614話 アレクの事件簿
アレクは少しウキウキしている。
山の迷宮で一仕事終えて(実際はしていない)オリオン領から逃げる事が出来たからだ。
アレクは素直にオリオン領に戻る事はしない。どこか寄り道をしながらゆっくりと戻るつもりなのだ。
「さーーてどこ行こうかな。マジルは拙いよな、オリオンの遺跡はもっと駄目だな。捕まったらもう外には出られないからな。んーーあっそうだレオン兄の所もいいかもな。」
ブツブツと独り言を言いながら町を歩いていると、一人の少年がアレクの前に立っている。
アレクはぶつかる寸前に気づきよける。
「あっ、ごめんね。」
「アレク様、お願いがあります。」
「ん、俺の事知ってるの。」
「もちろんです、この町でアレク様を知らない者はいないでしょう。」
「あっそうかもね。で何お願い。」
「はい、俺をガレオン号の乗組員に雇ってください。」
「君いくつ。」
「13歳です。」
「んーーあと2年待ちなよ。オリオンは15で成人だからね。」
「・・・・お願いします。従者でも構いません。稼がないと、家族を食べさせないといけないんです。」
アレクはこの少年の話を聞くために近くの食堂へ入る。
「丁度昼だし奢るから好きなの食べていいよ。」
「・・・いいんですか。」
「お腹が減っているといい考えも浮かばないでしょう。」
「ありがとうございます。」
アレクは少年の話を聞く。この少年の名はサムズという。サムズは母と妹二人の4人家族である。父は最近事故で亡くなり母が働き何とか食べている状況であった。
だが母の稼ぎはあまりよくない。幼い妹がいるためにフルで働けないのだ。
山の迷宮は行政がきちんとしている。母子家庭などには補助金が出る。家族の収入に不足している分を補助する法律があるのである。この法律はオリオンの者であれば誰もが知っている事であった。
アレクは不思議に思いその事をサムズに聞いてみる。
「サムズ、オリオンの補助金制度は知っているか。」
「もちろんです。補助金を貰っていますから。」
「じゃぁ何で金が必要なんだ。食べて行けるだろう。」
サムズはもの凄く言いにくそうに語り始めた。
オリオンの補助金制度は家族が暮らしていける不足金を貰える制度である。だがそれは借金の無い場合である。
借金のあるサムズの家族は収入のすべてを借金返済に取られているのであった。
その借金もかなりいい加減な物であった。死んだ父が残したものであると言う。借用書もかなりいい加減であるが毎月返済の証拠が残っていたために借金が認められてしまったのだという。
「んーー、その金融屋はまともなところなの。」
「分かりません。母が交渉していましたから。だけど俺が働かないと家族が・・・・」
アレクはサムズと共に役所にきていた。役所の把握している事を聞くためである。
役所の職員たちはアレクが来たことで大騒ぎとなっていた。
「アレク様、3街区役所の区長を務めております。レインセルと申します。」
「レインセル区長ですか、少し確認したいことがありまして。」
アレクはサムズの家族事、金融の事を役所は把握しているか細かく確認していく。
役所の言い分としては借金は別物で個人の問題である事、区役所としてはすべての面倒は見れないと言う事であった。
「いや責めているんじゃないんだよ、ただの確認なんだ。」
「はっ、さようでありましたか。」
区長は少しほっとした表情になっていた。
役所を出たアレクとサムズは歩きながら
「サムズの父親は何の仕事をしていたんだ。」
「はい、衛兵です。」
「衛兵だったのか、なら年金が下りるんじゃないか。」
「はいおりましたですが、分割では無くて一括で借金返済に充てられてしまいました。」
「あーー。なぁーサムズ借金はあと幾ら残っているんだ。」
「・・・・・1億Gです。」
「はっ?1億。ありえないだろう。」
アレクは借金の事を聞いていたが金額まで確認していなかった。1億Gそれはこのオリオン内で普通に借りれる金額ではない。何か担保などが無ければ誰も貸す事等しない金額であった。
「元はいくらあったんだ。」「2億Gです。」
「金融屋に行くぞ。」
アレクはその金融屋に乗り込んだ。
サムズとアレクを見たその金融屋はニコニコしながらアレク達に挨拶をしてくる。
「いらっしゃいませアレク様、サムズ君。」
「少し聞きたいことがあってね、寄らせてもらったよ。」
「サムズ君の御家族の借金の事でしょうか。」
「そうだね、金額を聞いてびっくりしたよ。2億だって。」
アレクは金融屋の顔を睨んだ。
「え、えー2億Gをお貸ししました。」
「借用書見せてくれるかな。」
金融屋は素直にアレクの指示に従う。その借用書はお世辞にも2億Gを貸すような借用書では無かった。
誰がどう見ても200,000Gを200,000,000と0を3つ付け足したように思えるのだ。
だが一度認められてしまった借金はアレクと言えども覆すことができないのだ。山の迷宮では法律が優先されるのである。人命にかかわる事以外では法律優先であった。
「この金融屋の帳簿見せてくれる。」
「えっ・・・・・・」
「ほら早くしてくれる。」
「・・・・・・いくらアレク様と言えども帳簿はお見せ出来ません。」
アレクはスッと一枚のカードを机に置く。
領主が所持する調査権限を持つ身分証であった。このカードの所持者に拒否権は通用しないのだ。
金融屋が持ってこないのであれば勝手に見る事も出来るのである。
「じゃぁ勝手に調べさせてもらうよ。」
「・・・・・・・」
「ももも申し訳ございません。」
突然謝る金融屋であった。
「何がかな。」
「・・・・・借用書を偽造しました。」
「それ犯罪だって知っているよね。いいから帳簿持って来て。」
強い口調でアレクは言うと窓に向かって魔法を放つ。アレクの魔法は窓を粉々に砕いた。
それにビビった金融屋は帳簿をアレクの元に持って来たのだ。
アレクが帳簿を調べていると外から兵士が駆けこんできたのであった。アレクが破壊した窓が金融屋であった事で強盗なのではと通報が入っっていたのであった。
兵士もアレクの姿を見ると納得したのか、引き下がっていっく。
「あっ兵士さん、少しこの場にいてくれる。それと誰か役人連れてきてくれるかな。」
アレクは金融屋が2億も資金の無い事を確認していた。貸す金が無いのであれば貸せるわけがないのだ。
この金融屋は精々一人に対して20万が限度としている金融屋であった。
「これ酷いね。俺なら処刑するな。」
アレクのこの言葉に泡を吹いて倒れてしまった金融屋であった。
山の迷宮ではかなり珍しい犯罪となった。
「取りあえずよかったな。」
「「「「アレク様、ありがとうございます。」」」」
アレクはこの一家からお礼を言われていた。
サムズの父はかなり優秀な人であった。真面目に働き貯金もかなりあった。事故に会うまでに8000万Gも貯金があったのだ。
金融屋の借金も親戚の偽造であった。その親戚はサムズの父の信用度を利用して名をかたって借りたのであった。
その事実からサムズの家族の借金事件は解決したのであった。
「アレク様、でも俺アレク様に仕えてたいんです。」
「それならオリオンの遺跡で働くか。家族みんなで移住して来いよ。」
サムズの家族はみんなで頷く。
「「「「宜しくお願いします。」」」」




