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632話 ラーズの決断

デニーズ王国の使者はアレクの前で説明をしていた。


このデニーズ王国貴族軍1万はデニーズ王都に救援する目的で向かっていたという。と同時に調度デニーズ王国軍も王都に決戦するために15000の兵で向かっていたのだ。その事を知った貴族軍はデニーズ軍に対して攻撃をしたのだ。

オリオンとは戦争中であるがデニーズ王都民を救済してくれた事に感謝の意を示すために救援物資を持ちこみ向かっていた場所に別方向から物資もなく15000の兵とかち合ったのだ。

お互いに連絡員を飛ばし確認していたが話が全くかみ合わずに決裂してしまったのだという。


そして戦闘になったのである。

この戦闘はデニーズ軍15000はほぼすべてが軍人であり騎士の位を持つ者達であった。一方貴族軍10000は貴族達の私兵であった。私兵と言っても従士や兵士たちであるためにある程度の練度はあるのだ。


普通に考えれば15000の正規軍が勝利するだろう。ではなぜ貴族軍10000が勝てたのか。それは至極単純であった。

15000の兵は飢えていたのだ。

毎日朝昼晩と食事をとっている軍と少量の食料を朝と晩だけ食べている軍では、戦っても勝負にならなかったのである。

食事は大事である。飢えてしまっては士気も下がり上げることは不可能である。



「なるほど、貴族軍はオリオンと戦争をしないという事か。」

「はい、我らはデニーズ王国貴族でありますが、今回の戦争には参戦いたしません。」

「まぁすぐには信用は出来んぞ。」

「はい、それは分かっております。」

「だが今王都の民は困っているのも事実だ。新しい町を造らなければならないからな。」



アレクはデニーズ貴族軍を受け入れた。人手が欲しかったこともあるが、王国軍と戦闘した事実があった為である。


「逃げたデニーズ軍はどこから来ているのかはわかるか。」

「はい多分ですがデニーズ王国のラーズ領からではないかと思われます。」

「ラーズ領か、王都から5日ぐらいの距離だな。」

「はい。」

「5日分の食料も無いようではかなりマズいな。」

「・・・・」



実際のデニーズ王国ラーズ領にいるデニーズ王は食糧危機に瀕していた。王の連れてきた3万の兵を一伯爵領が賄うことなど出来ないのだ。毎日3万もの兵が3食食べるのだ。人口10万の領地が3万もの人を養うことなど聞ないのだ。

そのために15000の兵を領地から出したのだ。王も兵が減る事は許しがたい事であった。だが飢えてしまう事の方が優先されたのだ。

もっともらしい理由を付けて送り出した15000の兵は一路王都へと向かい王都開放という栄誉を賜る予定であった。


兵達も瓦礫となった王都の事など想像もできなかった。繁栄する王都しか見ていなかった兵たちは王都ならば食料は豊富にあると誤解する事は仕方のない事であった。


そしてこの15000の兵たちはラーズ領に逃げる者と各地バラバラに逃げる者とがいたのだ。

この逃げた兵たちが各地に一気に噂を広げる役目をしてしまったのである。


噂、デニーズ王国にとって致命的と言える噂となってしまった。

王都が占領された事は商人から伝わっていたが、王都が実は崩壊してしまった事、魔の森が消滅した事それもドラゴンによって焼き払われたなど王国民が欲しい情報が逃亡兵によってもたらされたのだ。


各地の貴族領はこの噂でデニーズ王国の力が弱まったことを肌で感じていた。


それはラーズ領の隣地の領地でも同じことでもあった。今まではラーズ領(国の為)のために安く食料を譲っていたが噂から安く売る事は無くなったのだ。それも現金でないと販売をしなくなったのだ。領地同士は信用で成り立っていた。貴族の矜持ともいうべきか、金は後払いであったのだ。名誉をかけても金を払う。それは貴族であるプライドであるのだ。


このことでラーズ領は非常に困ってしまった。デニーズ王の滞在地でもあるためにデニーズ王国から美術品や金貨などが持ち込まれていたが、早くも王国を見限った者達が金貨を持ち逃げしていたのである。

美術品は金に換えることが難しい為に持ち運びに便利な金貨を、見限った軍人や貴族が持ち逃げしてしまったのだ。

ラーズ領主が一番困ってしまっていた。逃げる場所もなく、金もなく食料も無いのである。


そして一つの決断をしたのであった。



デニーズ王を殺す。



ラーズは追い詰められていた。隣地の領主たちからは迷惑がられ馬鹿にされていた。領民からは物の値上がりの為にかなりの不満が出ている。噂が領民の不安を掻き立てていた。



ラーズは王がこなければ、王がいなければと考えるようになっていったのである。

一度考えの方向が定まるともうその事しか考えられなくなってしまうのだ。



ラーズは譜代家臣たちを集めていた。



「良いかデニーズ王を排除する。これはデニーズ王国の為であるのだ。今の王ではこの国は持たない。」

「ラーズ様、次の王はもう決まっているのでしょうか。」

「それは問題ない、王の弟の子(庶子)がラーズ領の孤児院にいるのだ。2歳だったか。」

「おーーーーそれはそれは、ではまだ政治などは出来ませんなラーズ様が執政という事となりましょう。」

「執政をやるしかあるまい。ハハハハ。」


何とも都合の良い考えで埋まっていったのだ。


そして実行日、大きな屋敷をラーズ兵が囲んでいた。

デニーズ王国軍は別の場所で駐屯地としている為にこの屋敷にはほとんどいなかったのだ。

ラーズ領軍2000がぐるりと屋敷を囲み中に押し入っていった。


「何事だ。」

「陛下、ラーズが裏切りました。」

「くっ、逃げるぞ。」

「もう無理です囲まれています。」


そうこうしているうちにラーズ率いる兵たちが王のいる部屋まで来てしまった。


「ラーズよ、これは何事だ。」

「デニーズ王、デニーズ王国の為に死んでもらいます。」


この言葉でラーズが本気である事を理解したデニーズ王は


「ままて、余に考えがあるのだ。」

斬りかかる寸前であったラーズは剣を構えたまま止まった。


「ラーズ、余はなお前に王位を譲っても良い。正式に王位継承をすればよいではないか。」


王は今を生き抜くために王位を譲り兵を固めて身を守る事を考えていた。


「ではデニーズ王よ、王退位と王こののラーズに譲ると署名していただきましょう。」


「おお、署名しよう。」


王は高価な紙にデニーズ王の退位と次代の王はラーズとする旨を書面にしたのであった。その書面は王の印が押され正式なものとなった。


その事実は駐屯する軍にも通達されたのだ。


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