748話 アレク対魔王?
魔王に不愉快な報告が続々と届いている。
「敵は少数だ撃退せよ。」
「はっ。」
ドカーン。
魔王のいる部屋の扉が蹴破られた。
アレクがゆっくりと歩いている。
その事に気づいた魔王軍の兵たちはアレクに斬りかかっていく。だがアレクは兵たちを軽くいなして切捨てている。
スパッスパッスパッ。
「下がれーーー、お前たちでは勝てん。人間よよくここまで来れたな。褒めて遣わすぞ。」
「お前が魔王か、今日死んでくれよ。」
「何を言うかと思えば死んでくれか、アハハハハ、それはできんな。死ぬのはお前だからな。」
魔王はアレクに対して魔法を放つ。
「豪火爆。」
ゴゴゴバーーーン。
魔王の放った炎はアレクの目の前で爆発していた。もちろんアレクは寸前で避けている。
これ魔法の名前は考えないとな、名前で魔法の性質が分かるな。
そんな事を考えながら戦っているアレクだがそれ程余裕のある訳では無かった。
流石魔王というべきだろう、その辺の邪気や戯れが束になっても敵わない程の強さを持っている。
「ふっ中々やるな。」
「そりゃどうも。魔王よ。降伏するつもりはあるか。」
「降伏だとありえんな。」
「そうだな。ありえないだろうな。一応聞いただけだ。行くぞ。」
今度はアレクから仕掛けていった。100個以上の圧縮した火の玉が魔王の周辺をグルグルと回っている。火の玉は魔王の視線を外れると向かってくる。この炎は貫通力がある。圧縮している為に高温で体内にめり込んでいく。
「グッホッ。」
「おお効いているな。」
「こんな攻撃は効かん。」
「それにしちゃ、悲鳴上げていないか。」
「空耳だ。」
魔王は火の玉に攻撃されることを分かって、自分も攻撃態勢に入っている。
魔王の手のひらから無数の光の槍が飛び出している。
「ソリャソリャソリャソリャどうだ、見たか無限槍だーーー。」
(そのまんまかい。)
アレクは無数槍を擦りぬけて魔王の元迄一瞬で移動していた。そして剣を下から上へ斬り上げる。
スパッ。
魔王の片腕を斬り落としていた。
「グワッ。ききききさまー許さんぞ。余の腕を斬り落とすとは万死に値する。・・・・・なーんてな。ガハハハ。人間よ腕を斬り落としたすきに余の首を斬り落とすべきだったな。時間切れだ。」
魔王は唸り声をあげる。
「うおおおおおおおおお。」
すると傷口から腕が生えてきたのである。これにはアレクもびっくりであった。
「お前それ反則だろう。」
「見たか人間よ。余の再生能力を余は不死身なのだよ。誰も余を殺すことは出来ないのだ。余のこの類まれな才能と能力によってこの世界の魔王となるのだ。誰も余に・・・・」
「なげーんだよ。」
スパスパスパ。
アレクは魔王の演説の途中で魔王の腕と足を斬り落としていた。
だが魔王もすぐに再生させる。そしてアレクから距離を取る。
「貴様、余が喋っているのだ。最後まで聞け。」
「長いんだよ。どうせ自分は最高、偉い、凄いと言っているんだろう。」
「・・・どうしてわかった。」
「誰でもわかるわ。」
「余の秘奥義の事は分かるまい。聞きたいであろう。」
「別に。」
「聞きたいはずだ。」
「別に聞きたくない。」
「・・・・・・」
この魔王はかなり計算高い。このコントのような喋りも計算ずくであった。時間稼ぎである。
魔王はアレクに対して不利なことを感じていた。万一負ける事になればすべてが瓦解してしまうのだ。負ける訳にはいかないのである。
「貴様の見たかった余の秘奥義を見せてやる。」
「・・・・・・」
「この世の、神羅万象の元に集う善悪の源よ。我に力を集結させよ。」
魔王の周りに黒い物が寄ってくる。魔王城内外から魔王に集まっているのだ。
この光景を見ているアレクは興味深げに観察している。
「うううおおおおおおおおおおお」
叫ぶ魔王。
魔王の中に入った黒い物は魔王を侵食するように皮膚の中で蠢いている。
「見よ。余の秘奥義。解脱。」
魔王の体は黒い霧に包まれていく。そして黒い霧が拡散していく。
再び姿を現した魔王は3人いた。
「「「はっ?」」」
「何だお前は。」
「お前こそなんだ。」
「なぜ・・」
そこには元の魔王と二回りほど大きくなった魔王、そして小さい魔王がいたのである。
元の魔王もこの展開は予想外であったのか。困惑している。
魔王は自分の分体を作り戦わせるつもりで開いたのだ。それが二回りほど大きな魔王である。戦闘に特化した悪の化身である。
だがもう一人小さな魔王が誕生してしまっていた。それが小さな魔王である。
「ぼぼ僕は魔王だー。」
「・・・・」
「・・・・」
だが小さな魔王は大きな魔王に横から殴られて吹っ飛んでいった。
吹っ飛んだ小さな魔王は体を牽連させている。ビクビクと痙攣させ口から泡を吹いている。
「フン、弱者が。」
「ガハハハハ、余の分体、後は任せたぞ。」
魔王はこの場から逃げる為に後ろへ下がっていく。だがもう一人の魔王は、魔王を攻撃したのだ。
「弱者は滅びよ。」
「貴様、分体の分際で本体に逆らうのか。」
「フン、知らんな。我は我である。誰の物でもない。我はわれの物である。我の糧と成れ。」
分体は構わずに魔王に攻撃を仕掛けてくる。魔王は攻撃をかわしている。
魔王対魔王の戦いは分体がかなり有利に進めている。本体は分体を作る為に力をかなり消費している事も影響している。
「なぜだ。分体が逆らうざどありえん。」
完全に追い込まれてしまった魔王は逃げの一手である。攻撃の事はもう考えてはいない。逃げる事しか考えていないのである。
それが拙かった。一瞬の隙を付かれ分体の手刀が魔王を貫いていた。
「グホッ。」
口から血を吐いて項垂れる魔王。
「本体よ、我が糧と成れ。」
分体が本体を侵食していく。本体魔王は最後の抵抗なのか、侵食されていく体の一部を切り離していた。
切り離された一部はミミズが這うように移動している。小さな魔王に向かっているのだ。
魔王の一部は小さな魔王の中に入り込んでいく。小さな魔王の殴られた傷が癒されていく。
小さな魔王は、生まれ変わったかのようにキョロキョロと周りを見回している。
そしてアレクと目があった。
にっこりと笑う小さな魔王と目を逸らすアレクがいた。
アレクは何か嫌な予感がしたのだ。この小さな魔王は関わらない方がいいと思ったからである。
分体はほぼ本体を侵食していた。侵食が終わると分体は自分の体を確認している。能力が上がっているようである。
「ほーー、いい体だ。」




