597話 ダーイア王
ダーイア王国王都は今日も平和な朝を迎え、王都民たちが活気に溢れていた。国内で争いはあるがこの王都へ飛び火する事はないと思っているのだ。今まで王都が戦場となった事がないために王都民たちは対岸の火事の様に思っているのだ。
「おーおはよう。今日も稼がなくちゃな。」
「あー稼いで嫁さんに給料持って行くだけだけどな。」
「それを言うなよ、やる気がなくなるよ。」
「アハハハ、そうだな。」
そんな軽口を叩きながら大通りを歩いていると、王都中に危険を知らせる鐘が鳴り響く。
カンカンカンカンカンカンカン。
「なな何だ、何が起こった。」
「どうする家に戻るか。」
「そうだな。」
王都上空にレッドドラゴンが旋回していたのだ。
防壁の兵たちは上を見上げるしかできなかった。王都にはドラゴンを攻撃する兵器自体が無かったのだ。
「クソー、獲物でも探しているのか。」
「隊長、ドラゴンがこのまま去ってくれれば王都には被害がありませんよ。」
「そんなわけないだろう、態々ここを旋回しているんだぞ。」
「・・・・・・・」
上空のカインは考えていた。王都の門から入るか、それともそのまま城へ突っ込むか。
「んーーどうしようかな。」
「カインどうするの。このまま城へ行く。その方が早いよ。」
「そうだなこの間みたいに待たされるのも嫌だしな。」
「だねー、じゃぁ城へ行くねー。」
城内ではまだ外の騒ぎが伝わってはいなかった。
巨大な王都である事も影響しているが、王に実権がないために誰も王に報告していなかったのだ。
王はいつもと変わらない朝食をとりながらくつろいでいた。
そこに地震のような衝撃が城内に響き渡る。
「なななんだ、どうした。」
誰も答えない。王の周りには誰もいなかったのだ。
王は少し不思議に思う。いつもは二人王のそばにいる者達がいないのだ。
「誰か。」
誰も返事もない。そこへ王のもとへ駆けこんでくる者がいた。
「陛下、大変です。ドラゴンが城へ飛んできました。」
「はっ、何を言っているドラゴンなど物語の生き物だろう。」
「いいえ、本物です。今この城の中庭にいます。」
「見に行くぞ。」
「えっ。逃げるのではないのですか。」
「馬鹿者、そんな貴重な物中々見れんぞ。着いてこい。」
中庭では建物の陰から様子をうかがう兵士や官僚たちで溢れていた。
「おーーい、そこに隠れている者達丸見えだぞ。」
「「「「・・・・・・」」」」
「レッド、人のいないところにブレスを撃て。」
「了解カイン。んーーあっちかな。」
ドコーーーーン。
レッドのブレスで城の塔が崩壊した。
「いいか、この攻撃を喰らいたくなければ王を連れて来い。それと軍の責任者もな。」
バタバタと周りが騒がしくなっていく。カインの言葉で周りが動き出したのであった。
そこへ王が現われたのだ。
「へ陛下。」
「陛下。」
「陛下。」
「おーーあなたがダーイア王国の王か。」
ドラゴンとカインが居座っている中庭に堂々と一人で立つダーイア王の姿があった。
「私がこの国の王だが、何か用でもあるのかな。」
緊張に包まれる中にあって冷静にそして普通に質問をしてきた。
「あー、今このダーイア王国とオリオンは戦争中なんだ。そこで戦争を終わらすために王城へときた訳だ。」
「そうか、今戦争をしているのか。」
「まさかそれも知らなかったのか。」
「私には何も、誰も教えないからな。」
「・・・そうか。レッドここで待っていてくれ。俺はこの王と話をしてくるよ。」
「ならば貴賓室があるそこで話そうか。」
唖然とする官僚たちを置いて二人は歩いて行ってしまった。
我にかえった官僚たちは王たちの後を追う者、上司に知らせる者と様々な動きをしていた。
貴賓室
「改めてダーイア王国の王ダーイアだ。」
「カイン・オリオンだ。」
二人はなぜか笑っていた。
「ドラゴン凄いな。」
「分かるか、俺の相棒は凄いぞ。」
「フフ、私も空を飛んでみたいな。」
「そうかなら今度乗せてやるよ。」
「いいのか。」
「あーいいぞ、それより本当に王なのか誰も側付きいないのか。」
「・・まぁダーイア王国は過去に色々あったのだ。それで王は権威を失ったのだ。まぁ私の代ではどうにもできんな。戦争を止める事もやめる事も何も出来ない。」
「あーそんな話は聞いているんだが、あまり信じていなかったんだ。仮にも王であるなら権限が何もないなんて信じられないだろう。」
「普通はそうだな。ダーイア王国の血脈を繋ぐ事だけが仕事だがな。」
「一応聞くがオリオンと戦争する気あるか。」
「ないな。あのドラゴンを見ただけでもわかる。ダーイアでは勝てんだろうな。」
「それならダーイア王として条件付き降伏を結んでくれ。」
「私が文章を出しても効果はないぞ。」
「嗚呼、今はないだろうがな。オリオンが正式なものにする。そして国土は小さくなるがきちんと実権を持ったダーイア王国の王にするよ。」
カインはこのダーイア王を気に入ってしまった。カインの仕事は本来王都を降伏させることであった。条件付き降伏などカインはもとよりルドルフ達の頭に全くない事であったのだ。
でもカインは何とかするつもりになっていた。
この王とは、なぜか気が合うのだ。
「私は別に王でなくて構わんよ。小さな畑でも耕しながら暮らしていきたいなー。」
「まぁそれもいいかもなだけどダーイア王国は今内戦とオリオンと戦争中だ。中々難しいと思うぞ。」
「責任をとって処刑なら私と4盟主かな。」
「何かこの国複雑そうだな。」
「まあな、絡み合ってもうどうなっているのかもわからない状態だろうな。」
そこへ軍の将軍がきた。
「失礼します。」
「陛下、オリオンの使者が来ているとお聞きしました。」ギロリ
カインを鋭くない目で睨む。
「カイン・オリオンだ。宜しくな。」
「ききさま立場が分かっているのかここは我が国の城だぞ。」
「分かっているさ、だから来たんだろう。」
将軍はこの部屋に来る前にドラゴンを見て来たのである。あれには勝てないと判断してこの部屋にきたのだが、あまりにも王とカインが仲がよさそうに喋っている姿を見て不機嫌になってしまっていた。
今迄王は何も権限が無かったのだ。
各国との外交も王が表に出る事も無かったのだ。ところが今回は王が表に最初から出てしまった。
これはダーイア王国の家臣たちにしてみればあってはならない事だあった。
「ところでお前はダーイアの役職は何だ。」
カインの言葉で怒りに震えるこの人物はダーイア王国軍務大臣であった。
「ワシに事をしらんのか、何処の田舎者だ。ワシは南の盟主であるナント様の姉上の子だぞ。」
「要はそのナントの甥っ子という事だな。」
「ナントだと。様を付けろこの田舎者が。」
怒りに震えるこのナント大臣、普段からあまり仕事もしていない為に次の言葉も出てこないのだ。
「大臣、ダーイア王国軍は待機だ。」
そこに王の言葉が発せられたのだ。
「へ陛下、待機ですと今この大事な時に待機など聞けませんな。」
ボコッ。
カインは大臣を殴り飛ばしていた。
大臣のお付きの者達は部屋の外からこの経緯を見ていた。
「おいそこの副官か?こいつを連れていけ。そして王の言葉を伝えるようにな。待機だとな。」
カインは王に変わり副官であろう者を睨みつけていた。
「ははい。」
カインと王はそれから夕刻まで話し合っていた。
そしてダーイア王国から王都民へ向けて御触れが出ていた。オリオンとの講和(条件付き降伏)を示すものであった。




