759話 尋問
アレクのいる、北の大地には行列ができていた。
この行列は、元家畜達である。何故行列になっているのか、それは教育の一環であった。集団生活の為である。
大人数になってきたことで食事一つで、争いが起きてしまっているのである。
言葉が喋れない事で意思疎通が上手くできないのである。
「秘書官、今どのくらいになったんだ。」
「はい、保護している者は4000人を越えました。」
「もうそろそろ敵も気づいているだろうな。」
「そのようです。このところ頻繁に邪気の姿が確認されています。ですがこの大陸の邪気は少し違うようです。アース大陸ならば勢いで襲ってきますが、このタンドラでは様子をうかがうだけです。かなりの違いと思われます。」
「そうだな。」
アレクはこのタンドラ大陸の邪気たちは統一した組織が出来上がっている事、そして邪気がアースより優秀である事が分かっていた。
邪気は人よりも強い、だが頭が悪いのがアース大陸の常識であった。だがタンドラ大陸ではその常識が通用しない事が分かっていたのである。
邪気は統率が取れ、集団行動をしている。これは軍隊がある事を示している。国としてきちんと纏まっていると言う事である。
「アレク様、村に侵入しようとした捕虜を捕らえました。」
「邪気か。」
「はい、邪気です。」
アレクは邪気に会う事にした。情報を得るためである。
「おりゃはなせ。解放しろ。こらー家畜がーーー、縄をほどけー。」
一人の邪気が騒いでいる。周りの人々は知らん顔をしている。この男はもう1時間も騒いでいるのだ。
其処へアレクが入室してきた。警備の者達は一斉に立ち上がりアレクに敬礼をしている。
邪気は、アレクの姿を見るとまた騒ぎ出していた。
「お前が親玉か、縄をほどけ家畜がー。」
「お前馬鹿なのか、捕虜になったんだ。これから殺されるんだぞ。」
「えっ。」
邪気は自分が殺されると言う事を全く考えていなかった。タンドラ大陸で邪気に逆らう者はいないのだ。邪気と戯れがこのタンドラを支配しているのである。支配者に逆らう者がいないために人に対して横柄な態度となっていたのである。
邪気は動揺していた。今まで大声で叫べば家畜はしたがっていた。他の邪気の家畜でも邪気が怒れば従っていたのである。
アレクは軽く邪気を殴りつける。何を叫ぼうが構わずに殴る、殴る、殴り飛ばしている。そして治療する。
治ったら又殴る。2時間ほどアレクに殴られた邪気はもう抵抗する気持ちが折れていた。
「よし、喋っていいぞ。名は何というのだ。」
「・・・・・」
いい淀んだ邪気にアレクは又無言で殴る、そして1時間ほど経過する。
「いいか、お前は家畜以下の存在だ。お前は殴られ屋だ。殴られる事がお前の仕事だ。」
なんて嫌な仕事であろう。殴られ屋、殴られることが仕事なんて邪気は恐怖で泣いている。
「だが、俺の質問に答えれば休暇をやろう。仕事を休みにしてやる。まぁうそを言ったりしたら24時間営業にしてやるがな。」
「な何でも聞いてください。」
アレクは邪気に質問をしていく。
「お前の国の名は。」
「タ、タンドラです。」
ボコッ。
「ひゃぁ。」
「お前は軍人か。」
「いいえ違います。」
「では何者だ。」
「調査員です。」
「調査の目的は。」
「この村の調査です。」
このタンドラ大陸には一つしか国が存在していない。大陸を支配しているのは一人の戯れである。だがその戯れを見た物はいない。下っ端が拝めるようなものでは無いが、噂で表に出てこないと言う事であった。
そして重要な事はタンドラは大きく分けて6つに分割統治されていると言う事である。
東西南北の4つと中央地域、そして特別地区である。特別地区に関してはあると言う事しか分からなかった。その場所も統治者も分からなかったのだ。
「ではここは北地域という事だな。」
「はいそうです。」
「北地域の兵力は。」
「分かりません。」
「では、北の統治者の名は。」
「デス様です。」
アレクの質問は淡々としていた。質問タイムは一晩中続いていた。
邪気は眠気と戦いながら答えていた。少しでも答えを躊躇知れば殴られるからである。
アレクに質問が終わると
「「「「「「アレク様、お疲れ様です。」」」」」
何故は警備の者達は直立不動でアレクにお辞儀をしている。警備の者達はアレクに恐怖していたのだ。
あのむごたらしい拷問をもし自分が受けていたらと一瞬でも思ってしまったのだ。その考えた瞬間もうアレクをまともに見る事が出来なくなっていた。
殴って、殴って殴り続ける。そして治療して又殴る。これは終わりのない拷問である。それを殴られ屋などと仕事にさせられてしまうのだ。恐怖でしかない。
「心配するな。お前たちは殴り屋となるんだ。」
この言葉に警備員たちはそっちも嫌という表情をしている。当たり前の事だ、殴るつ浸ける事、普通の者には出来ないのだ。
アレクは、邪気を休暇扱いとして牢へと連れて行かせる。
邪気はアレクに御礼を言っている。
「今日は寝ていいぞ。これからも素直になれよ。そうすれば食事と寝る事を許可しよう。」
「あありがとうございます。これで寝れる・・・・・」
アレクの仕入れた情報では北地域の支配者はこの村の事に気づいた。そして調査を命じた事である。このままいけば北地域の軍が攻め寄せてくるだろう。
アレクは対策の為に砦の建設を急がせた。3つある街道のどこから来ても迎え撃てるようにするためである。
「秘書官。砦の指揮官を決めてくれ。」
「砦の司令官と副司令官、副官各一名でよろしいでしょうか。」
「そうだな。各砦には1000人程度の兵力にする予定だ。1000人の者を指揮できる人選を考えてくれ。」
「はっ、明日までに人選をいたします。」
アレクはオリオン王国に増援要請を行なった。兵3万を送るように要請したのである。
「えっ、俺が行くんですか。俺、昨日タンドラに戻ってきたばかりですよ。」
「ジミーさん。アレク様のご指名なんだよ。」
「なんで俺なんですか、駆け出しの商人ですが、元村人ですよ。」
「ほら、村つくりが得意じゃない。アレク様が感心していてね。ジミーなら大丈夫だろうと言っているんだよ。」
「お俺、無理かな。」
「じゃ、頼んだよ。」
秘書官は去ってしまった。残されたジミーは遠い目をしていた。
アレクからの無理難題は、遠い昔の記憶を持つジミーに取っても簡単にできる事ではなかったのである。
「無理かも・・・・・」




