583話 代官軍夜襲計画
オリオンの遺跡(村)に向かって500の軍が進軍している。
この軍に司令官である代官は戦いに勝った後の事を妄想していた。
(オリオンを我が領地にしてもいいな、あっそれとも独立できるかもな。フフッ。これからは私の時代だな。あの不毛の地が耕作地となればガッポガッポで儲かるな。アハハハハ。)
妄想を膨らませていると馬車の外で 「代官様、今日はこの場で野営いたします。」
「なぜだ、まだ日は高いではないか。」
「代官様、この地には川があります、この先では水の確保が難しいのです。」
「・・・・・仕方ないな。だが明日は早朝に出るぞ。」
「はっ。」
代官に意見具申を行った騎士は大きなため息を吐いていた「ハーーー」この騎士なんの間違えか今回の軍に編入されてしまったのだ。ダメーズ領の騎士は領主に忠誠を誓っている。代官であろうが従う義務はないのだが、今回は少し特殊であった。領主が残した言葉である。代官に対してよきに計らえと残したのである。この言葉は拡大解釈が大いにできる言葉である。
領主として代官が失敗すれば処罰、成功すれば称賛する事の出来る都合の良い言葉であった。
領主の望む結果であれば途中経過は問わないのである。
そのために代官は持てる力をフルに使い軍を指揮できる騎士を組み入れたのだ。それがこの騎士である。
騎士は軍を指揮することが決まるとオリオン領へ行った騎士たちを集めて情報の収集を行った。
その結果、勝てないとの結論が出たのである。
要塞のような防壁、高度な魔法、そして噂のドラゴンである。
どう考えても500人程度で勝てる相手ではないのだ。
代官は何を考えて500程度の兵で要塞(村)を落とせると思っているのかが騎士には分からなかった。
まさか妄想の果ての考えなどとは誰も思わないだろう。
騎士は無駄に兵を失う事を恐れていた。それと後の責任を押し付けられるとまで考えていたのである。負ければその責任は司令官にある。一応代官が司令官であるが、代官が責任をとる事はないのだ。その下の者がすべての責任をとる事になるのである。
それがこの騎士である。騎士は必死に考えている。負けるにしても負け方である。
「司令官代理、話がある。」
「おーエルツーかどうした。」
「司令官代理、いやエスト。このまま戦えば負けるぞ。」
「・・・・分かっている。」
「どうするのだ。あの代官ではどうにもならんぞ。」
「エルツー、頼まれてくれるか。」
エストとエルツーは秘かにオリオン領と連絡を取る事にしたのだ。エルツーが使者となり現状をオリオン領に伝える。そしてその見返りとして兵の命の保証である。
「分かった結果は伝える事は出来ないがやってみる。」
「すまんなエルツー、戦闘が終わるまでオリオンの捕虜となっていてくれ必ず助ける。」
通常敵が情報を持ってくることはない。だが敵をだます罠を掛ける目的で情報を流すことも有るのだ。だが情報を信用してもらうために情報提供者がある一定の身分でありかつ自身の身を敵に預ける事で信用してもらうのである。
これは賭けである。オリオンがもし極悪非道な領主であれば全滅する危機である。
だが普通に戦っても負ける事は確実である。ならば敵の情けにすがるしかないのである。
この代官軍500の内訳は騎士が50人、傭兵100人が主力戦力である。他は村や町からの徴兵である。
実際の戦闘能力はないに等しいだろう。騎士はこの350人の無理やり連れてこられた者を助ける算段をしていたのである。
敵はエルツーに任せるしかない。後は身内である代官と傭兵たちである。
50人の騎士たちは仲間であためにほとんどの者は従ってくれるであろう。騎士たちで立場が一番上なのだ。
この傭兵たちがかなりの曲者なのだ。傭兵と言っても荒くれ者の集まりてある。
「要はオリオン次第だな。ハーーー。」
代官軍は早朝、進軍を開始した。
代官軍は昼過ぎにはオリオンの防壁が目視できる位置まで進軍することができていた。だがすぐに攻撃など出来るはずもないのだ。
「なぜすぐに攻撃しないのだ。私には時間が無いのだ。すぐに総攻撃をしろ。」
「代官様、兵は移動で疲れてます。今攻撃しても全滅するだけです。一晩兵を休め明日攻撃しか出来ません。」
流石の代官も馬車に乗っているだけでも疲れていた。兵たちは歩いて移動しているのだから解らなくもないが、騎士に言われると納得できないのだ。
「フン、そんな弱腰では戦に勝てんぞ。」
「・・・・・・・」
「総攻撃だ、いいな。」
「無理です。ならば傭兵たちに夜襲を掛けさせては如何ですか。」
「夜襲か、相手の寝ているすきを突くのだな、いい案だ。」「代官様の策であります。」
「おーーーそうだったな、私の策であったな。アハハハハ。」
代官は上機嫌で傭兵部隊の長を呼んで夜襲攻撃の命令を出していた。
上機嫌の代官と夜襲での戦果(女とお宝)を好きにしてよいとの代官からの承諾を得た傭兵も上機嫌であった。
黙って聞いている騎士は不思議でならなかった。どうして失敗する事を考えないのかが、不思議でならなかったのだ。
「へへ、代官様。任せろよ。俺たちは闇に紛れて防壁を越えてお宝を奪って来るからな。」
「頼むぞ。そうすればもう戦いどころではないだろう。明日の朝にはオリオンは私の物になっているな。それまでは取った者の物でよいぞ。」
「おーーーーさすが太っ腹な代官様だな。」
傭兵の頭は二人いた。およそ50人が二グループである。二グループは別行動となった。
この時代の夜は暗い。大きな都市や町では一晩中かがり火を灯している場所もあるが村や辺境地では薪は貴重な資源である。無駄使いは出来ないのだ。
そのためにこんな辺境地域では夜は真っ暗なのが普通であった。
所がこのオリオン領は違っていた。防壁の向こうが明るいのだ。
夜襲を予定している傭兵たちは敵から丸見えになってしまうのだ。
「防壁までは何とか行けるだろう。そこで明かりが消えるのを待って中に侵入だな。」
「向こうの明かりは消えるのか。」
「当たり前だろう。一晩中火を焚いているはずがないだろう。いくらかかると思っているんだ。」
この傭兵は元会計係であった。薪の値段、人件費を考えると一晩中薪を燃やすことはないと結論を出したのだ。
元会計係は知らなかったのだ。オリオンの明かりが薪ではなく魔道具であることを知らなかったのである。
傭兵たちは防壁の手前で待機していた。中の明かりが消えるまで息をひそめているのである。
「くそーーまだか。」
「消えてから2時間は待たないとまずいな。」
「早く消えろーー。」
小声で話す傭兵たち、全く消えない防壁内の明かりであった。
その日の夜襲は無かった。
そして傭兵たちも陣へ戻ってくることもなかった。
翌朝、傭兵たちは防壁の陰で皆死んでいたのであった。




