502話 トートにいる者達
トート領を含む、4領が新たにトリスタンの領地となっていた。そこで働く多くの人達は元シーマの軍人たちである。
「なー、俺達ここの方がいい生活していないか。」
「そうなんだよ、王都より飯は美味いし、強制労働だが、給金も出るしな。」
「そうそう、王都より多いよなー。」
「でも・・王都には家族がいるしなー。」
「「・・・・・」」
トートの町(元領都)は多くの労働者によって開発が進められていた。
そして近隣領も同時に開発がなされ、シーマ王国と民の生活水準が大きくひらいてきたのだ。
「レイン様、どうするんです。このままならトリスタンは破産しますよ。」
「ううううっ、如何しよう。」
レインは困っていた。金がないのだ。
スキル末っ子も今回は効果がない。連発すると段々と効果が薄くなるのである。
「レインーーーーー。」
そこに天の助けの様にカインが現われたのだ。
「カイン叔父ぃーーー、どうしたんですか。」
「いやなに父上がな、レインに金が無いから何とかしろとうるさくてな。」
カインはレインに金を渡した。
「えっ、こんなにいいんですか。」
「あーー、アレクと父上、そして俺かからだな。」
「カイン叔父、ありがとう。これで飢え死にしなくて済みます。」
何とも強運、いや末っ子スキルの効果であろう。
「ところでシーマとはまた戦になるんだよな。」
「多分なります。シーマ王国はこのまま黙ってはいないでしょう。」
「そうかそうか、なら俺がやる。」
「えっ。カイン叔父はドメス王国で戦争中ではないんですか。」
「あそこはもう終わった。アレクに聞いたら次はここだというしな。」
レインは困った。シーマ王国に進軍するつもりはないのだ。向こうから進軍してくるならば撃退はするがこちらからあえて攻める事はしたく無かったのだ。
「カイン叔父、こちらからは攻めませんよ。」
「フフフフ、大丈夫だ。向こうからくるとアレクが言っていたからな。」
レインは何と不吉な事を言う父親だと思った。それにカイン叔父までこの地にきているのだ、何も無い訳がないのだ。大戦闘か自然災害か、それとも謀反か何かが起こる事は絶対だろう。
「カイン叔父、せっかく作った町なので壊さないでくださいね。」
「レイン、心配するな。街は壊さん。俺が嘘ついた事あるかー。」
レインは思う。(あるじゃん。)
でもレインは大人だから言わない。出来る男なのだ。
「そう言えばシーマ王国の王都高位の貴族達を捕らえたんだろう。」
「あっそうです。でも扱いは皆と一緒ですよ。」
レインはシーマ王や貴族達と兵たちとの扱いを平等とした。
それは降伏する王と貴族に伝えた事である。降伏は認めるが労働者になる事、それ以外は処刑と伝えたのだ。
貴族の中で一人だけ納得できない者がおり、レインに待遇改善を言ったのだ。だが翌日その者は死体となっていた。だが誰にも見つかる事は無かった。レインが指示したわけだはないが、ウルが殺したのだ。
ウルは人の言葉を理解している。心優しいレインはあまり人を殺すことを良しとしていない。みんな仲良くがんばろー精神なのだ。
そこをフォローしているのがウル、ルウであり、グリであった。
「へ陛下、今日もいい汗をかきましたな。」
「そうだな、こんな生活の良いかもしれんな。」
「我らは何故戦争を仕掛けたんでしょうね。」
「・・・宰相だな。あやつがシーマが滅びると言っていた。」
「・・・・・・トリスタンは戦争する気など有りませんな。」
「そうだな・・・・・」
その頃シーマ王国では新たな王の即位が行われていた。
「おめでとうございます。これでシーマ王国はこれまで以上に栄えていくでしょう。」
「宰相、頼むぞ。」
新たな王である。シーマ王国代13代ルドルフ4世はまだ12歳の少年であった。シーマ王国宰相の孫である。シーマ王国には5人の子、12人の孫がいた。だが宰相の謀略によって多くの命が無くなっていた。
王族たちは殺されることを恐れ、ルドルフ4世を支持したのだ。
もう誰も前王の事等気にする者はいなかった。ただ一人を除いて。
シーマ王国の王城からある女と赤ん坊が秘かに抜け出していた。お付きの侍女二人と騎士4人である。
「姫様、このままトートへと向かいます。」
「そうね、此処にはいられないわ。」
前王の子と孫であった。
二週間後、トート領に姿を表した一台の馬車と騎士4人はレインと会談をしていた。
「レイン様、お初にお目にかかります。シーマ王国前王の子であります、レイアと申します。」
「初めまして、レインです。今回はどのような用件でしょうか。」
レインは少し誤解をしていた。シーマ王国からの交渉だと思っていたのだ。
「レイン様、父に会わせてください。」
「シーマ王国との戦争の事でしょうか、前王の返還などでしょうかね。」
「違います、シーマ王国でもう父の居場所はありません。私も出来ましたらここトートに住みたいと思っています。」
「えっ・・・あのーシーマ王国とは今トリスタンと戦争中ですよね。」
「えっ、戦争は終わったのではないんですか。」
「「えっーーーーー。」」
大きな誤解であった。シーマ王国はトリスタンと講和を結んだと発表していたのだ。
「ででではまだ戦争中なのですか。」
「はい、シーマ王国からは何も言ってきていません。」
「・・・・・・・」
「レイア姫、お父上にお会いしてみますか。」
「よよろしいのでしょうか。」
「いいですよ、シーマが戦争していないというのならばそうなのでしょう。」
「お父様ーー、」
畑仕事をしていた前王であるルドルフ3世は聞き覚えのある声に顔を向ける。
「おおーーーーー、レイアーーーー。」
幸せそうに抱き合う親と子を見てレインは一人納得している。(うんうん)
前王とレイア、レイン3人はレインの館に場所を移し、レイアがこれまでのシーマ王国の経緯を説明していた。
「なるほど、宰相の孫が王位に着いたか。」
「はいお父様、皆暗殺を恐れ支持いたしました。」
「レイン殿、余は、いや私はこれまでシーマ王国の政治に興味がなく宰相に全て任せていた。失策であった。だがこの地で捕虜になり民との生活をするようになり考えが少しは分かるようになった。シーマは貧しい、だがまだ救える。この地の様に開発を進め豊かになる可能性がある。
こんなこと頼めた義理ではないが如何か民を救ってもらえないだろうか。」
前王はレインに対して頭を下げていた。これまでの前王は人に頭を下げる事等一度もなかった。それがこの地にきて民とふれあい。今までの生活の事を見聞きした。どれだけ悲惨で貧しい生活であったか。一日一食を食べるのにどれだけ苦労していたのか。そしてトートではどれだけ良い生活をさせた貰っているのかを民たちは話したのだ。
「・・・・民の為ならば協力しましょう。」




