744話 脱出計画
子供邪気たちの計画は、まず町の占領を最優先とする。町の占領後は人間たちとカイン王国圏内に速やかに移動である。
だがそれがかなり難しい事が判明していた。
「移動に5日かかるのか。」
「そうだ、徒歩の移動になるからな。」
「んーーーー、それは困ったな。5日もかかるんじゃ食料も運ばなきゃいけなくなるぞ。」
「この町だけで2300人分の食料が必要になるな。」
この町には備蓄がほとんどなかったのだ。今の邪気勢力内で備蓄はほとんどない状態であった。
それは戯れの支配が強固な西から遠く離れたこの場所では、邪気たちが好き勝手にしていることが原因である。
行政が機能していないこの町では、備蓄などという考え自体が無かったのだ。各自で辛うじて数十日分を保存している程度である。
「邪気たちは、冬を如何するつもりだったんだ。」
「冬は魔物を狩って暮らすんだ。それと人間勢力から奪うんだな。」
「マジか。」
「必ず餓死者が出るな。」
「・・・・・」
子供邪気たちは、まず村長経由で食料を輸送してもらった。3000人が7日旅できる兵站を送ってもらったのである。
「7日分か、かなりの量だな。」
「この場に3日分、中間地点に4日分を置いてある。」
「そうか、なら実行は明日いや明後日だな。」
こうして子供邪気たちの作戦が決行されることとなった。
作戦としては、邪気たちを眠らせるだけであった。
日ごろから怠け者となっている邪気たちである。好きな時に寝て好きな時に食べている。生活がバラバラで夜中中起きている者もいるのである。
邪気が起きていると計画が進まないのである。その為に邪気たちを眠らさなければならなかった。
子供邪気たちは豪勢な食事をみんなで作っていた。
この食事はカイン王国から運んできた材料を使用している。質の良い小麦と塩、胡椒、そして芳醇なワインとビールである。
夕方4時ごろから始まった宴会は邪気たち700人の胃袋をかガッチリと掴んでいた。
「大宴会場にワインを持って行ってくれ。7時過ぎに睡眠薬入りのワインに変更するからな。」
「了解。」
「あーー、食べ物にも入れるぞ。間違って食べるなよ。」
「大丈夫だよ。へへへ・・・たぶん。」
邪気たちに大好評であった。美味しい食べ物と美味い酒があれば人(邪気)は幸せを感じる事が出来るのだ。誰もが幸せなひと時を感じる事が出来る。
それも目ざめる迄のひと時でしかない事を知っている者は子供邪気たちだけであった。
「「「「「グオオオオオーー、スーピー。」」」」」
「1班、邪気の睡眠を確認済。」
「2班、大宴会場の確認済。」
「3班、領主館の邪気を確認済。」
「4班、街中を確認中、邪気は今のとこ絵御確認できず。」
「よし、予定通りだな。9時に人間たちを門の前に集合させろ。俺たちはその後に出発出来るようにな。」
「「「「「「了解」」」」」」」
午後9時に人間たちは、門前に集合していた。大荷物を抱えた人たちは晴れ晴れした表情である。
門から出た人間たちは夜通し歩く事になるが、皆元気いっぱいである。
子供邪気たちは、発覚を遅らせるためにひと手間かける事にしていた。それは眠っている邪気たちの為に食料を置いていく事であった。
邪気たちは基本怠け者である。何か問題が起きてもすぐには行動しない性質を持っている。上にばれる事も邪気たちには容認できないのである。その為にすぐには救援を求めない事が分かっていたのである。精々、下っ端を追跡させるぐらいである。
「食料はこの位でいいかな。」
「酒をたんまりと置いて行こう。」
「そうだな、酒があるとまず飲むからな。」
子供邪気たちは大人邪気の性質をきちんと理解していた。
「なぁ、となり町を同じやり方でやるのか。」
「やるぞ、子供邪気の勢力を拡大しなくちゃいけないからな。」
「そんなに拡大して食料は大丈夫なのか。」
「心配するな。カイン王国が食料援助してくれるから大丈夫だ。」
「んーーー、人間の国か・・・・」
「今は、頼っても仕方がないがいずれは対等な相手として見られるようになるから大丈夫だ。」
子供邪気たちは、自分たちの立場をきちんと把握していた。如何すればいいのか、どの様に行動すればいいのかを把握しているのである。
この町を出た子供邪気たちはとなり町に伝令を走らせる。人的協力は出来ないが物資支援は約束する。
カイン王国としても物資支援だけで戯れ勢力が衰退するのである。そして別勢力が出来上がっていくのだ。
こうして、子供邪気による。脱出作戦は広がっていった。となり町からとなり町へと広がっていく脱出作戦は、戯れの支配する大都市に迄広がっていった。
「なぜ、報告がなかったのだ。」
「・・・・・」
「くそ邪気ども仕事しろ。」
「・・・・・」
ある大都市を支配している戯れは激怒していた。この大都市は各地の町から物資を集めていた。それが町からの輸送が無かったのだ。
大都市は食料不足となり大混乱中となっていた。
「お前らは魔物を狩ってこい。肉を集めろ。」
渋々と従う。邪気たちである。
邪気たちは、部下の邪気たちに命令する。
「いいかお前ら魔物を一人10匹狩ってこい。いいな今日中だ。」
その部下は
「いいか、人間ども魔物狩りの時間だ。一人20匹がノルマだ。」
奴隷や最下層の邪気たちは、魔物狩りに出されていく。これは子供邪気たちの計画であった。食料が減ると魔物狩りを始める。邪気たちの決まりのようなものである。困ったら魔物肉である。
子供邪気たちは、奴隷と子供邪気とで狩りをする計画であった。大人邪気たちは都市から離れたところで殺す事になっていたのである。
「俺は邪気様だ。奴隷どもがぁぁ狩りをしろ。」
「「「「そうだそうだ。邪気様だぞーー。」」」」
底辺邪気たちは、人間の奴隷にしかえばる事が出来ない。上の邪気たちに一言でも文句を言えば殴られ殺されてしまうからである。
大人邪気たちは、奴隷に狩りをさせて自分たちは木陰で休んでいる。
酒もなく、食料もない事で昼寝しかできないが、働く事が嫌い邪気たちはそれでも涎を垂らしながら昼寝をしている。
「こいつ等、死んでも分からないんじゃないか。」
「まぁ寝ているうちに死ねるんだ。ある意味幸せだな。」
子供邪気たちは寝ている邪気たちを一突きで殺していった。うめき声をあげる暇もなく殺されていく邪気たちであった。
「200人もいて誰も起きないなんてあるんだな。」
「邪気たちは食べ物がないと寝るんだよ。消費を抑えるためなんだろうな。深い眠りに入るんだ。」
「へーー、俺たちもそうなのかな。多分基本は同じだろうな。俺たちはきちんと食事をとっているから実験してみないとな。」
大都市で多くの奴隷たちが姿を消していた。それは大都市の食料事情を少しだけ改善させていた。




