59話
密会場所
「初めまして、アレクス・オリオン、ローエム王国、オリオン公爵家が4男で、自身も準男爵に叙されております。先の大戦では、空軍を率いておりました。」
「・・・・初めまして、グラムット帝国、デオドール・マルティス男爵だ。」
「会談に同意していただき、ありがとうございます。」
「いや、会うだけでも価値はありそうだったのでな。オリオン準男爵はまだ成人前かな。」
「まだ成人はしておりませんが、貴族家の当主ですので、成人の扱いになります。」
「いや、これは失礼をした。申し訳ない。」
「いえいえ、お気になさらずに、みなさんそう思いますから。早速ですが、話に入らせていただきます。回りくどい言い方はしません。マルティス男爵領の領民の暮らしを豊かにしませんか。」
「・・・えっ、」
マルティスはつい出てしまった。意味が分からなかったのだ。マルティスはグラムット帝国を裏切れと言ってくると思っていたのだ。正解だが。
「今、領地は、いやその周辺もですね。法が無くなり、無法地帯となっています。領民も不安でしょう。」
「確かに治安が悪くなっているが、何とかなっているよ。」
「そうでしょう、そうでしょう。」「マルティス男爵の家臣だけで治安の回復ができますか。グラムット帝国の兵、いえ監視はもういませんよ。」
「ええぃ、もういい、はっきり言え。」
「では、・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マルティス男爵の利益は、こうなりますね。後は魔法の解放も約束しましょう。」
「本当に、魔法が使えるようになるのか。」
「なりますよ、先の戦をみたでしょう。オリオン家は全員が魔法使いですよ。」
マルティス男爵は、グラムット帝国に、これなら対抗出来ると思ってしまった。長年、良いように使われ、見捨てられた。もう疲れ切っていたのかもしれない。
利益、繁栄の未来を語られ、魅了されてしまったのだ。
まるで、マリア、イリアの魔法のように。
それからのマルティス男爵との話は、スムーズに進んでいく。建国の話し、属国になり同盟を結び、経済も活性化させていく事が盟約され、後日、改めて盟約書を交わすのだ。
アレクとマルティス男爵は、後日の会談を約束して終了した。
別の日
「今日の、密談はバッハ・ウッドリー男爵だね。」
「そうです。豪快な人みたいですよ。」
「暑苦しい人じゃなきゃいいな。」
「多分、当たってますよ。」
「・・・・」
密談場所に着き相手の到着を待つ。
バッハ・ウッドリー男爵が到着した。
「初めまして、オリオン公爵家、4男・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「初めて、お目にかかる。バッハ・ウッドリー男爵である。ミルトン王国との戦で、オリオン準男爵の戦いも見ておりました。」
「そうですか、オリオン家に勝てると思いましたか。」
「無理でしょう。グラムット帝国の全兵力で挑んでやっと互角に戦えるでしょうが、現実的には難しいでしょう。何十万の兵を一か所に集めるなど。」
「あなたと私は今は敵です。あなたと味方になりたいと思い、この会談に臨みました。」
「ストレートな言い方ですな。」
「回りくどくいっても同じですから。」
「私は、ワシは、獣王国の侯爵をしておったのだ。獣人を兵として使うのに、ワシが利用されているわけだ。
ワシも、一人でも獣人を助けたくてな。グラムット帝国に仕えているのだ。わかってくれ裏切りは出来ん。」
「そうですか、では諦めましょう。」
「いいのか。」
「しょうがないですよ、生き方はそれぞれですから。」
「オリオン領にも、獣人は沢山います。今は楽しく暮らしていますよ。」
「そうなのか、知らんぞそんなこと。」
「そりゃ、グラムット帝国の人は誰も知らないでしょう。グラムット帝国の迫害から逃げてきた人たちですから。」
「オリオン領には、獣人の方たちが数万人、住んでいますよ。農業したり、狩りをしたり、商売をしている人もいますよ。オリオン領は豊かですから。」「ただ、みんなけんかっ早い。」
「ハハハハハッ。そうかそうか。けんかっ早いか。」
「バッハさんなら、獣人をまとめられるのではないでしょうか。」「グラムット帝国から獣人を移動させていくのですよ。豊かに暮らせるように、そのためならオリオン家は協力を惜しみません。うちには飛行船がありますから。」
バッハは、素直だ。獣人が救えるなら何でもするのだ。この男も脳筋なのだ。オリオン領の脳筋と同じなのだ。
「グラムット帝国から、獣人を出来るだけ移動させる事が出来るのなら、何でもやるぞ。」
それからは、バッハが帝国からの獣人の移動の話にすぐ戻し、他の話が進まなかった。アレクが今日一番の苦労した時間だった。脳筋はつらいよ。なぁ寅さん。
何とか、建国しローエム王国の属国となる事。魔法を解放する事。さすがにこの話は、バッハも興味深く聞いてきていた。他にも建国をして、グラムット帝国から独立をさせるなど、やっとの事で話を終えた。
「獣人の移動は、空飛ぶ船で移動できるな。」
「帝国中に住んでいる獣人全員は一度には無理ですよ。」
「そのくらい、ワシだってわかるわい。」
「まず、獣人に知らせて、秘密裏に目立たない場所に移動させてから、飛行船で輸送ですね。帝国に飛行船で乗り込めませんから。」
「わかっとるが、時間が掛かる。どうするかのうー。」
「それでは、グラムット帝国と即、敵対してしまいますが、一度船で移動できると獣人に宣伝しますか。そうすれば、獣人たちは自分の力でこちらに来る人も出てくるでしょう。何しろ身体能力が違いますからね。」
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「おぉぉぉ、そうしてくれるか、ありがたい、ありがたい。」
「最初の1回は、女、子供を多くしましょう。バッハさんが獣人たちに知らせに走ってください。いいですか場所と、日時を、き・め・て・か・ら・ですからね。」
「わかっとる。わかっとる。」
こうして、建国の話しはアレクが、調整役となり連絡と準備を行う手筈となった。
獣人の件は、改めて話し合う事となり。会談は終了した。
アレクは、獣人の移動作戦に若干の不安を抱えながら、馬車に揺られて帰路に着いたのだった。
数日後
バッハからの連絡があり、会談に出向いていた。
アレクの心配をよそに、バッハは、慎重に事を運んでいた。さすがに暴走はしなかった。
色々と、グラムット帝国の地図を眺めて、慎重に計画を立てていく。
大型貨物船3隻の移動作戦となる。詰め込めば1万人は運べそうな輸送能力はあると説明をして、3か所に集めるように作戦が変更になった。
まだ、獣人への連絡がうまくいっていなく、決行日が決まらないでいた。
その間にも、建国の準備に邁進しているアレクの姿があった。働き者になったアレク。