605話 暴君予定
アレクはオリオンの遺跡の領主である。領主であるならばその責任を果たさなければならない。
一人、いやアレクを見張るように配置された騎士たちもいるが、一人書類を読みサインをする姿は10代とは思えないほど疲れ切っている様子である。
「アレク様、次の書類が届きました。」
「マジか、もう俺は出来ない。このまま俺は机の前で死にそうだ。」
グダグダと弱音を吐くアレク。それを無視する騎士たち、もうこの光景は毎日のお決まりとなっていた。
「アレク様、もう宜しいですか。」
「少しは付き合えよ。なんか虚しくなっていくぞ。」
「冗談言うなら、書類に目を通してください。」
「嗚呼、分かった分かった。えーっと、んん、これなんだ。」
「それはオリオン(山の迷宮)から届いた物です。」
それは山の迷宮からの通知であった。今オリオンでは山の迷宮(領主ハロルド)、元SEオリオンの地(領主ルドルフ)、オリオンの遺跡(領主アレク)が正式なオリオンの領地となっている。
だがダーイア王国ではレオンが執政として内政すべてを仕切っている。元ダーイア王国のアームストロング領も中途半端な扱いとなっている。そこでオリオン王国を建国する事が正式に決まったのである。
ハロルドとルドルフの話し合いはかなり難航した。今ある領地だけを国土として建国すると主張するハロルドと山の迷宮は別として他は地続きとしてすべてを領地とするルドルフが激しく激論を交わしたのだ。
結局はルドルフの案に落ち着いたが、山の迷宮だけは切り離すこととなった。
それはダーイア王国を丸呑みしてオリオン王国を建国すると言う事であった。
「これ拙くないか。」
「私たちには意見を言う資格がありません。」
「・・・・・」
アレクは急ぎルドルフの元へ行こうとする。
「アレク様、何処へお出かけですか。」
「ほらこれ拙いだろう。ルドルフ兄に確認しないとな。」
「それは分かりますが、この書類はどうしますか。」
そこには山もりの書類が置かれている。
にやりとするアレク、悪寒が走る騎士。
「おっほん。騎士ゲールよ、臨時領主代理に任命する。領主命令だ。」
「・・・・・・」
「おっ領主命令は絶対だ。オリオンの法律を忘れた訳ではないだろうな。」
「いえ知っておりますが、あまりにも無謀ではないでしょうか。」
「俺は知っているぞゲールお前がいつか領主となり、幼馴染のアンと結婚の約束をしている事をな。」
「なっ何故その事を知っているのですか。」
ゲールは周りの騎士たちを見回す。数人の騎士が目を逸らしている。
「いい勉強になると思うぞ、オリオンは今領地を広げている。此処に居る騎士や山の迷宮にいる内政官たち、皆未来の領主候補だ。ゲールお前はそこで頭一つ抜け出した形だな。幼馴染のアンちゃんか、もうすぐここに来るんだろう。」ニヤニヤ
アレクだけではなく騎士たちもニヤニヤしている。
「このオリオンの遺跡も広がり近隣に村も造らなければいけないな。特に川(運河)に港のある村欲しくないか。」
「・・・・欲しいです。輸送が楽になります。」
「そうだろう、そうだろう。臨時領主代理兼開発部長として港の建設を命ずる。そして開発後は村長兼領主兼騎士として職務に励んでもらいたい。」
そこで騎士たちから大きな拍手が、パチパチパチパチパチ。「おめでとう、おめでとう。」
照れるゲールであった。だがこれがアレクの罠だとはこの時のゲールは知らなかった。
アレクはこの臨時領主代理の任を解く事をしなかったのだ。港に村ができ、人が集まり街に変わり騎士爵となったゲールはオリオンの遺跡の領主代理は変わる事は無かった。さすがに臨時だけはすぐに取ったアレクであった。
「ありがとうございます。アンの為にそこまでお考えいただきありがとうございます。」
「いいよいいよ大事な部下の為だ。それに給料も上がるしな。」
騙されているとも知らないゲールはアレクに感謝していた、だが一月後には怒りと虚しさでアレク捜索隊を編成していた。
「では行ってくる。ゲール未来の領主だな。民の為に良いと思う事を好きなようにやれ。」
「はっ、このゲール、アレク様の領地をより豊かにしてみせます。」
アレクは堂々とガレオン号に乗り込みルドルフ領に向かった。
ルドルフ領
「ルドルフ兄、父上からの通達を拝見しましたが、ダーイアは納得しているのですか。」
「ダーイア王国は了解をとっている。西の盟主はオリオンには入らない。」
「ダーイア王国の王の扱いはどうなるのですか。」
「嗚呼、公爵となってもらう。ダーイア王都(中央)を領地としてな。アームストロングには伯爵位だなそれに従っていた2領主はアームストロングの傘下にする。」
「あの裏切り者たちですね。こちらが気づいていないと思っていたんですかね。」
「まぁアームストロングに全て任せるようにしたんだ。」
「そうですか、それよりこの領地と俺の領地の間の土地は他の領主もいるでしょう。大丈夫なんですか。」
「今調整中だ。幸いオリオンは交易を盛んにやっているからな。間の領主や村もかなり前向きだ。」
「まとまるんですか、いきなり大きな国となっても大変なだけですよ。」
「マリアとイリアがいるから大丈夫だろう。」
ルドルフとアレクはかなり突っ込んだ話をした。アレクの考えでは又争いの種を撒く事になると考えていたがルドルフは違っていた。オリオンで飲み込み従わせると言い切った。
「揉めますよ。」
「最初は揉めるのは分かっている。だが交易で利益を出し、領地が栄えればその不満も少なくなるだろう。」
「理屈ではそうですが、心情的には面白くないでしょうね。」
「アレクが心情的というとはな。」
アレクはルドルフの考えが分からない訳ではない。だが無理やり従わせることは歪みを発生させるのだ。
「まぁ任せとけ。俺が調整する。」
「分かりました。ルドルフ兄が王ですから従います。」
アレクはここでルドルフと揉めるわけにはいかない、何しろオリオン王国の王になるのはルドルフなのだ。
「俺はマリア姉とイリア姉に会ってきます。」
「おう久しぶりだろう。ゆっくりして行けよ。」
「マリア姉、イリア姉お久しぶりです。」
「アレク、久しぶりね。ルドルフの所に行ってきたの。」
「はい、今さっき行きました。」
「そう、建国の事ね。」
「かなり無理があるように思えますね。」
「無理ね。」
「やっぱりですか。でもルドルフ兄には見えていないんでしょうね。」
「そうね一度失敗させようと思っているわ。」
「失敗ですか。」
「それはね・・・・・・・・・」




