576話 レッドの威厳
自称剣豪、自称英雄、自称ドラゴンキラーなどと酒場の英雄たちが10人。ブービ村の出入り門へ向かっている。その姿は、英雄や剣豪の姿には見えない。トボトボと項垂れてゆっくり歩いていく。
「なぁ、このまま逃げないか。」
「馬鹿言うな、家族がいるんだぞ。」
「でも殺されるよりいいだろう。」
「・・・・・・」
そうこうしているうちにドラゴンの姿が見えてきてしまった。ビクッ
「ドドドラゴン様。」
「己等は剣を持っているな。我と戦う気なのだな。」ギロリ
自称剣豪たちは、大きな間違いに気づいてしまった。ドラゴンの前に剣や槍を持ってきていたのだ。
普通、武器を持って現れれば戦う事を意味していた。
「ここここれは間違いです。」
一斉に武器を捨てる10人であった。
「ならばお前たちは何をしに来たのだ。」
「私たちはドラゴン様に傷を負わせたと嘘を付きました。そのおわお詫びにきました。」
「お前たちはそんな嘘を付いたのか、喰ろうてやろうかのー。」
完全にビビってしまった10人であった。
10人はその場で漏らして気絶する者、脱糞までしている者もいる。
「くさっ。己等は我を不快にするためにきたのか。ガオーーーー。」
遠くから様子を見ていた兵士たちは急ぎ村長の元へと向かった。
「村長様、お逃げください。このままではドラゴンに食われます。」
兵士の発言に怒る村長であった。「何故逃げる。ここはワシの村だぞ。ドラゴンごとき成敗してやる。」
怒る村長の前に下を濡らした10人が帰ってきたのだ。
怒り狂う村長であったが戻って来た10人を見て「何だお前たちはもう帰って来たのか、ん、くさっ。」
汚物で汚れた体で座り込む10人、床にしみこんでいく。「おおおおお前ら、出ていけーーー。糞まみれになるだろうーー。」
「くそーー、衛兵長を呼べ。」
だが来なかった。ブービ村の兵たちは逃げてしまっていた。
この村には脱糞男10人と他に20人の兵がいる。その内の12人はドラゴンが現われると即座に逃げていたのであった。
屋敷にいる4人と門番4人は逃げる事もできずにまだ職務に従事している。
レッドはもう2時間も待ちぼうけである。ドラゴンにとって2時間など一瞬であるが、何もせずに待っている事が苦痛になっていた。
レッドは村の中に入っていった。一歩歩くたびに大地が揺れる。ドスン、ドスン、ドスン
「ヒエーー。」
村人たちは興味津々で遠くから眺めていたがまさか村に入ってくるとは思っていなかったのである。喋るドラゴンであり、村の入り口で待っていたからである。
人の勝手な勘違いである。入口で待っているから入ってこないなどかなりのご都合主義な村人たちである。
この村は村長を始め村人たちはかなり裕福である。小作人達をこき使い働かせている為に村人はじめ皆かなり肥えた体形になっている。
レッドは村の一番大きな建物の中を覗いた。そこには村長が様子を伺うようにしていた。そしてドラゴンとばっちり目が合ったのだ。
村長はそのまま固まってしまった。ギロリとみられた為に動けば食い殺されると思って呼吸も止めて固まっている。
見つめ合う事30秒「ダーーーーーッ」と大きく息を吐く村長、息を止めていたが限界に来てしまったのだ。日頃の暴飲暴食で体力が極端に落ちているのであった。
「おい、そこのデブ出て来い。」
村長は自分事だとは思っていなかった。周りをキョロキョロ見るが自分以外は誰もいないのだ。
まさか自分が太っているとは思ってもいなかったのだ。
そうこの家には鏡が無かったのだ。
レッドは手の爪でちょこっと窓を引搔いた。すると窓と壁が崩れ落ちていった。
「ひぇーーーー。」
デブでも出入りできるほどの大穴が開き村長は四つん這いになりながら外に出てきたのである。
「ドドドラゴン様、お許しを、お許しを・・・」
呪文の様に許しを請う村長、困っているレッド。
「・・・お前がこの村の村長か。」
「はははいぃぃぃ。」
「太ってうま(まず)そうだな。んーーーでも油が多そうだな。もう少し柔らかそうな人間を300人用意しろ。そうすればお前は喰わないでやるぞ。どうする。」
「さささ300人ごご用意いたします。すすすすぐに集めます。」
レッドは村長に鼻を近づける。犬がクンクンするように臭いをかぐ。
「お前の匂いは覚えたぞ、何処に逃げてもお前の居場所はもう分かるぞ。30分以内に用意しろ。我はもう10時間も待っているのだぞ。」
レッドの待った時間は2時間ほどである。
村長は自分が喰われると思い焦っていた。必死にドラゴンから離れようとしている。何とか命令を出せる者達の見える場所まで行くと、すぐに命令を出したのだ。「小作人全員を集めろ。」
急ぎ集まった小作人は約250人であった。
「ドラゴン様、約300人でございます。」
「お前は馬鹿にしているのか。お前を入れても267人しかいないだろう。」
257人この数は小作人248人、残り9人は村長、兵士4人、屋敷の使用人4人も含めた数であった。
「おおおお待ちください。たた足りない数は明日ご用意いたします。今は248人でご勘弁をお願いします。」
「明日ならばもう100人追加だぞ。明後日になればもう100人だ。
出来るか村長。」
レッドはペロリと舌舐めをする。
完全にビビっている村長は無言でうなずいている。
「お前らは村を真っすぐに歩いていけ。よいなイケーー。」
レッドに命令された小作人達は3列になり村の門を出ていった。何故かみんな嬉しそうな顔をしていた。村人たちはその事に誰も気づかなかった。
生贄たちが村を出ていくと
「村長、明日この時間にまた来るぞ。200人用意しておけよ。」
レッドは数が数えられないようだ。200人に増えていた。レッドは気を使ったつもりなのだ。小作人を集めて助けるつもりなのだ。
「コクコク」
レッドは家を壊しながら飛び立っていった。
「「「「・・・・・・」」」」
「村長どうするんですか、村人たちを生贄にするんですか。」
詰め寄る村人たち。もしそんなことを言ったならば村長とて命はないだろう。
「隣村から小作人を集めろ。大至急だ。いい急げ。」
村長の言葉に村人たちは一斉に動き出す。普段働かない者達であっても自分の命がかかれば違うのだ。太った体でも多少の切れがある。
実際に小作人や奴隷など200人など集まるわけがないのである。隣村とて大事な小作人を無料で手放すはずもないのだ。
村人たちは隣村から戻って来た。誰一人連れて帰ってこなかったのだ。
「どういう事だ誰もいないではないか。」
「村長、隣村は協力を拒否しました。」
「こちらも同じでした。」
びっくりするブービ村の村長であった。まさか隣村の者達が協力を拒否するとは思ってもいなかったのだ。




