607話 マジルの街
「レッドなんで鼻栓なんてしているんだよ。」
「これねー、アレクがくれたの。カインの分もあるよ。ほら」
「こいつもしかして戯れってやつなのかな。」
カインは独り言のように呟いていた。
「カイン、アレクの言っていた戯れだと思うよ。凄い嫌な感じがしたもん。」
「やっぱりそうか、臭いって言ってたからな、あんな臭いやつ初めてだよ。」
「なんかね凄い嫌な感じがしたんだよ。普通の魔力じゃないんだよ。何かねっとりしているんだよ。」
「俺には分からんな。あっそうだ治療院にいかないと。」
カインとレッドは子供を抱えこの場を後にした。
治療院に付くと浮浪児は少し元気になっていた。
「おい大丈夫か。」
「あ、ありがとう。」
「それよりお前何て名前だ。」
「・・・・・・」
「名前ないのか。」
浮浪児は悲しそうにうなずく。
「よし、俺がつけてやる。んーーそうだな。俺と同じ赤い髪だしなレッドも赤だし、んーーー少年お前の名前はブルーだ。」
「えっ。」
浮浪児、いいや少年は唖然としてしまった。今まで赤だレッドだと言っていたのにブルー?少年の思考が再起動するまで1分以上かかってしまった。
「カイン、さすがにブルーはないよ。同じ赤同士でブルーはないでしょう。」
「そうかな言いやすいし、いいと思うんだけどな。」
「ぼ僕、名前はないけどいつも、ガキって言われてた。」
「・・・・」
「お前の名前は俺の名前からとってカイトだ。俺はカインだ。」
「カイト、カイト、カイト僕はカイトだね。へへへ。」
「カイトいい名前だね。」
レッドが嬉しそうに話しかける。
そこで初めてカイトは気づいた。小さなドラゴンがいるのだ。それも喋っている。
「えーーーーーっ、喋ってる。」
「えーーーー、知らなかったの僕かなり有名なんだけど。」
シュンとするレッド、レッドはこの辺では有名になっていると思っていたのだ。カインと一緒に暴れまわり喋るドラゴン、踊るドラゴンとして有名だと思っていたのだ。
実はレッド、かなり有名になっていた。だがこの少年は浮浪児であり生きる事しか考えていなかったために噂など知らなかったのだ。
「まぁいいかそれよりカイト。俺たちと一緒に来るか。」
「いいんですか」
「あそこにいても死ぬだけだろう。カイトを鍛えてやるよ。一人でも生きていけるようにな。」
「うっうん。」
「だけど少し待っていろよ、あそこを掃除してからだけどな。それまでこの治療院で寝てろ。2,3日だからな。」
カインは治療院に3日ほど少年の面倒を頼む。
カインは考える。スラムを如何したらいいのか。
「なぁレッド。スラム街を立て直すことできるかな。」
「カイン、それ僕に聞く。」
「だよなアレクは拙いな連れ戻されそうだしな、ルドルフ兄も忙しそうだしレオン兄は無理だな。」
「カイン、ここの領主に掛け合えば。」
「おおーさすがレッドだな。その方がいいなこの町の領主館に行くか。」
カインが今いる町はマジルの町である。このマジルの町は交易の要所として栄えている町である。そのためにいつも争いが起きていた。
「へーーこれが領主館なんだ。何か古いな。」
カインは領主館まで来たが門には門番もおらず。さびれている印象があった。
「すいませーーん。誰かいますかー。」
シーーーーン
「どうするカイン、誰も出てこないよ。」
10分ほど叫んでいると一人の少女が門へ駆けてくる。
「お待たせしました。どちら様でしょうか。」
「あっ俺はカイン・オリオン。この町のスラム街の事できた。領主に取次ぎを願いたい。」
「・・・スラム街のことですか。どうぞ中へ。」
少女に案内されてカインとレッドは古い屋敷の中へと入っていく。
中へ入るとかなり傷んでいることが分かる。
客室で待つカインとレッド。
「お待たせしました。」
客室に50代であろう女性が先ほどの少女と一緒にはいってきた。
「カイン・オリオン様ですね。」
「嗚呼、俺はカイン・オリオンだ。この町のスラム街を何とかしたくてな。領主に相談に来たんだ。」
「そうですか、領主として情けない限りです。」
領主の説明ではこのマジルの町は交易の要であり、要所となっている。そのために多くの人々が訪れ、旅立っていく。多くの人が訪れる為に博打や娼婦など娯楽を求める者達も大勢やってく。それを仕切る者達も出てくる。そして利権をかけて争いまで起こるのであった。
マジル領主は、領主となってはいるが実権は奪われている。マジルは大きく分けて5つに分かれている。1街区から4街区とスラム街である。1街区から4街区の街長が今は実権を握っている。
「なんで領主に実権がないんだ。」
「それは私が女であり、兵を持っていない事で街長に代理委任してしまったのです。」
マジルの領主は元は女性の旦那が領主を務めていた。それが病没したために領主を継いだのだ。すぐに息子に領主を引き継ぐ予定でいたがこのマジルを離れていたためにそれが出来なかったのだ。そしてその息子夫妻は戻ってくる途中に盗賊に会い命を落としてしまったのであった。それがもう10年前の事である。
「残っている血縁者はこの孫一人です。」
先ほどの少女であった。
ペコリとお辞儀をする少女。
ズキューン。
カインの心に矢が刺さっていた。
「俺が領主の力を取り戻してやる。」
なぜか目がメラメラと燃えているカインであった。
マジルの領主はオリオンの名を知っていた。昔からオリオンは有名であった。民の為に政治を行ない民の為に戦うオリオン。いくつもの伝説の中で生き続けるオリオンの名は人々の中で希望となっていたのである。
「よーーし、レッド行くぞ。」
「えーーどこへ行くのカイン。」
「決まっているだろう。その街長の所だよ。そいつらから権限を戻してもらう。」
「カイン、僕思うんだけどさー、領主が手紙出せば終わるんじゃないも。」
「あっ、そうかな。」
カインは領主を見る。
苦笑いを浮かべる領主だが
「何度も権限を戻すように通知は出していますが権限が戻っても誰も従ってくれません。そしてまた権限の委譲となってしまっています。」
「やっぱりその街長が悪いやつだな。」
カインはレッドと共に領主館を後にした。先ずは1街区の街長屋敷に乗り込んでいった。
門を蹴破り、門兵を殴り倒し。屋敷の中を進んでいく。
そこで見た物はデブであった。
「お前よくそこまで太れるな。」
「何もんだワシの屋敷に門兵は何をしていた。首だーー。」
街長が叫んでいるとゾロゾロと人が集まってくる。
「この者を殺せ、ワシの屋敷に無断で入ってきたのだ。」
「俺は領主代理だ。」
「何だと。またあのババー凝りもせずに、面倒なことを。クッ。まぁいい領主代理の者など此処にはこなかったでいいだろう。殺せ。」
兵たちはカインに向けて剣を抜く。
カインに斬りかかるがカインに勝てるはずもない。兵は殴り飛ばされていく。
ボコ、ボコボコボコボコ。
カインは街長を引きずりながら屋敷から出ていく。
屋敷を出たカインは1街区の中心迄来ると大声で
「みんなーーよく聞いてくれ。これからはマジルの領主がすべてを仕切る。今までの街長は罷免とする。」
街の者達は「・・・・・・・・・・・」
街の者達は知っている。領主に力がない事をそして街長には兵がいる事を知っているのである。街の有力者も全て街長の味方である。
「俺はカイン・オリオンだ。領主代理だ。」
ビクッ。
街の者達はオリオンの名にビクッとする。かすかな希望の光を感じたのだ。
「心配するな、これからは俺が町を守ってやる。いいか領主の命令に従わない者はこうなる。」
ボコッ。
カインは街長の顔面を殴り飛ばした。街長はそのまま死んでしまった。
「文句のある奴は俺が話を聞いてやる。だがなこの街長のようになると思え。おいそこの兵士。お前は領主に従うか。」
「・・・・・」
「ならば死ね。」
ボコッ。
「お前は従うか。」
「・・・・」
ボコッ。
そこに高級な服を着た者と騎士が数十人やって来た。




