67話
アレクは、黙々と木人の作成をしていた。
休みなど無い。木人を10体造ると、10分の休憩をもらえる。
マリアとイリアに造らされているのだ。
アレクは思う。楽をするために木人を造ったのに、自分が一番忙しいおかしい、間違っている。
だが、アレクは作業を止められない。自分の造った木人に見張られているのだ。
アレクは来る日も、来る日も木人を造り続けた。そして釈放の日が来た。
鉄格子の扉が開かれると、そこには一列に並んだ家臣たちがいた。
家臣たちは、「「「「お勤めご苦労様でした。」」」」 一斉に礼をしていた。
木人1号2号も礼をしていた。
アレクは一筋の涙を流さなかった。 「 流すか。鬼姉ぇぇぇぇぇ。」
「僕は、二度とマリア姉とイリア姉には近づかない。」
「みんな、そのつもりでね。」
家臣たちは、みんな目をそらした。
アレクは、家臣たちに持ち上げられ、煽て上げられ、褒められて、ご気分がよくなっていった。
「まぁ、いいか。みんなの役に立ったようだしね。」
「さすが、師匠ですね。凄いです。」「最高のです、師匠。」
「師匠、立派です。」「天才、凄いですよ、師匠。」
「師匠にしかできないですよ、世界で一番です。」
すっかり機嫌の直ったアレクは、伯爵領に戻ってきた。
「いやぁ、久しぶりだよなぁ。」
「師匠、お茶入れますね。」
「僕はね、木人を造っている時に、28体目だけ鉄で造ったんだ。だから鉄人28号なんだ。」
アレクは自慢げに、得意げに語っていた。
「師匠、鉄で造ったら1号じゃないの。」
「・・・・・・・・」
「リックそれを言ったらだめでしょう。」
リックは黙って部屋を出た。
みんなが、気を使い別の話題に移っていった。
「そういえば、伯爵領の開発はどうなってるの。」
「順調に、進んでいます。特に運河近くの街は大変な賑わいですね。」
そう、突然に別の国にされた地域である。国民たちは戸惑い、恐れた。が新しい支配者は気前が良かった。食料を、酒を、魔道具をふんだんにくれたのだ。懐柔の為、とは分かっているが生活が楽になっていく。楽しく生活が出来るようになっていくのだ。
もう元の生活には戻れない。今の生活が、楽だ、楽しい、希望が持てる。
国民たちは受け入れた。オリオン公国の民になることを。
それからは、開発ラッシュとなり、より良い生活、活気のある町に変貌していっている途中である。
「そうか、一度領地を回らないとね。」
「そうですね、ご自分の領地ですから、みないといけませんね。」
「そうだね、知らないでは通らないもんね。」
アレクは自分の伯爵領を見て回ることにした。
「領都を決めないとね。前回は、途中で領地替えになったから、領都が無い状態だよね。」
「いま向かっている町はいいかもしれません。何か所か回って決めてはいかがですか。」
「いいね。そうしようかな。」
アレクはご機嫌で、領地を回っていくのであった。
アレクは比較的大きい街を見て回った。
中でも、話題に上がっていた、運河の近くの街は、よい街であった。
他のも交通の便が良い所、人口が多い町、色々とあった。
「どこにしようかな。」
「悩みますね。」
「何か、決め手がほしいね。」
「やはり運河の近くの街がいいですよ。運河からの交易もできますし。」
「今も、細々とだけど交易をしているようだしね。」
「街を運河まで広げて、港を造り、大都市にしましょう。」
「いいね。」
こうして、アレク伯爵領の領都が決まった。まだ名前は決まっていないが。
「じゃぁ、開発計画を作成してね。」「一気に工事をしてしまおう。」
「木人がいますからいけますよ。」
アレク達は運河に港を造り、港から区画整理を行い。運河から水路を引き、水の都を造ろうとしていた。
「この調子で行くと大都市になるね。」
「そうですね、まだ運河近くの街とつながりませんから。」
「まぁすぐに繋げなくともいいでしょう。いずれ繋がれば。」
「それより、城はどうなってる。」
この水の都に領都城を造るようだ。
この城、防衛の拠点も兼ねているため。かなり大きく造るようだ。普通の伯爵領には城は無い。
アレクは、気にしていないようだ。やりたい様にやるのだ。
「中央にドンとですよ。」
「おお、いいね、目立つね。」「じゃ、これで行こうか、後は頼むね。」
次の打ち合わせの為に、ガレオン号に乗込み、公都ブレストに向かう。
公都ブレスト
「デリック、木人はどう?」
「いいですよ、みんな休みが取れるようになりました。ありがとうございます。」
「いいよ、当たり前の事しただけだから。」アレクは照れている、嬉しいのだ、褒められるのが。
「いくらお礼を言っても足りません。」デリックも知っている、アレクが煽てに弱い事を。
「打ち合わせに、行こうか。」
アレクとデリックは、ハロルドとの打ち合わせに向かった。
「お待たせしました。」
「大丈夫だ、まだ時間前だよ。」
「デリックも来たし、始めるか。」
3人は、木人の運用方法を話し合っていた。
農地開発、区画整理、軍の兵、単純作業の労働力としての役割と今の人の労働力をどのように住み分けをさせるのかをアレクの意見を参考にするようだ。
アレクは、説明をしていく。「木人は単純作業しかできない、人間は細かい作業が出来る。工事現場でも木人と人がいないとうまくいきません。木人だけだと大雑把な工事になるし、人間だけだと工事が遅くなります。両方をうまく使うのが、一番ですね。」
「これで、住み分けが出来ましたよ。」と軽く言っている。
「木人、魔道具、色々と便利なものが出来ましたが、人の器用さ、万能さには敵いません。人は優秀なんですよ。なんでも出来るのです。」
ハロルドは思った。こいつの頭の中を見てみたいな。
アレクは熱く語っていたが、マリア、イリアが押し掛けてきたので、急いで帰ろうとしていたが、捕まった。
「アレク、木人が少しだけ足りないのよ。お願い。」
「僕は、疲れているんです。」
「木人は製作して送りますから、帰してください。」
「そう、分かりました、私たちも鬼ではないですからね。誰かが私たちの事を、鬼、と言っていた人がいるみたいだけどね。ア・レ・ク。」
「姉上様、喜んで木人を造らせていただきます。僕にお任せください。」
「「そう、ありがとう。」」
アレクは数日間、木人を造り続けたようだった。