737話 恵みの迷宮2
男は、気を失っていたが、アレクが看病していると気が付き謝罪を始めていた。
「す、すまなかった。」
「いいさ、一人ではかなりつらかったんだろう。」
「うっうっ・・」
男は泣きだしていた。余程つらかったのだろう。
パーティーで迷宮に挑み、一人減り又一人減りと最後は自分1人になってしまったのである。
男は、自分語りを始めていた。物心がついてからどのような子供時代を過ごし、冒険者となり仲間を作りこの町にたどり着いたかをかなり拡張して語っているようであった。
「へーー、苦労してんだな。」
「そうだ、俺は報われないといけない。俺は幸せになるんだ。」
アレクには何が幸せなのか分からなかった。
「なー、ここから出れると思うか。」
「出れるだろう。入ってきたんだ出れない事はないだろう。」
「・・・・・・そうだよな。」
その日、アレクと男は休憩を兼ねてその場で一晩過ごすことになった。時間に観念が無くなっているがアレクは時計を持っていた事で夜になっていると確認していた。
その夜、アレクが横になっていると男は無言でアレクを見つめている。アレクは男の気配に気づき寝たふりを続けている。
男は剣に手をかけアレクに斬りつけていた。
カキン。
「おいおい、殺すつもりか。」
男は無言でアレクに斬りかかっていく。まるで夢遊病者の様に男は無表情であった。
アレクは、男が動けないように拘束してその辺に放置していた。
何かがおかしい。
おかしいぞ、俺は何で扉を一つ一つ攻略しようと思ったんだ。普段の俺なら一気に先に進むはずだよな。
アレクは、46層に入ってからの事を振り返っていく。何故か思い込みをしていたような感覚である。
男が現われた事でおかしいと気づいたのである。
アレクは男が気づく前にこの場を離れる事にした。
拘束しているロープをほどき多少の食料を置いてその場を離れていった。
アレクは通路を駆けだしていた。扉に入る事もなく永遠に続く通路を走っていた。
だが2時間ほど走ってもまだ続いている。いい加減飽きてきたアレクは通路に向かって魔法を放っていた。
余程、イライラがたまっていたのだろう。
「あーーーくそー、どうするか。」
アレクはトボトボとまた歩き出していた。
するとアレクの後方からファイヤーボールが迫ってきている。アレクはびっくりしてそのファイヤーボールを蹴り飛ばす。
「まさか、俺の放ったファイヤーボールか。」
そのまさかであった。
「円形なのか。」
アレクにはなったファイヤーボールが後方から来たと言う事はこの通路は円を描いていると言う事である。だがアレクのファイヤーボールは直線の軌道であった。
「亜空間か。」
アレクは今度は慎重に進んでく。すると通路にうっすらと繋ぎ目がが確認できた。その繋ぎ目に手を伸ばすと違和感を感じていた。
此処で元の場所に戻ると言う事だな。
「斬るか。」
アレクは亜空間に向けて剣を振り抜いていた。
シュッ。
パリン。
アレクの先の亜空間は二つにずれていた。
「この亜空間凄いな。斬られてもまだ維持しているな。」
アレクは剣を振り亜空間を切り刻んでいく。目の前の亜空間は維持が出来なくなり崩壊していった。
そして目の前には、真っ白な空間だけが残っていた。
アレクはその中に入っていった。
天上も床も確認できない真っ白な空間だが、歩く事は出来ている。不思議な空間であった。
アレクは飛び跳ねたり、寝転んだりと色々と実験をしている。
「意識をしていればいいと言う事か。」
この空間は自分が立っている。寝転んでるとしっかりと意識しなければいけない事に気づいたのであった。
アレクが実験を繰りかえしていると、空間の一か所が歪みだした。そして先ほどの男が出てきたのだ。
「よーっ、ここまで来るとはな。」
「やはりお前は迷宮の者か。」
「この姿はこの迷宮に死んだ者の姿だ。私に実体はない。」
「迷宮よ、聞きたいことがある。」
「何を聞きたいのですか。」
「この迷宮はスタンピードを起すのか、それともきちんと管理されているのか。」
「スタンビードは魔物を放出する事ですね。そういう意味であればスタンビードは起こりません。」
「条件が違えば魔物が表に出ると言う事か。」
「そうなりますね。ですが当分の間はその予定はありません。この迷宮は恵みの迷宮と言われいますから。人に害が出ないようにしています。」
「ほうならば安心だな。だが迷宮自身の答えなのか、それとも迷宮主の考えなのか。」
「迷宮主の考えですよ。迷宮はその指示に従うだけです。」
「ではここ迷宮主に会わせてくれ。」
「それは不可能です。迷宮主は500年も前に死んでいます。」
「何、死んでいる。だがこの迷宮はその主の指示をいまだに守っていると言う事か。」
「指示を守っているのではありません。今だに支持をいただいています。」
迷宮の説明では、迷宮主の死後、迷宮が機能停止にならないように自身の意志をデータに残していったのだ。
その指示は迷宮の活用と人々の安全、そして臨機応変に活動であった。
アレクはズッコケた。「なんだそりゃ。」
「迷宮主は余程のお人好しだな。」
「私のデータでもかなりのお人好しです。あなたが新しい迷宮主になりますか。迷宮主は、新たに迷宮と突破する者が現われた場合はその者の指示に従えと言われています。」
「突破とはこの亜空間を突破した者の事なのか。」
「はい、この亜空間は通常の者には突破不可能です。強い力と知識がなければ突破は出来ません。」
「一つ聞きたい。今の迷宮の力があればこの都市全体を守れるのか。」
「守れます。迷宮内に人が2万人以上滞在していれば、外からの悪意に対抗出来ます。過去の世界大戦時の核にも一度耐えています。ですが無傷とはいかずかなりの損傷が出ました。そっれを迷宮主は補修の指示と魔力の供給を行なってここまで回復しました。」
「その迷宮主、偉いな。」
アレクはもの凄く感心していた。迷宮主は人々を守る為にかなりの労力を注いていたことが分かるからだ。今と違う時代ではあるが守る為に必死なことが分かったからである。
「この迷宮で生き残った者達は大陸に散らばっていきました。ギャレット・ローエムは偉大なのです。」
「ローエムの者か。そうかこの地は元はローエム帝国の領地であったのだな。」
「そうです。2000年以上前に滅んでおりますがローエム帝国の系譜の者達がおりました。守り人と言われた者です。その中でも力の強いギャレット・ローエムが主となられたのです。」
アレクはこの迷宮の主にはならなかった。ローエムの系譜の者以外は迷宮主として相応しくないと考えたからである。
「迷宮よ、何か問題が生じた場合は連絡をくれ、人の手でなければ解決できないことも有るからな。」
「ありがとうございます。その時は連絡をいたしましょう。迷宮信号を出しますので宜しくです。」
「じゃぁな。あっ、そうだここから出してくれ。」
「またお会いしましょう。」




