585話 ダメーズ領
今、ダメーズ領ではオリオンの遺跡の噂でもちきりであった。
ある者は平民の楽園、ある者は魔王の城、そして領主は怒り狂っていた。
「何だこの金は、傭兵を雇った。食料を調達だとー。くそーあの代官め、代官の財産をすべて没収しろ。」
「はっ、直ちに手配いたします。」
ダメーズ領の資金を代官は横領していたのだ。代官が戦死したことで横領がばれてしまったのであった。
他にも横領をしている家臣たちもいるのだがこれ幸いとすべてを代官に押し付けてしまったのだ。
家臣一人一人の横領金額は少ないのだが塵も積もれば山となる。ダメーズ領の税収の1割が横領されていたのであった。
これにはダメーズ領主が怒っても仕方がない。まぁ見抜けなかったダメーズ領主が間抜けともいえるのだが、死んだ代官が悪いとなっている。
「くそーー、何でうちの領地だけ問題が起こるのだ。」
「・・・・・・・」
「おい、お前は我がダメーズ領の管理責任者だろう。」
「はっ、申し訳ございません。」
近くにいる騎士は領主に頭を下げている。
この騎士はダメーズの怒りが収まる迄耐えるしかないのであった。
怒鳴り、罵声、嫌みをねちねちと小一時間ほど家臣たちをいびっているとやっと心が晴れてきたのか、メイドを呼び、お茶とお菓子タイムへと移っていた。
「フーーー、やっと領主の小言が終わったな。」
「お疲れさん。大変だったな。」
「まぁいつもの事だな。これも給料分だ。」
「しかし如何するのんだ。もしオリオンの遺跡に攻めると言ったら。」
「・・・・そうなればダメーズ領は終わりだろう。あそこは触れたらいけない場所だ。」
「そうだなエルツーとエストの話じゃかなりやばい場所って言っていたな。」
「いいや違うんだ。かなりいい場所のようだ。」
「ん、ヤバイ場所って聞いたぞ。」
「あっそれな最近はやっているんだ。美味いとかいいなとかをヤバイって言葉に置き換えているんだ。」
「何だそれ、反対の意味じゃないか。」
「それでな、オリオンの噂が二つに分かれているんだ。やばい場所といい(平和で暮らしやすい)場所とで真っ二つなんだ。」
「マジか。」
「それで領主はどちらの噂を信じているんだ。」
「そりゃヤバイ場所を信じているぞ、代官が戦死したんだからな、それに横領の金額も信用する要素になっているんだ。代官の横領金額と他の横領金額が合計されて今回の戦費となっているからな。兵で言ったら3000の兵を雇ったようになっているんぞ。」
「3000の兵だと。あの内政官たちやり放題だな。」
「あぁ、ここも長くないかもしれんな。」
ダメーズ領は本来であればかなり豊かな土地である。人も多く交易も活発である。領主が有能であれば間違いなく発展している場所であった。
それが普通の場所として認識されているには理由があるのだ。先ずダメーズ領主が内政や領軍に関して全く興味を持っていないのだ。家臣たちに丸投げ状態である。
その為に内政官たちは横領のやり放題であった。領主に報告は紙一枚であった。合計税収の収支表だけである。
領軍、衛兵などにも全く興味がないのだ。そのために衛兵たちも地回りや商人などから賄賂を受け取りやりたい放題であった。それでなぜダメーズ領が破綻しないのか。領地が豊かである事がダメーズ領を支えていたのである。
平民や農家の者達も豊かな地である為に離れたくないのであった。税は高く、暮らしにくいが生きるためである。多少の不便は仕方がないと思っているのであった。
「ダメーズ閣下。」
お茶とお菓子を楽しんでいるダメーズに声を掛けた者はダメーズ家の家宰である。この家宰は内政官のトップでもあるのだ。
「どうした。」
「御くつろぎの所申し訳ございません。閣下、そろそろバード領のパーティーのお時間に間に合いません。」
「おーー、そうかまた隣の領地か女は用意しているのだろうな。」
「もちろんでございます。閣下は外でないと遊べませんから。最高級の者をご用意しております。」
「ガハハハ、流石我が領地最高の者だな。」
この家宰はダメーズ領主を操っていた。ダメーズ領主に領内では優れた領主を演出するためと称して領地外で遊ばせているのだ。そのためにダメーズはいつもどこかに出かけている状態となっていた。
もしダメーズが領地にいつもいたならばこれほど酷い領地にはなっていなかったのかもしれない。
ダメーズは3週間(実は往復1週間)の外交に出かけていったのであった。
「フーーッ、これで一安心ですね。」
「家宰閣下、お疲れ様です。」
「よいよい、代官が都合よく死んでくれたのだ。これくらい問題ない。」
「流石、閣下です。見事な采配でございます。」
「代官にはすべての罪を背負ってもらったのだ。後始末は完璧にやって置くようにな。」
「はっお任せください。」
「それよりもオリオンの遺跡に使者を出すのだ。」
「使者ですか。」
「そうだ和平の使者を出すのだ。」
「和平を結ぶのですか。」
「そうだ、あそこは不毛の地から豊な農地となっているようだ。農作物を安く買い取ってやらねばな。」
「さようでございますな。安く買い取ってやらなければなりません。それでいかほどにいておきますか。」
「そうよなダメーズ領に2割、ワシに2割だな。」
「はっ、了解いたしました。」
家臣は早速部下に指示を出していく。
「おい、オリオンの遺跡の村へ使者を出しとけ。税は5公5民だ。いいか必ず納得させろよいな。」
「はっ。」
又その部下は部下の部下に指示を出す。
「オリオンの遺跡の村へ行け。税は6公4民だ。」
「はっ。」
ダメーズ領からオリオン領へ使者が着いたときに
最初の指示であった和平の事は無くなっていた。税を納めろと言う事だけが残っていたのであるそれも8公2民ととんでもない税であった。
もちろんオリオン領では話も聞いてもらえずに揉んで一晩騒ぎ、その使者は両手を負傷して帰る事となった。
使者は門をたたき両手を負傷したのだが、帰った使者はオリオンの者と交戦したと嘘を付いたのだ。
話もできずに帰る事は使者としての役目を果たせなかったことを意味するのである。そのような失態をまともに報告する者はこのダメーズ領にはいないのである。みんな自分の都合のいいように報告するのはこのダメーズ領の伝統であった。
こうしてダメーズ領では上に行くまでに報告が書き換えられていくのである。家宰迄行く間に家宰の都合の良い報告となっているのであった。
「おーー、オリオンの村はダメーズ領に従うのか。よしよし。」
「はっ、これも家宰閣下の御威光であります。」
「そうだろう、そうだろう。」
このダメーズ領が豊かな土地でなかったらとっくにこの地は無くなっていたであろう。又民への負担が増えたのであった。だが幸いにも民への負担は全く発生しなかった。それは人口把握ができなかったためにダメーズ領では無かったことになってしまったのであった。




