」
バカバカ俺の馬鹿、何であの時出来ませんの一言が言えなかったんだ。喋れない人間多数、毎日来る交易船、海千山千の商人たち、この対応を俺がやるのか。ムリだな無理ぃぃ。
だがやらなければ首になるかもだ。
クソー、同僚たちが羨ましい。同僚たちは俺に嫉妬しているようだが、それは大きな間違いだぞ。上に行くと失敗すると首なんだぞ。知らなかった。
上にいけば責任が生じるなんて考えてもいなかった。クソー。
そんな俺も2か月も経つとかなり慣れてきた。
俺にも信頼できる部下が出来たおかげだ。船の中でよく話していた二人が俺を良く助けてくれる。ありがたい事だ。
「ベータよくやっているようだな。」
「カイン様、やっと慣れてきました。」
「ベータ、タンドラの者達に農業を教えろ。」
「えっ、農業ですか、了解ました。」
俺はカイン様のいう事は絶対と決めていた。はい喜んでが俺の座右の銘だ。
でも1分後大後悔していた。俺ってなんて馬鹿なんだ。喋れない者にどうやって農業を教えるんだ。如何すんだー。
でもやらなければならない、名ばかり貴族の俺には失敗は許されないのだ。
俺はなるべく小柄なもの達を集めた。だって怖いじゃないか、ムキムキ筋肉マンなんて嫌だよ。
小さな畑を作り俺は無言で指導する。俺の行動で学べだ。
これがよかった。今までタンドラの者達と同じ指導方法だったようだ。きちんとした言葉がないタンドラでは、行動が指導方法だったのだ。
俺はそこに少しの工夫をした。
「これ、麦。」指さす
「耕す。植える。・・・・・」
一つの行動ごとに俺は言葉を付け加えていく。
タンドラの者達も多分必死だったんだろう。3か月もすると片言で喋れる奴が出てきた。それからはもう早かった。
畑を広げていった。魚も獲れるようになっていった。豪華な食事になっていく。魚、魚、たまに野菜、そしてたまに肉である。肉の日は皆が大歓声おあげる。
みんなで肉、肉、肉の大合唱迄始まる。
これには俺たちも苦笑いしか出なかった。
魚人気ないなー、俺は魚大好きなんだけどなー。
「ようベータ。よくやっているな。」
「カイン様、お久しぶりです。カイン様の屋敷もやっと出来上がりました。」
「おおありがとな、レッドも喜んでいたぞ。風呂なんてよく作れたな。」
「風呂は仲間が教えてくれました。オリオンでは風呂は常識だって言っていましたので。」
「そうかありがとな。そうだその仲間も領主にしてやろう。この町の外に村を作ろうかと思っているんだ。食料を自給自足させないといけないからな。ベータの推薦者を村長にしてやるぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
これが拙かった。カイン様は声が大きいそれも外で話していたせいでみんな聞いていた。俺はその夜から友達が急に増えていた。
喋った事もないやつが急に友達になっていた。
あれにはさすがの俺も唖然としたが、いつも一人で食べている食堂で俺の周りに人だかりができている。俺って出世の道具か、まぁそうなんだろうな。少しだけ悲しい。
でも俺は誰かを指名しなければならない。これはかなり重要な事だ。
町の周りの村なんだ。俺は町の周りに調査に出る事にした。タンドラの民たちがいた廃村を調査するためだ。一からの開発は時間が掛かる。それに考える時間が欲しかった。町に居てはその時間も取れないからだ。
俺は、部下3人(タンドラの民)と護衛兵と短い旅に出る事になった。




