606話 正義の味方
アレクはマリアとイリアの話を聞いているうち寒気がしてきた。本当に怖いのはこの二人ではないかと思ったからである。
この二人、ルドルフが失敗する事を前提に物事を進めていたのである。
「イリア姉はルドルフ兄がオリオン王国を建国して内乱になると言うのですね。」
「間違いないわ、だってダーイア王国以外は全く関係もないのよ。もめない方がおかしいでしょう。」
「まぁそうですね。ルドルフ兄も分かっていると思ったんですけどね。」
「分かっているわ、だけど焦っているのよ。」
「焦っている?」
「そうよ。アレクとカインの力に焦っているのよ。」
「俺とカイン兄の力ですか、カイン兄はレッドがいますから分かりますが、俺はそうでもないでしょう。」
「あなたも分かって無いわね。いいアレク、貴方は山の迷宮の管理者から認められた者なのよ。ルドルフはオリオンの長男として力をいいえ能力を見せたいのよ、父上もそれを分かっているから今回の事を認めたのよ。いい勉強になるだろうって言っていたわ。」
「はぁー、オリオンで揉め事になれば民に被害が出るでしょう、それを父上は認めたんですか。」
アレクは納得がいかなかった。ルドルフを鍛えるためと言っても民を犠牲(迷惑)を駆ける事は出来ない。
「大丈夫よ、ルドルフ兄様が暴走する前に分からせるわ。ねぇマリア。」
「フフフフ。」
アレクはこの二人を見て分かってしまった。大丈夫だと。
多分、父上も母上もマリアとイリアの態度で納得したんだろうと思ったのだ。知らないのはルドルフのみであろうことも分かったのだ。
「ですが、ルドルフ兄がどのような失敗するか分からないでしょう。」
「そんなの分かるわよ、簡単よ。」
「分かるんですか。」
「ええ建国する前に失敗するわ。」
イリアの説明ではオリオン王国建国の調整はかなり不満があるようだ。今まで領主や村長として治めていた者達は爵位という位で優劣をつけられることになる。下は騎士爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵と7段階になるのだ。いや無位の貴族もいる。8段階の階級となるのだ。何の功績も無い者に爵位を授ける事は、揉める原因である。
「なるほど、功績ですか。」
「そうよ、オリオン王国建国に貢献したと言う名目だけど何もやっていない事は周りが知っているわ。」
「ですね、王としての資質も問われそうですね。」
「だから建国前に失敗させるのよ。建国後だと取り返しがつかないでしょう。」
「レオン兄は知っているのですか。」
「ええ今ダーイアで調整しているわ。寝る暇がな程頑張っているわよ。フフフ。」
「そそうですか。レオン兄も大変ですね。」
そんな話をしているアレク達とは対照的に今ルドルフの周りには次期王を持ち上げる太鼓持ちが群がっていた。
「陛下。」
「まだ王ではないぞ。」
「いいえ、もう陛下は陛下です。オリオン王国初代王となるお方です。」
「「「「「さようでございます。」」」」」
「まぁ近いうちにな。アハハハハ。」
「流石、器が違います。初代王です。」
ルドルフの周りには近隣の村長や小領の領主などが集まっているのだ。この者達は己の力では大領の領主に対抗出来ないためにオリオン建国の話しに乗って王を後ろ盾に力を付けようとしているのであった。
このおだてに簡単に乗ってしまったルドルフは軽い神輿となっていたのだ。
その頃カインは正義の味方をしていた。
ある町の裏通りで一人の浮浪児を助けていた。
「おいやめろ。」
「あ”ーー。何だおめーは黙っていろ。今教育中だー。」
ボコッ。
「大丈夫か。」
「・・・ありがと・・う。」
まだ幼い少年は殴られ意識が無くなった。
カインは殴り飛ばした男はそのままに少年を抱え、治療院に駆け込んだ。
「もう大丈夫ですよ。」
「そうかよかった。死んだと思ったよ。」
「気を失っただけでしょう。ですがかなり傷ついていますね。古い傷も多くあります。毎日殴られていたのでしょうね。」
カインは治療院の言葉にあの場所を思い出す。スラム街のような場所でこんな少年が生きる事はかなりきついだろう。
カインは金を渡し夕方また来ると伝えて出ていった。
カインは先ほどの場所で大声をあげていた。
「この場所はこれから俺が仕切る、文句のある奴は出て来い。」
この言葉で物陰から大勢の男たちが出てくる。
「あ”ーーーっなんだお前はこの町の仕来りも知らねー小僧が。」
「あーっ、そんなの知るか。」
カインはあまり雄弁ではない。口より手の方が早いのだ。
「殺すぞ。やっちまえ。」
大乱闘の幕開けであった。大乱闘というより一方的である。
カインが殴る。相手が吹っ飛ぶだけであった。
物の30分もするとカインに向かって来る者はいなくなっていた。
「おい、ここを仕切っていた奴の居場所をいえ。」
「・・・・」
バキッ。
「ギャァーーー。」
「もう一本行くか。」
「いいいます。言わせてください。」
シュッ。
その男は弓矢によって頭を貫かれていた。
「おい、おい。死んでるか。誰がやったーーー。」
「私ですよ。うちの子分が親の事を裏切ろうとしましたからね。裏切者は死ですから。」
一人の男が現われると、殴り倒されていた者達が一斉に息を殺すように黙ってしまった。今まで痛いだのと転げまわっていた者たちが何も言わなくなっていたのだ。
カインはこいつが親玉だと確信したのだ。
「お前がこの町を仕切っているのか。」
「ええそうですよこのスラムの王ですね。」
「そうか、なら死ね。」
カインが渾身の力で殴り殺そうと右ストレート放つが空振りする。唖然とするカイン今までカインのスピードについてきた者がいなかったのだ。まさか避けられるとは思ってもいなかった。
「へーー、俺の攻撃を避けれるんだ。おもしれー。」
なぜかカインは笑っていた。
対する男は無表情であった。
殴りかかるカインに対して必死に避ける男、カインの拳がかすっただけで男の皮膚は裂けていった。
「クッ。」
「どうした、余裕が無い様だぞ。」
「フン、これからだ。」
男は何かの呪文のような言葉を唱えると周りが霧に包まれていく。ただ普通の霧であれば見えなくとも気配で敵を察知できるのだが、この霧は臭かったのだ。
「おぇーーーっ。」
臭いを嗅いだカインは嗚咽を繰り返す。もう臭すぎて立っていることもできなかった。周りにいる男の子分たちはみんな気絶してしまっている。臭いで痙攣しているのだ。
「どうだ。私の奥義だ。ここは引かせてもらうぞ、いずれお前は殺す。」
傷ついた男は、ボロボロであった。カインに近づけば殴られ殺させることが分かっている為に逃げる事にしたのだ。
だがそう甘くなかった。上空からレッドが高速でその男目掛けて急降下していたのである。
グサッ。
レッドの爪で切り裂かれた死骸があった。
「カイン大丈夫うーー。」
「レッド、お前臭くないのか。おぇーーー。」
レッドは自分の鼻を指さしていた。そこには鼻栓があった。




