62話
ガレオン号は低速で航行していた。
地上から確認できるように、目立つように航行しているのだ。
「いい景色だね。」
「あっ、人がいるね、手を振ってみようよ。やっほーーーー。」
「驚いて、逃げて行ってますよ。」
「・・・・・・」
「前方より、騎馬隊が接近してきます。」「あっ、通り過ぎました。騎馬隊追いかけてきます。」
「騎馬隊を見失いました。」
「・・・・・・・・・・・速度が違うしね。」
「相手が、可哀そうになってきましたね。」「必死な顔してましたよ。」
「・・・・・・」
何度か同じことが繰り返された。
ガレオン号は、ゆっくりと、堂々と2日かけて帝都上空に到達したのだ。
「帝都を一周するぞ。微速前進。」
「矢が飛んできます。届きませんでした。」
「・・・・」
「今度はファイヤーボールが来ます。」
「着弾しました。被害確認をします。」「被害なし。」
「何か魔法を、撃っています。」
「着弾、不明。」
「何か、叫んでいます。」
「無視しろ。」
「・・・・・・・・」
「帝都の地図をきちんと描いとけよ。もう一周するからよく見とけよ。」
「帝都上空に停止。一日、留まるぞ。各自、休憩。」
「俺たち、何しに来たんだ。」
「アレクスさまは、観光って言ってたぞ。」
「ん、なわけあるかぁ。」
「でも、何もしない作戦なんだって。」
「・・・・・・・・・・」
移動作戦部隊たち
ある山里離れた、山間の盆地は人で埋まっていた。
「カイン様、着陸できるスペースがありません。」
「・・・・・・・どうすんだよ。」
「誰か船から飛び降りて、下の奴らに言ってこい。」
みんな、・・目を逸らしている。
カインは、近くにいた部下を蹴飛ばしながら、「お前、言ってこい。」
「ひゃああああぁぁぁぁぁ、」ドス。
しばらくすると、着陸できるスペースが空き、無事に着陸が出来た。
部下に急いで、乗り込む手配をさせる。
カインは代表者と話をする。
「あんたが、ここの代表か?」
「はい、私が代表ミリスと申します。よろしくお願いします。」
「収拾がついていないな。多分、全員は一度には無理だな。折返しで運ぶようになるぞ。いいな。」
「はい、聞いていますので、大丈夫です。よろしくお願いいたします。」
「よし、手早くやれよ、時間がないからな。」
カインは、子供と母親を中心に搭乗させ、座れないほどに詰め込み、甲板にも立たせて乗せた。
それでも全員は乗れず。一度帝国外まで運ぶこととなった。
「離陸するぞ。すぐに戻ってくるからな。待ってろ。」
まっ黒に塗られた飛行貨物船は、帝国外の大森林に向かった。
大森林内に、避難民たちが休めるようにしていたのだ。カインは避難民たちを降ろして、再び集合場所に向かう。
「まだ夜が明けてないから大丈夫だろう。残りも早く乗れ。」
「はい、すぐにみんなを乗せます。」
「ここに残る者はいるのか。」
「俺たちが、残る予定ですが。」
「そうか、ならこれを。」カインは銀貨の袋を数十個渡す。「これは自力で来る奴らの資金だ。各地に配ってやれ、一人でも多くにな。俺たちはここまでだ。国外に出たら、商会とかにオリオン家の名前を出せば、援助してもらえるから頑張れよ。」
男たちは、黙って受け取り、頷く。
「じゃぁな。また会おう。」
カイン達は大型飛行貨物船に乗り込み飛び立っていった。
残ったもの達。
「ありがたいな。」
「そうですね、また会いたいです。」
「俺たちも移動するぞ。他の者たちに金を届けて回るぞ。それから国外に出るぞ。」
「行きましょう。」
男たちは、グラムット帝国の各地に散らばっていった。グラムット帝国は広い、この大陸で一番の領地の広さなのだ。獣人の国の復活を知らない獣人はまだいる。少しでも多くの獣人に知らせるために残った者達だった。
この夜、移動作戦の他の場所でも同じことが起きていた。ただ一つ、違っていたのは、飛行船から飛び降りたものはいなかった。ロープで吊るして、下りていたそうだ。 そりゃそうだ。
夜が明けた。
グラムット帝国、上空ガレオン号
「師匠、これからどうしますか。」
「帰るだけだよ。」
「えっ、ホントに何もしないで帰るんですか。」
「何もされないほうが怖いだろう。グラムット帝国の上空に一晩いても、相手は何もできなかったんだ。帝国の民は見ているからね。これからが見ものだよ。」
「攻撃出来るのに、攻撃しないのは怖いですね。」
「帝国にしたら、相手の考えが分からないのが怖いですね。」
「グラムット帝国の各都市をぐるっと回って、観光して帰るぞ。上空でだけどね。」「各都市での地図の作成を忘れるなよ。帝都を低空で一回りして帰るぞ。」
「「「「「はい。」」」」」
ガレオン号がグラムット帝国上空にいた夜、グラムット帝国中帝都中の人々は眠れぬ夜を過ごしていた。
上空から帝都に侵入されて、攻撃も出来ない。帝都民は、恐怖の中で夜を過ごしたのだった。
アレクは、各都市を低空で観光させていた。「じゃ、次行くよ。」数か所を観光して、堂々と帰っていった。
アレクが南部新領地に戻ると、移動作戦の飛行船も次々と戻ってきた。
「カイン兄、お帰り。」
「おう、アレク帝都はどうだった。」
「大きい都市だね。攻めるのは出来そうだけどね。」
「まぁ、家には飛行船があるからな。」
そこには、バッハ男爵も駆けつけていた。
「アレクス殿、ご無事で何よりです。カイン様もこの度はありがとうございました。」
深々とお礼をするバッハ男爵。すると廻りの獣人もお辞儀をしていく。
カインは、照れて、「やめ止め」の、言葉を連発していた。
アレク、カイン、バッハは獣人たちをどの国に住まわすかの確認作業に追われていた。
ほとんどの者は、バッハの国に移住するが、カインの領地に移動するものが意外に多く驚いていた。
カインは、獣人の中で英雄になっていたのだ。大森林で獣人たちを助け、今回の移動作戦も、輸送を担当して、多くの獣人の目に触れ、獣人部隊を率いて、ローエム王国で大活躍をしていると、カインの領民が宣伝して回っていたのだ。もちろん宣伝していたのは、大隊の獣人たちだ。
他とは少数だが、オリオン領に移住希望が出ていた。特に子供のいる、獣人たちが多いようだった。
無法地帯は、獣人の割合が一気に増えた。ただバッハの国が10割が獣人なので他はそうでもない。