703話 神なった料理長
カイン王国(仮)と魔王国の境に立派な町が建設されていた。
「これが2週間で出来たのか凄いな。」
「7万人が動けばこのくらいできるだろう。まだ街中の家の家具なんてないからな、これからだな。」
「おーーアレク、もうできたんだな。これで戦争出来るな。」
「カイン兄、貴方は何を手伝ったんですか、何もやっていないでしょう。」
「俺は、狩りをしてたぞ、みんなの食料調達係だ。」
「あの血抜きもしてない物が食料ですか。」
「あ、あれはちょっとだけ忘れたんだよ。」
「まぁいいです。それより今の状況を教えてください。ブルーを偵察に出したのでしょう。」
「おー、そうだった。」
カインの説明では、魔王軍に大きな動きはない。ブルーが上空からの偵察で軍に動きはなかったからである。
「カイン兄、どう思います。」
「ん、知らん。」
ガクッ。
「カイン兄、真面目に考えましょう。」
「アレク、俺はいつだって真面目だ。それに真正面から当たるしかないだろう。」
「うっ。」
「邪気や戯れの支配地域を一つ一つ潰して広げていくしか方法はないんだ。」
「まぁそうですね。」
会議という程のものでは無かったが、真正面から激突という結論が出たのである。
後はカイン軍と魔王軍が血みどろの戦いが繰り広げられていくのである。
カインとアレクは、物資の輸送拠点をこの魔物たちの町に移した。
駐屯地と艦隊駐留地と町でかなり大きな町になってしまった。もう都市と言ってもいいほどである。カイン軍とアレク軍、それと近くの村人たちをまとめたために10万近くまで人口が増えてしまっていたのである。
その為に毎日貨物船が空を飛んでいるのである。物資の消費がものすごい勢いで無くなっているのである。魔物人達の食事の量が人の3倍消費している為であった。
「うみゃぁ、うみゃぁ。」
「マジうめー。」
「ガツガツ。」
軍の食堂は24時間体制で稼働していた。そこで働くまかないの者達は4交代でフル稼働していた。
「もう俺はフライパンが振れない。」
「料理長、しっかりしてください。ただの腱鞘炎です。」
「・・・・少し、休憩を・・・」
「駄目です。あの行列を見てください。」
料理長の視た光景は、涎をポタポタと溢しながら一列に並んでいる魔物人であった。
眼はらんらんと輝き、口からは涎を垂らしている。これが食堂でなければ、危ない者達の集まりと勘違いしてしまう所である。
まぁ食堂でも十分危ない者と思われているのである。
「き今日のメニューが拙かったか。」
「料理長、肉以外出したら暴動が起きますよ。」
「いやカレー味にしたことだ。この匂いで食欲増進してしまっているんだ。何故俺は味なしにしなかったんだ。」
「料理長、毎日同じこと言っていますよ。料理長には味なしにする事なんて無理です。美味しく作る事を使命にしているじゃないですか。」
「くっ、俺は何で料理が好きなんだーー、くそーーー。」
それからも料理長はフライパンを振り続けていた。この食堂では4交代6時間労働であったが、料理長だけは、12時間労働であった。
食堂の戦いも毎日凄まじいが、町に出来た酒場はもっとすさまじかった。
魔物人達は、初めてのお酒であった。
何とまろやかな、芳醇な飲み物であった事か、みんな感動して涙したほどであった。
自然界には酒はない。元魔物たちは肉と言えば生であった。たまにハーブなどの草も食べるが、ほぼ生肉であった。それが塩を塗し、胡椒を擦りこみ、美味しいソースをかけて肉を炙って食べるのだ。何と美味しい事かそれに酒が加わったのだ。
もう魔物人達は感動して泣いてしまっていた。
「なななんだこの水は。」
「こここれが酒という物か。」
ゴクゴク。ぷはー。
「ビールって美味いな。」
「ウイスキーもウマっ。」
初めてのお酒でそに日は、馬も牛も狼も狸も皆、大虎になっていた。
「アレク様、拙いです。わが軍の食料がありません。」
「もうなくなったのか。あいつら食いすぎだろう。」
「通常の3倍を用意しなければなりません、兵站の計画を見直しする必要があります。」
「兵30万として計画を立てろ。」
「はっ、ですが明日は軍で狩りをしなければなりません。」
「・・・・・・」
貨物輸送船が一日遅れただけで食料が底を付く事態となるほど食料事情が悪化していたのだ。
翌日の狩りでこの一帯の生き物がすべて狩りつくされてしまった。
「カイン兄、進軍どころじゃないぞ。」
「あいつら食いすぎだろう。」
「聞いたところによると、あいつら2週間は食べなくとも平気みたいなんだ。」
「えっアレクそれマジ。」
「嗚呼、だけど軍としては毎日食事をさせないと拙い、兵を差別していると言う事になるからな。」
「・・・・・飯抜きにしたら暴動が起きるな。」
「間違いない。料理長に不味くつくるように言ったら怒られたよ。アハハハハ。」
「あの料理長なら怒るだろうな。この食材は炒めてって、言っているとか独り言言っているぐらいだしな。」
「それ聞いた事あるな。この肉は煮込みだとか言っていたな。」
「あの目はマジでやばいやつの目だな。」
「あの料理長には魔物人はぜったい逆らう事はしないと言っているぞ。魔物人の部屋には料理長の木像が出来ているからな。毎日拝んでいるみたいだ。」
「マジか、神だな。」
「料理の神様か、いいなそれ広めようかな。」
魔物人の中で料理長を神と崇める者が出てきていた。肉を美味しくできる神として魔物人達の間で急速に広まっていった。
魔物人たちは料理人達を神の使いとして、料理を出す食堂や酒場では行儀よくしている風景がこの町の名物に迄なっていた。
数年後にはこの都市は食の都と言われるようになる。
食通と言われる者達の聖地となっていくのであった。新しくできる料理の殆んどはこの都市から生まれると言われるほどになっていくのであった。
それは魔物人達の情熱と食意地が原動力であった。
この都市で生まれた物で世界中に広がった物の中でビュッフェスタイルがある。それまでは一人一人に盛り付けをしていたのだが、食べる量にばらつきが多いこの都市で好きなだけ取って食べるスタイルが生まれたのだ。これは軍に限らず、皆に受け入れられていった。特にホテル業の者達は大喜びであった。
魔物人達は、食事によって強くなっていた。もちろん多少の運動はしているが、それ以上に魔物の性質の影響が大きかった。魔物たちは魔物を食べて強くなっていたのだ。
魔物を食べて能力が上がってきていたのだ。人も魔物を殺して能力が上がっていく。魔物は殺しても食べても能力が上がる者がいたのであった。




