598話 レッド対精鋭騎士たち
ダーイア王国の城内では、実権の無い王が玉座に座り家臣たちを見つめている。
今迄王が玉座に座ったのは即位式のみであった。この謁見の間も即位式の時に入って以来である。
王は一段高い場所にある豪華な玉座から見下ろす景色にかなりの違和感を感じていた。
ダーイア王国の家臣と言っても今まで王を王とも思っていない連中である。
今回オリオンのカインとドラゴンが城に侵入したことで少しだけ王に権限を取り戻すことができていたのである。
「でお前たちはオリオンとの講和に反対という事だな。」
「当たり前です。陛下。我がダーイア王国に敗北の二文字はありません。」
「そうかナント大臣、他の者達も同じ考えか。」
「「「「「はい陛下」」」」」
「・・・そうか、ならば仕方ない。ナント軍務大臣。ダーイア王国の軍を纏める大臣がオリオンに勝てると言うのならば、言い出した己が司令官を勤め、講和に反対した者達を従えて戦え。」
「へ陛下、私は軍務大臣ですぞ、現場に出る事等しません。戦争は戦略が大事なのです全体を見る者がいなければ戦には勝てません。」
自信満々に訴える軍務大臣である。その子飼い達も後に続いて戯言を言っている。
「では大臣、あのドラゴンに勝つにはどうすればよいのだ。」
「・・・・・・へ兵で囲い袋叩きにします。」
「飛んだらどうするのだ。」
「・・・・・・・・」
「軍務大臣、余はなオリオンのドラゴンと試合をしてみてはと提案したのだ。大臣のいつも自慢しているダーイア最強の騎士たちと戦ってドラゴンを打ち取ってみてはどうかな。試合となればオリオンも嫌とはいえんだろう。そこにつけ入りドラゴンを始末してはどうか。」
この王の提案は軍務大臣にとって美味しい話に見てた。
「おーーーさすが陛下ですな。我が精鋭であればあんなドラゴン一匹どうにでもなりますしょうぞ。」
「そうかオリオンの使者殿に伝えよう。試合は明日だ。」
王は玉座を降りて奥に去っていった。
「軍務大臣、ドラゴンに勝てるのか。」
「これは外務大臣、勝てるさ。地上で戦うのであればドラゴンとて大きな魔物なだけだ。問題ない。」
軍務大臣は言い切った。何の根拠もなしにこの自信はある意味凄い才能であった。その事でこの場にいる大臣や官僚たちは少し自信を取り戻していた。
「そうだな大きなトカゲだな。」
「嗚呼そうだな、あんな者ダーイアの敵ではないな。」
妙な自信がみなぎり始めていた。
軍務大臣を始め、各派閥の者達はドラゴンに勝つという栄光に負けるリスクを考える者はいなくなっていた。
この話が王都中に広がり腕に自信のある者達がこぞって名乗りを上げてきたのだ。軍務大臣も笑いが止まらなかった。試合に出るために軍務大臣に皆お願いに来るのだ。金を受け取り利権を条件に色々な物が大臣の懐に集まってきていた。
ドラゴンに勝てる前提で話が進んでいったのであった。
自称精鋭騎士(各派閥の兵含む)たち総勢1100にもなってしまった。軍務大臣は全く問題は無いと言い切っていた。
だが当初競技場での試合を予定していたがドラゴンと1100人の試合など入れる競技場などないのだ。そのために軍務大臣は王都郊外の平原での試合とすることを勝手に決めていた。
軍務大臣は唯一の勝機をこの時逃していたのであった。1100人もの人とドラゴンの試合。狭い競技場であればドラゴンを囲み人で埋まるのだ。試合である為にレッドは観客に被害を与える事は出来ない。言葉を理解でき喋る事が出来るレッドは観客を巻き込む攻撃は出来ないのだ。そこに唯一の勝機があったのだ。
1100人が一斉にドラゴンに剣を振り、槍を投げ、魔法を放つ攻撃であれば殺せないまでも傷を負わせ試合に勝利する事が出来たのだ。
だが平原での戦いであれば最初から囲まれることが無いのだ。ブレスも撃つ事が出来る負ける要素が一つの無いのである。
いよいよ試合となった平原では遠くに多くの観客がいる。王都民の殆んどが試合を見るために平原まで来ていたのであった。このために試合の開始が昼過ぎとなっていた。
精鋭騎士1100人から100人増え。1200人となっていた。対するドラゴンはカインと楽しそうに話している。
「ねーねーカイン、この殺しあい終わったら。肉食べに行こうよ。」
「レッド、観客を巻き込むなよ。」
「分かっているよ。観客はお客さんだもんね。」
「嗚呼そうだ、騎士はいくら殺してもいいが観客や王都民は絶対に殺しちゃだめだ。向かって来る者は敵だからな。」
「そうだね、じゃぁ行ってくるよ。」
「おー、少しは手加減してやれよ。見せ場がないと観客もつまらないからな。」
騎士たちはこの1200人という人数に酔っていた。勝てる、勝つ。
これだけの人数であればたとえドラゴンであろうと負ける事はないと思えていたからである。
何処からこの自信が湧いてくるのか不思議だが1200人の全員がそう思っているのだ。
根拠のない自信は時に思いがけない力を発揮する事があるのだ。
ドラゴンと向かい合う。1200人に恐怖の色は全くない。
勝つと思っている1200人は試合開始と同時に一斉に攻撃したのだ。レッドは見せ場を作る為に最初攻撃を受けるつもりでいた事もあり。1200人の一定攻撃を許したのであった。
これが意外と強烈な攻撃であった。遠距離からの攻撃となる為に、剣ではなく魔法を放っての攻撃となった。媒体を使い最大限の攻撃魔法である。各家の家宝を持ち出し古代文明の遺品での攻撃である。
火、水、風、土と基本魔法4種類が複合魔法と偶然になり倍以上の威力でレッドに襲い掛かったのだ。
対するレッドは最初から防御の姿勢をとっていたためにかなり余裕で対応する事が出来た。それでもレッドの思ったより強烈な魔法であった。
ドコーーーーンとレッドに直撃した複合魔法は、観客や大臣たちを歓喜させたのだ。
「「「「おおおおおおおおお」」」」
「勝ったな。ふっドラゴンなど我が精鋭であれば一撃だ。ガハハハハ。」
爆煙でまだ姿を確認できないが軍務大臣には確信があった。あんな攻撃で生きているはずなないと。
だが爆炎が晴れていくとドラゴンの姿が現われていく。大臣たちや騎士たちはドラゴンが横たわる姿を想像していたのであろう。だが平然と立っているドラゴンを見た時に騎士たちに恐怖が襲ってきたのだ。
今迄で最高の魔法を放った。それも1200人同時である為にその威力は2倍にも3倍にもなった最高の魔法であった。
それが効かなかったのだ。
多少レッドに煤や埃がついているが目立った傷はついていない。
「んーーー少しは出来るみたいだね。んじゃ次は僕から行くよーーー。」
レッドは息を吸い込みブレスを放った。




